北米トヨタからの依頼もこなす一流デザイナー

カスタムのルーツにあるのはオプション誌だった!

アメリカのカスタム業界で「陰の仕事人」として知られる、ジョン・シーバル(Jon Sibal)という人物の名を聞いたことがあるだろうか? インスタグラムのフォロワー数は26万人を数え、そこには彼がこれまで携わってきたカスタムカーの写真が数多くポストされている。

ジョンの職業は、CGアーティスト。SEMAなどの大規模なカーショーに車両を出展するメーカーやビルダーの要望に応じて、オリジナルのワイドフェンダーをデザインしたり、車体のカラーリングを提案したりすることが主な仕事だ。

北米トヨタがSEMAショー2024で発表した「GR86ラリーレガシーコンセプト」(撮影:平野 陽)
(CAP)「GRラリーレガシーコンセプト」のカラーリングもジョンがデザインしたものだ。

クライアントはアメリカの企業ばかりとは限らず、日本のビルダーとも協業。代表的な例が、東京オートサロン2025に出展されたリバティウォークのランボルギーニ・ミウラだ。

本物のミウラをワイドボディにしたインパクトもさることながら、その出来栄えの素晴らしさが評価され、国際カスタムカーコンテストのインポートカー部門で最優秀賞を獲得した。

また、グランツーリスモ7にジョンがCGデザインを行ったレーシングマシンが登場するなど、仕事の幅は多岐に渡っている。

今回、そんなジョン・シーバルにインタビューを申し込んだところ、「OPTIONの取材ならもちろん!」と快諾してくれた上、カリフォルニアにある自宅兼アトリエに招いてくれた。謎に包まれた「ジョン・シーバル」という男の仕事やキャリアについて、自らの言葉で語ってくれたのである。

ジョンが最初に案内してくれたのは、仕事場ではなくガレージ。シャッターが開くと、RWBのワイドフェンダーを備えたポルシェ964が2台、姿をあらわした。

黒の1台は友人のクルマとのことで、ジョンの愛車は明るいグレーの方。当時ベースの状態はあまり良くなかったそうで、RWBの中井啓さんはフェンダーの施工が可能かどうか自宅に確認しに来てくれたそうだ。

ガレージの中には工具が収められたキャビネットが整然と並び、壁にはかつてジョンが製作したBMWのチューニングカーを取り上げた雑誌の切り抜きが飾られていた。

正直なところ、CGアーティストとはコンピュータの前ばかりにいて、リアルの世界に興味のない人なのかと勝手に人物像を描いてしまっていたのだが、ジョンが自分でクルマをいじり、しかも専門誌に何度も取材されていることを知って、そんな先入観もガラガラと崩壊。ジョンが生身のカーガイなのだと、ガレージを見て理解することができた。

若い頃からオプションが愛読書だというジョン。バックナンバーも何冊も保管している。
懐かしいオプションビデオもアーカイブ。愛車のプレリュードが一瞬映ったシーンは、これまでも何度も見返しているそうだ。

「私は昔から日本車も大好きで、それこそ若い頃はオプションを読みまくってました(笑)。前に乗っていたプレリュードは、パームデールのドラッグイベントに行ったときに、ほんのちょっぴりビデオオプションに映ったんですよ! あれから30年経って、こんな風にオプションの取材を受けることになるなんて感無量です」。

ガレージの次にジョンが案内してくれたのが自宅のリビング。片隅にあるマガジンラックには、年季の入った大量のアクション・コミックス(DCコミックスが出版した漫画雑誌)が置かれていた。きっと貴重なコレクションなんだろうなと何気なく見ていると……

「これ、私が絵を描いたんですよ」。

えっ?とこちらは呆気に取られてしまい、続きの話が耳に入ってこなくなったのだが、よく見ると表紙のタイトル右上に、確かに“JON SIBAL”と印刷されている。

聞けば、ジョンは90年代の初頭にアメコミの制作会社である「イメージ・コミックス(Image Comic’s)」の共同創設者ロブ・ライフェルド(Rob Liefeld)に見出され、同社に就職。プロのコミックアーティストとしてのキャリアをスタートさせたそうだ。ちなみにロブ・ライフェルドとは、日本でも映画が大ヒットした「デッドプール」の共同制作者として知られるアメコミ界の大物アーティストである。

コミックの制作現場は鉛筆で下書きをする人、ペン入れする人、色を塗る人と役割ごとに分業化されており、ジョンは主にインクで主線を入れる「インカー」を担当。イメージ・コミックスはアメコミ界における独立系の制作会社の先駆けでもあり、マーベルコミックスやDCコミックスなどの出版社と個別に契約を結んでいた。そのためジョンはスーパーマンやスーパーウーマン、スパイダーマン、X-MEN、アベンジャーズなど、版元の垣根を越えてさまざまな作品に携わってきたのである。

「子どもの頃はボルテスVやマジンガーZなど、日本のロボットアニメを観るのが大好きでした。合体ロボに通じるものをクルマにも感じたんでしょうね、ミニカーの色を自分で塗り変えたりして、よく遊んでいたのを覚えています。絵を描くことも好きでしたが、正直才能はあまりなかったと思います(笑)。ただ、とにかく描いて描いて描きまくりました。ワークハード。それが私の原点です」。

まさかケント紙にフリーハンドで線を引き、世界的に有名なキャラクターたちに生命を与えることがジョン・シーバルの原点だったとは。再び先入観を打ち砕かれた気持ちになったが、彼の表現力を培ったのが、日本人も大好きな漫画だったことを知って、さらに親近感が湧いてしまった。

