CES2026から見える変化

CES2026の会場の様子。

「中立的」な立場から、企業価値という客観的な尺度から自動車各社を調査し意見を述べることがアナリスト的視座である。アナリスト的視座に基づく日本車進化論とは、単なる技術競争の勝敗を論じるものではなく、事業モデルの持続可能性を軸に進化の方向性を検証する試みである。

米国のテクノロジー見本市「CES2026」における象徴的な変化は、ショーフロアから完成車両の姿がほぼ消失したことであった。その背景にあるのは、自動車のソフトウェア化、すなわちソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)への構造的進化である。

半導体やAIを中心とするSDV技術のトレンドを主導しているのは、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、NVIDIA、クアルコム、テスラといった米国テックジャイアントである。完成車両は従来の自動車中心のウェストホールから離れ、新設されたNVIDIA主導の「CES Foundry」へと配置転換され始めた。

CES Foundryは製品展示の場というよりも、AI、半導体、ソフトウェアの進化がもたらす次世代産業構造を構想する場である。この配置転換は、自動車がAIを中核とする産業・社会構造の一要素として再定義され始めたことを示唆している。

AI化によって大きく進化する自動運転技術

NVIDIAのHPより「NVIDIA が自動運転におけるロングテールの課題に対処するために設計されたオープン VLA モデルを初公開、Alpamayo ファミリーには、AV 開発向けのシミュレーション ツールとデータセットも含まれる」という。

その代表例が、AI化によって大きく進化する自動運転技術である。NVIDIAは自動運転開発基盤「アルパマヨ」を正式発表した。アルパマヨは、VLA(Vision-Language-Action)を基盤とするオープンソース型の自動運転開発プラットフォームである。

自動運転は大きく、ルールを人間が設計する「ルールベース型」と、認知・判断・計画をAIモデルに委ねる「エンドツーエンド(E2E)型」に分けられる。ルールベース型の代表例はグーグル傘下のウェイモやモービルアイである。これらはロングテールシナリオ(予測困難なエッジケース)への網羅的対応に限界があり、物理的拡張には膨大な時間とコストを要する。

一方、E2E型はAIに判断を委ねるため、なぜその行動に至ったのかというリーズニング(推論過程)がブラックボックス化しやすい。汎用性は高いものの説明可能性の不足が社会受容性を制約し、規制当局による監督も困難となるため、社会実装には課題が残る。

この二項対立を乗り越えることが、自動運転技術のスケール化には不可欠である。NVIDIA、テスラ、モービルアイはいずれも異なるアプローチでこの課題に取り組んでいる。

NVIDIAのアルパマヨは、推論機能をAIモデルに直接統合しつつ、判断理由の説明可能性を高める設計思想を採る。同時にオープンソース化により、広範な開発者が参画可能な環境を整備する。

NVIDIAに依存せざるを得ないという現実的制約を除けば、誰もが比較的容易に自動運転ソフトを開発しやすくなる。自動運転ソフトの開発ハードルは大きく低下し、自動運転の性能を競う技術競争から、早く量産体制を構築し社会実装を実現するスケールアップ競争へと移行する大きな転換点となる。

最新ソフトウェア搭載の自動運転テスラを体験

FSD Ver.14.2を搭載したテスラの「サイバートラック」。最新のFSDは自律的に迂回行動を選択した。

筆者はCESを視察した後に、E2E型の代表例であるFSD Ver.14.2を搭載したテスラの「サイバートラック」を米国で試乗した。

FSD Ver.14.2の構造的変化は、認知・判断・行動を単一の大規模E2Eモデルで処理する方式から、理解・予測・判断という機能階層を備えたE2Eへ進化した点にある。その結果、リーズニングの可視化が可能となり、周辺環境の意味理解および将来予測能力が強化された。

試乗において、走行性能の飛躍的向上は明確であった。「Mad Max」と名付けられた攻め型の運転人格が追加される一方で、「待つ」「譲る」「迂回する」といった状況理解に基づく挙動の精度が顕著に向上している。

リーズニングの可視化は、FSDを将来的にロボタクシーとして運用する前提条件ともなる。推論過程の検証可能性は責任の所在と監視可能性を高め、社会受容性向上に資する。制度設計や法整備の課題は残るが、ハンドルやペダルを持たない2人乗りの「サイバーキャブ」は2026年4月に生産開始予定である。

UberがCES 2026の開催にあわせて、自動運転ロボタクシーの新型車両を発表した。Uberと組むのは、新興EVメーカーのLucid、自動運転技術をもつNuroだ。

ウェイモがフリートを自社保有し遠隔監視を含む運営を担うモデルに対し、テスラはサイバーキャブを個人へ販売しロボタクシー運営に参加させる構想を描く。これは「Airbnb」に類似したネットワーク型ビジネスモデルである。

この構想が公共交通政策や社会制度の枠組みにおいて受容されるかは不透明である。しかし、ロボタクシー事業の潜在価値を抜きにして現在のテスラの企業価値は説明できない。

テスラの時価総額は約234兆円と、トヨタの約60兆円の約4倍に達する。この差異の主要因の一つが、FSDおよびロボタクシーに代表されるソフトウェアとネットワーク価値にあると考えることは合理的である。

ソニーとホンダによるSONY-Honda MobilityのAFEELA。

仮にBEV販売からの価値が30兆円〜40兆円規模にとどまるとすれば、残る約200兆円はソフトウェアおよびネットワーク価値への期待が織り込まれている可能性が高い。自動車がAIを中核とする産業・社会構造の一要素として再定義されるとき、凄まじい企業価値を創出し得るパワーを持つということである。