2025年9月25日にオフィシャルローンチを果たしたToyota Woven City(以下ウーブン・シティ)。そのメディア向けツアーに参加した。

ウーブン・シティは街の形をしたテストコース。未来のモビリティを開発、実証していく

「モビリティのテストコース」として誕生したウーブン・シティは、静岡県裾野市にあるトヨタ東富士工場の跡地を利用したものだ。1967年に乗用車組立工場として操業を開始した東富士工場は、閉鎖する2020年までの53年間に約752万台のクルマを送り出した。

ウーブン・シティ

転機は2011年の東日本大震災である。トヨタは東北地方を長期的に支えるため、トヨタ自動車東日本(TMEJ)を設立することにした。東北に自動車生産の拠点を設けることで雇用を生み、税金を納めるサイクルを生む。これこそが製造業であるトヨタができるサポートのあり方だと考えた。

TMEJの稼動にともない、東富士工場の生産台数は減少していった。そんななか、2018年に閉鎖が決まり、従業員集会が開かれた。そこでは豊田章男社長(現会長)と従業員が対話する機会が設けられた。ひとりの従業員が勇気を持って手を挙げ、次のような内容の発言をした。

「東北の工場に移ってクルマを作り続けたい気持ちはあるが、さまざまな事情があって行けない、止めざるを得ない仲間もいるため、喜んでは行けない。今後、トヨタとして東富士をどうしようとしているのか教えてほしい」と。

社長は「未来の実証実験都市にする」と答えた。答えた時点で具体的な構想があったわけではなかったという。目の前で苦しんでいる人たちをどうにか前に進ませたい。工場の歴史をどうやったら未来につなげていくことができるか。そう考えた中で浮かんできたのが、実証実験都市を作ることだった。更地にして終わり、にはしたくなかった。

ウーブン・シティ

2020年1月のCES2020でウーブン・シティの構想が発表されると、同年12月に東富士工場は閉鎖。冒頭に記したように、2025年9月25日にオフィシャルローンチを果たした。以来、フェーズ1と呼ぶエリアで実証実験が始まっている。コートヤードを囲むように建物が配置され街を形成。ウーブン・シティを活用して新しいプロダクトやサービスを開発・実証する企業・個人はInventors(インベンターズ)と呼ばれ、主に地上階で活動。2階から上はWeavers(ウィーバーズ)と呼ばれる人たちの住居となっている(ビジターもウィーバーズに含まれる)。

広大な敷地の一角では、2026年のオープンに向けてInventor Garage(インベンターガレージ)の工事が進んでいる。ここは元プレス建屋。インベンターズが発明したものを作り、カイゼンする場所として機能する予定。2025年12月5日には、GR GT、GR GT3、レクサスLFAコンセプトの発表会場としてひとあし早く、新たな人生の一歩を踏み出した。

リノベーション後の旧東富士工場の建屋コンセプトイメージ。

第2フェーズでは第1フェーズと同規模の街をつくる(造成工事中)とともに、人が居住しないエリアを整備する予定だという。インベンターズが発明したものはまず、人が住まないエリアで性能や安全性を検証し、その次のステップとして実際の生活環境で実証を行ない、リアルなフィードバックを得る構想だ。

フェーズ1でオープンした敷地の一角にウェルカムセンターがあり、ここにウーブン・シティの概要を説明する展示物がある。その展示物のひとつが、1891年に特許を取得した豊田式木製人力織機だ。トヨタグループの創始者である豊田佐吉が母の機織り仕事を楽にさせるために発明した織機であり、トヨタの原点である。ウーブン・シティのウーブン(woven)は「織られた」(織る=weaveの過去分詞形)に由来。住人・ビジターのウィーバー(weavers)は「織り手」の意味である。

