連載

自衛隊新戦力図鑑

海洋観測艦は何を「観測」するのか?

「海洋観測」と聞くと学術・研究目的を想像するが、海上自衛隊の海洋観測艦は何を観測する船なのだろうか? 海洋観測艦は、水温や水質、潮流、塩分濃度、また海底の地形や地質といった海洋情報の調査、データ収集を任務としている。こうした情報は、潜水艦の運用や対潜水艦戦、また機雷戦にとって必須の情報だからだ。では、具体的にどんな影響があるのだろうか?

海洋観測艦は、景勝地(海岸)に由来した名前が与えられる。「あかし」は明石海岸に由来する。既存の艦には「しょうなん(湘南海岸)」や「にちなん(日南海岸)」などの名が与えられている(写真/海上自衛隊)

まず、理解しておきたいのが、海中では音波が唯一の探索手段だということだ。地上では近距離なら目視(可視光)、遠距離ならレーダー(電波)で周囲の状況を把握するが、海中ではどちらも減衰が激しく遠くまで届かない。そこで潜水艦や機雷など海中の物体を探すため、ソナー(音波)が用いられる。

ソナーには、目標の音を検知するパッシブ式と、こちらから音を出して目標からの反響音を捉えるアクティブ式の2種類があり、反射してきた音波の位相(波形の山・谷)の変化などから位置や方位を探ることができる。理屈としては電波を発して反射波を捉えるレーダーと似ているが、音波による探知はちょっと厄介だ。電波と違い、海中の音波は屈折するからだ。

側面から見た「あかし」。艦尾に観測機材を海中におろすためのスタン・シーブ(滑車台)のようなものが確認できる(写真/海上自衛隊)

音波はなぜ屈折するのか

海中の音は水温・深度(水圧)・塩分濃度が上昇すると、速度が上昇する。そして音は、音速の速い側を避け、遅い側へ曲がる性質がある。単純化した例を挙げると、水温が一定な場合、海中に発した音波は水圧による影響で上向きに屈折する。一方で、水温が一気に低下する水温躍層(サーモクライン)に接した音波は、温度変化が水圧の影響を上回ることで下向きに屈折する。こうして音波が届かない「シャドーゾーン」が生まれ、探知側にとっては死角に、潜水艦にとっては探知を避ける逃げ場となる。

海中での音の伝播を図にしてみた。水温が一定であれば、水圧上昇(音速上昇)を避けて音は上向きに屈折する(①)。低水温のサーモクラインに接すると、急激な温度低下(音速低下)が水圧上昇(音速上昇)の効果を上回り、音波は下向きに屈折する。こうしてシャドーゾーンが生まれる(作図/筆者)

また、海底地形も音波の伝播に影響を与える。複雑な海底地形による音波の反射・散乱はもちろん、海山など大きな障害物の背後には音波が届かない。海底の地質が硬い岩石ならば反射は強く、泥や粘土質では吸収されて弱くなる。これらをうまく活用すれば、潜水艦の隠密性はさらに高まるだろう。潜水艦は自動車や飛行機と違い、外を「見る」ことができないため、事前の海洋観測の情報が頼りとなる。

このように海洋観測艦がもたらす情報は、潜水艦・対潜水艦の両方にとって不可欠の情報をもたらし、作戦立案の決定的な要素となる。これは海中に設置する機雷についても同様のことがいえるだろう。武装をもたない地味な船ながら、海洋観測艦は海の防衛に大きな影響を与える存在なのだ。

近年、沖縄周辺では中国軍の海洋観測艦艇の動きが活発だ。2024年や2025年には、たびたび636A型測量艦が確認されている。彼らもまた自国の潜水艦作戦のために情報収集を行っている(写真/統合幕僚監部)

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