人工骨材「Rising Sand(ライジングサンド)」で、アフリカに持続可能な道路網を築く

みなさんは、いま、砂が世界的に不足・高騰しているということをご存知だろうか。アスファルトやコンクリートに資源として使われる砂や砕石は、世界的な建設ラッシュに伴って需要が増しているのだが、環境破壊を考慮して採掘の禁止や制限が行なわれている。そのため、水の次に利用される天然資源と言われる砂の価格が、近年はどんどん高騰しているそうだ。

PathAhead(パスアヘッド)はそうした社会課題を解決するべく、ホンダが推進する新事業創出プログラム「IGNIITION(イグニッション)」から生まれたスタートアップである。

イグニッションは、従業員の独創的なアイデアや技術を社会課題の解決に繋げることを目的に2017年に社内で開始され、2023年からは対象を社外にも拡大。これまでに視覚障がい者向けナビゲーションシステム「Asirase(あしらせ)」や、マイクロモビリティ「Striemo(ストリーモ)」、そして昨年の「UMIAILE(ウミエル)」などが起業を果たしており、PathAheadはその系譜に連なる。

ホンダから新スタートアップ「UMIAILE(ウミエル)」誕生。目指すは小型無人ボートによる「海の見える化」

ホンダの新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」から、またひとつ社会課題に挑むスタートアップが誕生した。その名は「UMIALIE(ウミエル)」。創業者の板井亮佑氏は、元ホンダの電動モビリティ・ロボット開発者。高速で水上を自立航行する小型無人ボートにより、海洋データを収集・提供する事業をスタートする。

代表取締役CEOを務める伊賀将之氏は、本田技術研究所で10年以上にわたりクルマのボディに関する金属材料の研究開発に従事してきた。転機となったのは、若手・中堅社員が集まり自由闊達に議論するホンダ伝統の「ワイガヤ」だという。そこで出た「今後の成長市場はアフリカ」「砂漠の砂を利活用する技術がある」という意見を結びつけ、「砂漠の砂で道路を作れば、アフリカにおける自由な移動の喜びを実現できる」と着想したそうだ。

PathAheadの代表取締役CEOを務める伊賀将之氏。
伊賀CEOは2012年に本田技術研究所に入社、23年には新設された材料研究センターに異動。そこで今回の事業を思いつくきっかけを得た。

「イグニッション」では、社内外から事業開発や起業の経験者を講師として招き、講演やワークショップを通じて、新事業開発に必要な能力を磨く「イグニッションスタジオ」というプログラムも設けられている。伊賀氏はそこで実践的な起業の知識を習得。さらに現場・現物・現実を重視する「三現主義」に基づき、自らアフリカのケニアなどへ足を運び、現地の課題を肌で学んできた。

「高い耐久性」「低コスト」「優れた調達性」を兼ね備えたライジングサンド

アフリカをはじめとする開発途上国では、未舗装路の多さや道路の損傷が原因で、激しい渋滞が常態化しており、先進国の3倍以上にもなる輸送コストが発生している。実際、2023年に設立されたホンダのガーナ工場でも、雨天時にはエントランスがぬかるみ、部品搬入に支障をきたす問題が発生したという。

2023年に設立されたホンダのガーナ工場だが、向上前の道路は未舗装のため、雨が降るとぬかるんだ状況に。

ちなみに、アスファルトやコンクリートなどをつくる際、セメントや水と混合する砂のことを「骨材」という。現地で用いられる骨材は比較的安価な天然の砂などを用いているのだが、品質が不安定なため、寿命はわずか1〜5年と短く、すぐに路面が損傷してしまうのが現状だ。

こうした切実な課題に対するPathAheadのアンサーが、人工骨材「Rising Sand(ライジングサンド)」である。着目したのは、現地で調達しやすい「砂漠の砂」。細かく丸いためそのままでは骨材としては使えないのだが、特許出願中の造粒技術によって高強度の人工骨材に変える世界初のソリューションを実現した。