ウェルカムセンターに展示される豊田式木製人力織機。

街の形をしたテストコースのウーブン・シティでは、さまざまなモビリティを開発、実証していく。トヨタの技能と知見を生かしながら、開発者であるインベンターズと、評価するウィーバーズが協力して未来のモビリティを生み出していく。ウーブン・シティでは、インベンターズとウィーバーズが共創して新たな価値を生み出していく活動を「Kakezan(カケザン)」と呼んでいる。

ウーブン・シティ

信号

できあがったばかりの街に出た。道路は「歩車」が分離されており、車道には電動小型モビリティ(詳細は後述)の専用レーンが設けられている。景観を邪魔する無粋な電柱は見あたらない。信号は常に歩行者側が青になっており、箱形デザインの次世代モビリティ、e-Palette(イーパレット、電気自動車)が近づくと、信号側と車両側が通信を行なうことで信号が変わり、車両側は停止することなく信号を通過できる仕組み。

ウーブン・シティ

信号はスマートポールとなっており、LiDAR(三次元スキャナー)や全方位カメラ、ITSアンテナ、GNSSアンテナなどの機器を搭載して交差点全体の状況をクラウドに上げる役割を担っている。スマートポールの信号機はウーブンシティ内に4ヵ所あるという。

ウーブン・シティ

パーソナルモビリティ(トヨタ)

電動小型モビリティ専用レーンを、Swake(スウェイク)が行き交っていた。トヨタ自動車が開発したひとり乗りの電動小型モビリティで、前1輪、後2輪の3輪なのが特徴。スウェイクは、「揺り動かす」を意味するスウェイ(sway)と「ワクワク」を組み合わせた造語。「自由に安心して楽しく乗れる乗り物」をコンセプトに開発したという。

Swake(スウェイク)

立ち乗りなのでパッと乗り込めるし、服装を気にしなくていい。3輪かつ背もたれがあることで、乗車時・走行時に安定する。また、リーンさせながら走ることで操る楽しみが生まれる。特定小型原付に分類されるので、ナンバープレートは付いているが16歳以上なら免許不要。最高速は20km/h以下(法規)、満充電で30km程度の走行が可能だという。

「免許取得前の若者にモビリティに慣れ親しんでもらい、(免許取得年齢になったら)クルマに乗ってみようかな、と思ってもらえたらうれしい。商品化したいという思いで開発している」と開発者は話していた。

Swake(スウェイク)

サモンシェア(トヨタ)

Summon Share(サモンシェア)はウーブン・シティの住人を対象にした、ロボットによるシェアカー自動配送サービスだ。専用アプリでシェアカーをリクエストすると、「Guide Mobi(ガイドモビ)」と呼ぶ自動走行ロボットがシェアカーを連れてくる。ガイドモビとシェアカーは機械的にはつながっておらず、シェアカーがガイドモビを追従する格好だ。

Summon Share(サモンシェア)とGuide Mobi(ガイドモビ)

ガイドモビは自動運転に必要なセンサーとコンピューターを搭載。車両の四隅に付いているLiDARとは別に後続のシェアカーをセンシングするLiDARを搭載。検出した位置や姿勢の情報から追従するシェアカーの動かし方を計算し、Wi-Fi通信を利用してシェアカーに情報を送る。すると、情報を受け取ったシェアカーは指示どおりに動くというわけ。

Guide Mobi(ガイドモビ)

シェアカーは基本的に、Toyota Safety Sense(トヨタ・セーフティセンス)がもともと備えている機能を使って追従走行を行なう。改造は通信機能に手を入れている程度で、大がかりなコストを掛けずに追従走行が実現できるのがポイントだ。技術的には無人運転も可能だが、実証実験ではスタッフが乗車している。シェアカー自動搬送サービスのほか、工場のヤードで使ったり、空港などの駐車場でお客様のクルマを決められたポイントまで搬送したりする用途などでの運用を視野に入れているという。

スマート・ロジスティクス(ウーブン・バイ・トヨタ)

