連載

自衛隊新戦力図鑑

装甲車両もハイブリッドの時代に

「テレックス5S HED」はシンガポールの防衛大手STエンジニアリングの8輪装甲車シリーズの最新モデルだ。日本では知名度の低い会社だが、同系統の「テレックス2」はアメリカ海兵隊の最新水陸両用車コンペの最終候補に選ばれた実績もある。「テレックス5S」は2024年に発表されたモデルだが、今回さまざまな次世代機能を搭載し、お披露目された。

テレックス5Sの側面。なお、テレックス5Sの「5S」は「5番目」ではなく、5つのコンセプト:Smartness(スマート)、Superiority(優位性)、Sustainability(抗湛性)、Survivability(生存性)、Serviceability(保守整備性)を示している。

次世代機能のひとつが、ハイブリッド電気駆動(HED)システムの導入だ。これにより本車は高い発電能力を有する。450キロワット時(kWh)の発電能力があり、これは従来の装甲車両の10~20倍にあたる。レーダーやコンピュータ、先進的通信システムなど、電力を消費する装備が増えたことが背景にある。

車体上部の四角い物体は対ドローン用レーダーだろう。近年の装甲車両は、電力を消費する搭載機器が増えている(写真:筆者)

また、ハイブリッド化にあわせて、エンジンやトランスミッションが小型化し、内部容積は15%拡大した。これにより、車内は運転席から後部までが一つの大きな空間となった。車長とドライバーは並列座席となり、3枚のワイドスクリーンを通して、目標や障害物などの情報を共有できる。また、歩兵部隊も下車前に外部の状況を把握しやすく、乗員との協働性が大きく向上している。

車内は運転席まで一つの空間になっている。自衛隊車両などの内部を見たことがある人はご存じと思うが、これまでの装甲車両の運転席まわりはエンジン等のため、かなり窮屈な構造だった(写真/筆者)
運転席は並列座席で大型のスクリーンが車外の様子を映し出している。座席回りも広々としており、座ってみるとゲームセンターの筐体のようだった。操縦桿もボタンなどの付いたゲーム・コントローラーのようであり、担当者いわく「若い隊員が直感的に操作できるよう、このデザインを採用した」とのこと(画像/STエンジニアリング)

状況認識から無人機運用までAIがサポート

もうひとつの次世代機能がAI統合型運転席(AIコックピット)だ。複数の AI エージェントがバックグラウンドで動作し、乗員をサポートする。たとえばサーベイランス・エージェントの場合、全周360度カメラの映像から人間や車両、ドローンなどを自動検知し、スクリーンに表示する。また、車両状態の確認や最適なドライブモードを提案する“コパイロット(副操縦士)”のようなAIエージェント「Nova」も搭載されている。なお、Novaへの命令は音声入力で行い、実際に担当者がNovaと会話する様子を披露してくれた。

また、本車は無人機(UAVやUGV)との連携能力も特長のひとつだが、それら無人機との連携でもAIが大きな役割を果たしている。単一のインターフェースを通して複数の無人機を管制可能であり、AIが群れの管理や衝突回避、役割の優先付けなどを実行して乗員をサポートする。本車は無人機の“マザーシップ”として機能するわけだ。

テレックス5Sは車体後部に小型クワッドコプター型ドローンを内蔵し、UGV(無人地上車両)とも連携する。こうした複数・異機種の無人機の管制をAIが支援する(画像/STエンジニアリング)

さて、ドローンの普及や情報通信技術の発展など、装甲車両をとりまく環境はこの数年で大きく変化している。テレックス5Sは、ハイブリッド技術やAI統合により、次世代の戦闘車両に必要な能力の一端を示しているといえるだろう。

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