人工骨材(ライジングサンド)をアスファルトと混ぜて成形したブロック。耐久試験を行なった後のサンプルとなる。
こちらは天然骨材を用いたもの。一般的にアスファルトは大きい石(粗骨材)、細かい石(細骨材)を石垣のように組み合わせながら生成することで、強度・耐久性を確保する構造となっている。

 均一な品質で工業製品のように扱えるこの人工骨材は、耐久試験において日本の良質な天然骨材の2.5倍以上の性能を誇る。道路修繕の頻度も低減され、ライフサイクルコストを約60%に抑えることが可能だ。川砂や砕石の採取が不要なため環境負荷も低く、「高い耐久性」「低コスト」「優れた調達性」を兼ね備えている。

ライジングサンドは砂漠の砂を原料として、熱化学反応によって砂同士を結合。粒を大きくして強度を向上させた後、加工して骨材化する。

PathAheadは、舗装率が低く砂漠へのアクセスが良いケニア、ナイジェリア、エチオピアの3カ国を初期のターゲット市場に設定している。既にケニアの都市道路局とはMOU(了解覚書)を締結し、実証実験の準備を進めているほか、現地の建設会社からも認可取得を条件とした購入意向の感触を得ているという。

左端が原料(砂漠の砂)。そのままでは粒が小さくて丸いので、骨材としては使えない。粒を大きくする(造粒)して骨材化したライジングサンドが中央(粒が小さめの細骨材)と右(粒が大きい粗骨材)。

事業推進にあたっては、CEOの伊賀氏に加え、数々の上場企業の創業期を支えた守屋 実氏(事業顧問)、元首都高速コンサルティング部長の永田佳史氏(技術顧問)など、インフラ維持管理や事業開発のプロフェッショナルがチームを形成する。 今後のロードマップとしては、ラボレベル(数キロ単位)からトン単位への量産技術確立と実地での耐久性実証を進め、2028年の量産開始を計画。さらに事業をスケールさせ、2034年には営業利益400億円の達成という高い目標を掲げている。

天然骨材を用いたアスファルトに対して、ライジングサンドを用いたものは約2.5倍の耐久性を誇る。
ライジングサンドは道路だけでなく、コンクリートや路盤材、さらに粒を大きくすれば構造躯体としての活用も見込めるという。

この事業に対して、ベンチャーキャピタル2社(インキュベイトファンド、サイバーエージェントキャピタル)が会社設立と同時の初期投資と支援を表明した。

インキュベイトファンドの代表パートナーである赤浦 徹氏は、イベントでの伊賀CEOとの出会いを振り返り、「『砂漠の砂でアフリカに道路を作る』という事業の素晴らしさと情熱に感銘を受けた」と語り、「21世紀の“ホンダ”が生まれるきっかけをつくりたい」と大きな期待を寄せた。 また、サイバーエージェントキャピタル代表取締役社長の近藤裕文氏も、ホンダで培ってきた伊賀CEOの技術と情熱、そしてチーム力を高く評価し、グローバルな挑戦を全力で応援する姿勢を示した。

赤浦 徹氏(インキュベイトファンド代表パートナー)
近藤裕文氏(サイバーエージェント・キャピタル代表取締役社長)

道路は国づくり・街づくりの基盤であり、その整備は人々の生活向上に直結する。モビリティの進化を支える「道」そのものを自分たちの技術で作り出すPathAheadの取り組みは、世界のインフラ格差を解消し、持続可能な社会を築くための礎となりそうだ。

左から永田佳文氏(PathAhead技術顧問)、守屋 実氏(PathAhead事業顧問)、伊賀将之氏(PathAhead代表取締役CEO)、赤浦 徹氏(インキュベイトファンド代表パートナー)、近藤裕文氏(サイバーエージェント・キャピタル代表取締役社長)、藤井欽也氏(本田技研工業 新事業開発部 部長兼IGNITION統括)。