連載

自衛隊新戦力図鑑

ウクライナで開発された特殊車両

ウクライナ戦争の開戦からもう4年が経過した。ウクライナ人の多くは2014年のクリミア併合を“侵略の始まり”と考えているため、彼らにとっては12年にもなる。この期間、ウクライナの戦場は各種兵器の格好のテストフィールドとなっている。欧米もタダで兵器を供給しているわけではない。貴重な実戦データを収集しているのだ。ウクライナ側もしたたかなもので、ドローンをはじめとする国産兵器を開発・実戦投入し、海外への輸出を行なっている。

こうしたウクライナ製装備のひとつが今回紹介する水陸両用・全地形適応車両「SHERP(シェルプ)」だ。今回、筆者は首都キーウ郊外にあるSHERP本社工場を訪れる機会に恵まれた。本車両について、日本でもすでに紹介している媒体はあるようだが、実際に現地まで赴き、試乗できたのは初めてではないだろうか。

SHERPは側面にドアがなく、車体の前後から乗降する(写真/飯柴智亮)
コックピットは2席あり、運転席は左側。ステアリングホイールは無く、左右それぞれのタイヤと連動した2本のバーを前後させて、タイヤの速度や前後進を操作する。戦車のような操縦方法であり、戦車同様に超信地旋回(左右のタイヤを逆進させ、その場で360°回転すること)もできる(写真/飯柴智亮)

水面から一気に陸上へと駆け上る登坂力・走破性能

小河川を渡河するSHERP。ロシアやウクライナ北部にかけては湿地帯が多く、また春の雪解けシーズンには大地が泥濘化することでも知られている。高性能な全地形適応車両は、こうした国土ゆえに誕生したのだろう(写真/SHERP社)

工場に併設されたテストコースで試乗させてもらったが、その走行性能は「まさに全地形車両!」というものだった。ずんぐりとした外見ながら、なんと傾斜35°の傾斜を乗り越えていく登坂力を発揮する。シートに座っていると、ほとんど垂直に感じる角度だ。横転角度も最大35度まで対応している。そして、砂漠を想定した砂地や、ぬかるんだ沼地などのコースも、SHERPは問題なく踏破してみせる。

社長自らハンドルを握ってくれたのだが、彼は「沼地こそ、このクルマのもっとも得意とする地形なんだ」と語る。沼地を経て、メインイベントとなる湖沼へと進んでいく。水に入った直後は車体が沈み、怖さもあったが、すぐに巨大タイヤが浮袋となって水面走行を開始した。スピードはお世辞にも速いとは言えないが、安定している。

湖沼を航行するSHERP。水面に入った瞬間に大きく沈み込むため、怖さもあったが、その後は安定したものだった。タイヤのパターンで水を掻いて進む(写真/飯柴智亮)

もっとも驚いたのが水面からの上陸の瞬間だ。一般的に水陸両用車両は、ビーチのような、なだらかな地形を必要とする。だが、SHERPは傾斜や多少の障害物もお構いなしに、水面から陸地へと這い上がってみせた。

これまでにない水陸両用車両

車体は軽量なアルミおよびドコール鋼(高強度冷間成型鋼)で構成されるが、防弾性能はない。よって前線でのAPC(装甲兵員輸送車)やIFV(歩兵戦闘車両)のような使い方はできない(そもそも戦闘用に開発された車両ではない)。いっぽうで自然災害への救援で大きな活躍が期待できるかもしれない。東日本大震災では災害発生当初、津波で冠水した地域の救援に大きな困難があったことは記憶に新しい。

意外に車内は広い。キャビンのシート配列次第では、左の写真のように最大で7席(左右3席+正面中央1席)を設けることもできる。また、右の写真のようにシートをなくして担架を運べる救急車型もある(写真/飯柴智亮)
SHERPはバリエーションも豊富であり、カスタムオーダーも受注可能だという(写真/飯柴智亮)

SHERP社は本社の輸出にも積極的だ。ウクライナの友好国である日本にも、要請があればいつでも輸出できると社長は話してくれた。筆者はかつて米陸軍に所属し、その後も各国でさまざまな車両に乗った経験があるが、本車両は今までにないタイプの水陸両用車だと感じた。軍や警察のほか、消防や災害対応当局、または観光用としても、軍民両面で活躍するポテンシャルを持った車両だと言えるだろう。

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