インベンターズ同士、あるいはインベンターズとウィーバーズが議論する場として機能するKakezan Innovation Hub(カケザン・イノベーションハブ)では、配送プラットフォームのSmart Logistics(スマート・ロジスティクス)について説明があった。

「買い物やレンタルなど、日々の生活のなかでモノを運んだり、受け取ったりするときに生じる義務的な移動からヒトを解放する」のが狙い。スマート・ロジスティクスは、自動搬送ロボットの「Delivery Robot(デリバリーロボット)と、住居に設置された「Smart Post(スマートポスト)」、配送業者などの窓口となる「Logistics Post(ロジスティクスポスト)」で構成。建物内の自由なモノの移動を実証している。

Delivery Robot(デリバリーロボット)

その第一歩として、スマートポストを利用して住民が簡単にモノを受け取れるサービスを提供しているところだ。コートヤードをロの字に囲むように配置された住居棟の地下には、物流専用の通路が張り巡らされている。配送業者がロジスティックポストまで荷物を運搬すると、建物内に配備されたデリバリーロボットが荷物を運搬し、専用エレベーターを使って各階のスマートポストまで自動で配送。スマートポストは住居の内側からもアクセスできるので、居住者は外に出ることなく荷物を受け取ることができる。

物流専用の通路。

時間や場所に縛られずモノが受け取れるのがスマート・ロジスティクスのメリット。配達員の労働負荷軽減にもつながると考えられる。将来的には、モノの移動だけでなく、購入、保管、管理、シェアリング、処分といったモノのライフサイクル全体をカバーするプラットフォームを目指し、開発を進めている。

自律走行ロボット(トヨタ自動車東日本)

トヨタ自動車東日本は、「cocomo(ココモ)」という名の自律走行ロボットを使ってモノの移動価値の検証を行なっている。ココモが生まれたきっかけは、2011年の東日本大震災。東北地方では津波で住宅等が流され、高台への移転を余儀なくされたケースがあった。その結果、新たなモノの移動課題が発生。デリバリーロボットを使うことでこの課題を解決できないかというのが、ココモ開発の動機だ。すでに宮城県女川町で実証実験を行なっている。

cocomo(ココモ)

ココモはスーパーの買い物かごがスッポリ入るサイズ。10kg程度までの荷物に対応するという。上部のLiDARで周囲のマップを作りながら、GPSアンテナなどのセンサーを組み合わせて自分の位置を把握する仕組み。カメラは前後左右に計4個設置。超音波センサーで周囲の障害物を検知し、LiDARと合わせ周囲360度の安全を確認しながら走行する。法規で速度の上限が6km/hに定められているため、最高速度は5.4km/hに設定している。

買い物カゴが収まるスペースが設けられている。

ウーブンシティでは、ココモの開発を加速させるのが狙い。ポイントは3つで、ひとつめは軽量化。宮城県産業技術総合センターと連携して構造の見直しや材料置換、トポロジー最適化や3Dプリンターの活用によりチャレンジしている。

2つめの取り組みは通信が途絶えた際の安全確保。横断歩道を渡るときに通信が途切れてロボットが止まってしまっては交通の妨げになる。そのため、自律的に横断歩道からすみやかに退出する機能が必要になるが、公道では実験しづらいため実証実験のための街であるウーブン・シティで試そうというわけだ。

3つめの取り組みはセンサーフュージョン。建物の間や木の陰など、GPSの電波が届きにくい場所や、目印がない広いエリアなどLiDARでの計測が難しい環境でも、搭載するセンサーの技術を組み合わせることでスムーズに移動させたい。そこをウーブンシティで鍛える考えだ。

ココモはプロジェクターを搭載することで路面にグラフィックを投影することも可能。モノを運ぶ以外の用途については、「住人から意見を聞いて探りたい」としている。

cocomo(ココモ)

上島珈琲店 Woven City店(UCC)

