小田原市でレベル4を目指す実証を開始

本田技術研究所は2026年2月、神奈川県小田原市で自動運転技術の公道検証を開始した。量産車向けのADAS(先進運転支援システム)であるホンダセンシングシリーズや、Helm.aiと開発するE2E(エンドツーエンド)の次世代ADASとは別のシステムだ。将来は路線バスの代わりにホンダの自動運転車が走っているかもしれない。

公道検証を開始したのは、高精度地図を使わずに主にカメラで周辺環境を認識するシステムだ。歩行者などの行動の意図理解や動きの予測、インタラクティブな交渉や譲り合いもできるCI(Cooperative Intelligence、協調するAI)も搭載する。

小田原市内でCI自動運転の車両を走らせる。初期の実験車両はCR-Vだ。

CIはホンダ独自のAI(人工知能)だ。生成AIが人間のように応答することはよく知られているが、人間からのインプットや働きかけがなければ応答できない。ホンダのCIはAI側から人間に働きかけて、その反応を踏まえて次の行動を決めることができるのが特徴だ。話題のE2E(エンドツーエンド)のAIとは違うが、「交渉や譲り合いなど賢い動きができる」と本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニアの安井裕司氏は自信を見せる。

まずはCR-Vをベースにした実験車両を走らせるが、あくまで技術実証のためで将来の移動サービスまでCR-Vで提供するわけではない。CIを使った自動運転そのものは搭載する車両を限定しておらず、狭い住宅地でも走りやすい軽自動車や、より多く人を載せられるバンやバスにも搭載することを想定している。

CIを使ったカメラベースの自動運転技術は、これまでにも茨城県常総市や栃木県芳賀町などで実証実験を行なっている。今回公道検証を始める小田原市とは2025年3月に協定を締結し、同年10月ごろから公道検証のためのデータ計測などを実施してきた。

CI自動運転に必要なセンサーを搭載した実験車両。カメラベースのシステムだが、今回はLiDARも使用する。

レベル4と時速60kmに向けたステップ

2027年に向けて、小田原市の橘地域にある工業団地(西湘テクノパーク)の周辺から走行エリアを順次拡大し、法定速度の範囲内で最高速度を上げていき、レベル2の自動運転で走行できることを確かめてからレベル4にステップアップする。走行エリアも、橘地域から国道1号を通ってJR国府津駅まで広げたい考えだ。こうしたルートは既存のバス路線とも重なり、バスドライバーの確保に苦労する小田原市も期待を寄せている。

小田原市はCIを使った自動運転の速度域を広げ、認識能力を向上するためにシステムを鍛えるフィールドという位置付けだ。交通量が多く流れの速い国道や県道から、すれ違いがギリギリになる住宅地、起伏の多さ、隣町の箱根に向かう山道など、さまざまな環境がある。

工業団地の西湘テクノパーク周辺で実験車両を走らせる。法定速度の範囲で速度を上げていき、国府津駅や橘団地にもルートを広げていく。

これまでCI自動運転は、バス停や駅まで移動する負担が大きい人たちを助ける低速のラストワンマイルの移動を主なターゲットにしており、時速20km程度で実証し、時速40kmまで速度を上げる計画だった。既存の公共交通機関ではカバーできない短距離移動をまかなうモビリティとして国土交通省もグリーンスローモビリティを推進しており、ホンダもそれに対応する考えだった。

ただ、ラストワンマイルのモビリティは、バス停や駅など乗り継ぐ公共交通機関がある方が効果を発揮する。また、低速でも成立するのは短距離だからこそだ(低速で長距離を移動するのは快適さや効率で劣る)。公共交通機関の存続が難しくなっている昨今では、低速のラストワンマイルモビリティよりも、乗用車やバスのような速度で移動できるモビリティの需要が高まっている。そこで、一般道の上限である時速60kmまでCI自動運転の速度を上げることを決めた。

2027年に実用化するため、LiDARを採用

自動運転の速度域を広げる上で必要なのは、より遠くまでセンサーで見ることだ。CI自動運転は望遠タイプや広角タイプのカメラを組み合わせて車両の周囲360度を監視するが、傾斜地の多い小田原市のような環境では、走路や物体までの距離をカメラのみで正確に把握するのが難しい。路面の勾配に対応できる画像認識技術も開発しているが、2027年にレベル4の自動運転を実現するには、LiDARをサブのセンサーに使うことが確実だと判断した。

LiDARを新たに採用したが、カメラが周辺監視のメインのセンサーであることは変わらない。カメラをメインにするのは、モビリティとして、移動サービスとしてのコストを抑えるためだ。高精度地図を使わないのも、メンテナンスのコストを考慮してのことだ。再開発など自動運転車向けのインフラ整備に頼らず、カメラをメインにどの町でも走れる自動運転車があれば、運転に不安のある人も出かけやすくなって生活が充実し、地域も活性化していく……ホンダはそんなレトロフィットなスマートシティを思い描いている。

LiDARは前方監視用センサーのサブ。メインはあくまでカメラだ。