そして、いよいよ彼が普段仕事をしている自宅2階の部屋に入らせてもらった。

デスクにはMacと3台のディスプレイが置かれ、周囲にはアメコミのフィギュアやアートワーク、ミニカーなどが数多く置かれている。これぞまさしくCGアーティストの仕事場!という感じで、これまで聞いてきた彼の半生や価値観を凝縮したような空間だ。

まずは彼が過去に手がけたカスタムカーの3Dデータを見せてもらうことに。最初に見せてくれたのは、湾岸ミッドナイトの悪魔のZをモチーフに仮想空間上でデザインしたダットサン240Zだ。

SEMA2024のENEOSブースに展示された240Z。悪魔のZをモチーフにジョンがデザインしたオリジナルのワイドフェンダーを装着(撮影:平野 陽)

もともとはプライベートで遊び感覚で作ったデザインだったそうだが、レンダリングを見て、ぜひ実車化したいという友人があらわれ、実際に製作された車両がSEMAショーに出展されている。

次に見せてもらったのが、フロリダのプロショップ「グーイチ・モータース」が製作したホンダ・CR-X。我々も実車を撮影したことがあったため、よく知っている車両だ。

そのCR-Xはフロントバンパーと前後のワイドフェンダーをジョンがデザインし、V6ツインターボとAWDを組み合わせた弩級のモンスターマシン。我々が撮影した時には単色のカラーリングだったが、SEMAの後に開催されたPRIショーではレーシーなグラフィックをまとっていた。それもジョンがデザインしたものである。

実際のボディパーツが出来上がるまでの役割分担や仕事の進め方は案件ごとに少し異なるそうだが、ジョンが関わるのはデザインのパートのみ。CR-Xの場合は車体を3Dスキャナーでスキャンする作業はグーイチ・モータースが担い、データをジョンに提供した。

ジョンはそれを元にバンパーやフェンダーの形状をコンピュータ上で決めていくのだが、どれくらい外に張り出すか、車高を下げたらタイヤとのクリアランスがどれくらいになるかなど、自由自在にシミュレーションできるのもCGデザインの利点である。

完成したデータには座標が埋め込まれているので、CNCで型を削り出したり、3Dプリンターで出力することが可能。CR-Xは「イルマエゼティック」というカリフォルニアにある3Dプリントの専門業者に依頼し、パネルとして出力してもらった。

「グーイチ・モータースには一度デザインしたデータを見てもらって、フェンダーをもっとワイドにとか、バンパーのシェイプをこんな感じにとか、相談と修正を繰り返しながら作っていきました。カラーリングもまずはこちらからの提案を見てもらって、イメージを擦り合わせていったんです。一発勝負じゃないところがデジタルの利点ですね」。

ジョンが主に使用しているアプリケーションは、デザインするときが「ブレンダー(Blender)」、完成データに背景を合成するときが「キーショット(KeyShot)」。もともと漫画の書き手だったジョンは、それら3Dソフトの知識やテクニックは、どうやって習得していったのだろうか?

「ぜんぶ、YouTubeで勉強しました(笑)。知りたいこと、学びたいことは、すべてYouTubeで身につけられますよ!」

またも人を食ったようなことを言って、いかにも楽しそうに笑顔を浮かべるジョン。確かにYouTubeは有益なハウツーを知れることもあるが、それが一朝一夕で身につくかどうかは別問題。彼が言うところの「ワークハード」、陰の努力をどれほど尽くしてきたかは、今まで生み出してきたクリエイションの数々から想像するほかない。

最近は実車の仕事だけでなく、ミニカーのメーカーから依頼を受けて、オリジナルのミニカーをデザインする仕事も数多く手がけているジョン。これもまずは3Dプリンターでプロトタイプを作り、のちに型を作ってダイキャストモデルを製作する流れになるそうだ。

そのようにコンピュータでデザインしたものを三次元化する技術が発展したことも、ジョンのようなCGアーティストが活躍できる土壌を育んだとも言えるだろう。

「最も重要なのはパッション。CGも、コミックスも、誰でもできる簡単な仕事というわけではありませんが、パッションさえあれば続けられます。そして、ワークハード(笑)。私はCGアーティストになった今でも紙にインクを乗せる練習を欠かしません。体が覚えるまで練習を繰り返す。それあるのみです!」。

日本から訪れた我々を心から歓迎し、自宅兼仕事場に招き入れてくれたジョン・シーバル。話をしてみると意外なまでに努力家で、叩き上げの人物であることが、よくわかった。

手法はアナログからデジタルに移ったかもしれないが、それでも彼のデザインするクルマは不思議と血の通った魅力に溢れ、クルマ好きの感性に響く。今回、その理由の一端を垣間見れた気がした。

PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

「240Zに人生を注ぐ男の物語」3Dプリンターも武器に進化を続けるガレージビルド

一見すれば、美しく仕上げられたクラシックZ。だがその奥には、3DプリンターとCNC加工が生んだ無数の意志が潜んでいる。日本製のJMCスペシャルヘッドを頂点に、世界各地の技術を束ねたガレージビルド。時間と情熱を積層して完成へ近づく240Zは、旧車という言葉の定義を静かに更新する。

【関連リンク】
Jon Sibalインスタグラム
https://www.instagram.com/jonsibal/