UCCグループは日本で1位、世界で第5位のコーヒー企業だ(2023年度のグループ売上高は3670億円)。「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ」をパーパスに掲げる同社はコーヒーの潜在価値を実証すべく、「上島珈琲店 Woven City店」を開業した。

48席ある店舗内は2つのエリアに分け、実証実験への参加登録者は専用スペースを利用。ここでPCを使ったり、読書したりするシーンをカメラで捉え、AIによる画像解析や参加者自身の主観評価などと合わせ、店舗の環境やコーヒーの香り・味わいが、集中力や作業パフォーマンスにどんな影響を与えるのか調査する。

上島珈琲店 Woven City店

「実験室のような作り込んだ環境ではなく、自然な環境でやるからこそ、いいデータがとれる。そこがウーブンシティのメリット」と関係者。「立てた仮説が実験を通じて証明されれば、コーヒーの新たな価値につながる」と期待を寄せる。

上島珈琲店 Woven City店

自動販売機「HAKU(ハク)」(ダイドードリンコ)

自動販売機で国内飲料売上の8割以上を占める飲料メーカーのダイドードリンコは、商品サンプルやボタン、コインの投入口がない、新発想の自動販売機「HAKU(ハク)」をウーブンシティに11台設置した。街なかにある通常の自販機はときにノイズと捉えられ、邪魔物扱いされることがある。ならば、ノイズを取り払うことで、どこにでも溶け込むことができ、いろんなところに置くことができると考えた。

自動販売機「HAKU(ハク)」

スマホでQRコードを読み込むと、画面にドリンクのメニューが出てくる。商品を選んで決済すると、商品が出てくる仕組み。自販機に触れる必要はない。写真の自販機のように壁と一体にして目立たなくすることもできれば、広告スペースとして利用することも可能だ。ウーブンシティでの実証実験では不特定多数の人に利用してもらうことを想定していないため、ダイドー専用のスペースに設置された2台のハクは白一色。他の9台は人が近づくとDyDoの文字が浮かび上がって自販機であることを知らせる仕掛けになっている。

自動販売機「HAKU(ハク)」

実証実験の目的はまず、自動販売機として間違いなく機能するかどうか、動作検証が第一。問題なく動き、ユーザビリティが悪くないことがわかれば「勝ち」だという。「インベンターズやウィーバーズの方からさまざまな意見をちょうだいできるのがいいところ」と、ウーブンシティでの実証実験を評価している。

パーソナライズされた機能的空間(ダイキン工業)

ダイキン工業は、心身ともにより快適で健康に過ごせる空気・空間づくりを実現する新たな空調システムの実証実験を始めた。「パーソナライズされた機能的空間」は、温度や湿度、映像や音、香りが制御できるようになっている。

現状、コンテンツは2つ。「集中」と「リラックス」で、前者の場合は涼しく静かな高原のような空間を、後者の場合は南国の陽気な香りに包まれた空間を創る。感じ方は人それぞれなので、主観的な気分に加え、バイタルデータのセンシングで取得したデータを利用し、温度や湿度、映像や音、香りなどを連動させてコントロール、その有用性を検証する。ウーブンシティの住人が対象で、“空間”は予約のうえひとりで利用する。

パーソナライズされた機能的空間

また、住居棟では花粉が住居内に侵入する際の経路や環境条件を明らかにするとともに、花粉の侵入を抑え、侵入した花粉を極限まで除去できる「花粉レス空間」の実証実験に取り組んでいる。

ウーブン・シティを舞台に新しいプロダクトやサービスを開発・実証するインベンターズと、プロダクトやサービスを試してフィードバックするウィーバーズの活動は始まったばかり。インベンターズとウィーバーズが交流することでカケザンの発想が生まれ、それが新しい価値に結びつくのはまだ先の話だろう。ウーブン・シティの現在に存在するのは、「未来の当たり前」の原初のカタチと、「自分以外の誰かのために」新たな価値を生み出そうとする前向きなムードである。