事故の詳細と判決に至った経緯

大学生のA(22歳)は2024年10月、東京都世田谷区の路上において、飲酒後に無免許運転及び2人乗りでペダル付きの原付電動バイク(電動モペッド、以下モペッド)を運転。時速約33km/hで一方通行の道路を逆走し、自転車に乗っていた50代の男性に衝突。頭部に大ケガを負わせた。
Aは無免許危険運転致傷罪。また事故時、2人乗りしていた知人に対し、「無免許運転を隠すため、身代わりになってくれ」と依頼した罪にも問われた。
東京地裁は2025年5月21日の判決で、「A被告は取得した運転免許を道交法違反で取り消し後、事故を起こしたモペッドを購入。無免許運転を繰り返す中で今回の犯行に及び、身代わりになるよう友人に何度も依頼。これらは極めて身勝手な犯行」と指摘。
「被害者は今も左半身マヒなど重度の障害が残っている」「運転前に飲酒。また本件事故後には、さらに同種のモペッドを新たに入手して運転を継続。Aの交通規範意識は欠如しているといわざるをえず、刑事責任は極めて重い」として、懲役3年の実刑を言い渡した。この判決を不服としてAが控訴するかは2025年5月22日現在不明。 ※以上、各社新聞報道を要約
警察が報道陣に公開したAが運転していたモペッドには、装着が義務付けらているナンバープレートは無し。自賠責保険及び任意保険も未加入だったと思われる。
“免許がいらない電動アシスト自転車”と偽って販売し、自動車部品販売会社社長を逮捕

上記判決が出る前日の2025年5月20日、神奈川県警察本部は自社ホームページ上にて、「このペダル付きモデルは、バイクの運転免許不要な電動アシスト自転車」と偽って販売していたとして、東京都板橋区の自動車部品販売会社を摘発。また同社の社長Bを不正競争防止法違反の疑いで逮捕した。
調べに対しBは、「電動アシスト自転車だと思っていた」と供述し、容疑を否認。県警は同社が2022年から約3年間で、合計約1,000台を販売し、少なくとも3億円を売り上げたとみて調べている。 ※以上、各社新聞報道を要約
電動アシスト自転車、特定小型原付、原付一種、原付二種の主な違い
| 電動アシスト自転車 | 特定小型原付 | 原付一種(電動) | 原付二種(電動) | |
| 施行日 | 2023年7月 | |||
| 定格出力/最高速度など | 時速24km/hで補助モーターが停止すること | ・定格出力0.6kW以下の電動車 ・最高速度は20km/h以下に制限(スピードリミッターが必ず装着されていること/最高速度表示灯は緑色点灯) | ・定格出力0.6kW以下 ・最高速度は30km/h以下に制限 | ・定格出力0.6kW超~1.0kW以下 ・最高速度は道路標識に準じる |
| 運転免許 | 不要 | 不要 | 原付免許以上 | 普通二輪小型AT限定以上 |
| 年齢制限 | なし | 16歳以上 | 16歳以上 | 16歳以上 |
| ヘルメットの着用義務 | 努力義務 | 努力義務 | あり | あり |
| ナンバープレートの登録と表示 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 自賠責保険の加入 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 保安部品(ウインカー、テールランプ、ストップランプ、ホーン等) | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
外観上、電動アシスト自転車か? 原付か? を見分けるのが困難なモデルも増加
2023年7月、道路交通法改正による特定原付の解禁以降、電動バイクや電動キックボードの危険運転がテレビや新聞などで問題視される頻度が増加。特にペダル付きのモペッドは外観上、「本当に電動アシスト自転車なのか?」「本当は原付一種や原付二種じゃない?」等、見分けるのが困難なモデルも増えた。
現在、販売規制の緩いペダル付きのモペッドは、中国をメインに各国から輸入され、国内では多くの業者が参入。店舗を持たないネットショップも激増し、ごく普通に販売中だ。
購入時には運転免許の提示が前提となる、リアルな店舗を持つバイクショップとは異なり、代金さえ支払えば誰でも手軽に通販で入手できる。実際は原付一種や原付二種なのだが、ユーザーが「電動アシスト自転車だという認識で購入した」「原付とは知らなかった」と言い張れば、一般公道を走行できてしまうのが実情だ。
筆者は仕事のために東京都心を訪れることが多いが、明らかに「原付一種だろ?(もしかしたら原付二種モデルかも)」と思しきモペッドを頻繁に目撃。確信犯である彼らは一応、“電動アシスト自転車のフリ”をしてペダルを漕いでいるが、走行する速度は目測でも他の交通の流れに乗った時速40km/h以上。中には周囲のクルマを追い抜いていくモペッドもある。
筆者が目撃した限り、彼らはヘルメットを着用せず、車両にナンバープレートや保安部品の装着なし。自賠責保険に入っていないであろう(たぶん自転車保険にも加入していない)彼らを見て、筆者はいつも「もしも路上で物損事故や人身事故を起こしたらどうするんだろう…多分逃げるんだろうが、自分がケガを負い逃げられなかったらどうする?」と首をひねる(理解に苦しむ)。
「電動アシスト自転車だと思って運転」という言い訳は通用しない
もしも原付一種や原付二種のモペッドを、電動アシスト自転車のフリをして高速域で一般公道を走行し、事故を起こした場合。
・警察が事故車のモペッドの仕様を徹底調査
・都市部では防犯カメラが随所に設置
・ドライブレコーダーが普及
上記により「電動アシスト自転車だと思って走っていた」という言い訳はまず通用しない。
重大な事故を起こした加害者は刑事裁判によって裁かれるが、厄介なのが運悪く被害者となった場合。一般的に社会常識とモラルの欠落した輩の運転する車両の事故に巻き込まれたら、高い確率で慰謝料や保険金の請求時にもめる。お金をケチって保険に加入せず、後先考えずに行動し、責任感も欠落したこの手の人間は、全般的にタチが悪いからだ。
上記の大学生Aの場合、民事裁判で被害者に対し、慰謝料や治療費など数千万円の支払い命令が下ることは避けられない。自賠責保険すら加入していないであろうAに支払い能力はないだろうから、請求はまず、親族である父親・母親・成人した兄弟姉妹に行く。
もしも親族が誠意ある人物ならば、貯蓄や資産を切り崩す等、何らかの賠償支払いの対策を取るだろう。しかし相手によっては、「お金がないので払えない」「息子はもう勘当した」「兄(弟)とは縁を切った」などと理由を付けて逃げることもある。
こうなると被害者も弁護士を雇う必要あり。ケガを負わされた挙げ句に余計な出費が必要となるなど、踏んだり蹴ったりの泥沼の状況に陥る(最終的に泣き寝入りなんてこともよくある話)。
中学生や高校生の未成年ならともかく、世の中には大学を出た大人でも、常識など通用しない人間が一定数存在する。くれぐれも巻き込まれぬよう、都心での歩行中や自転車乗車中は、左右をよく確認するなど最低限注意したい。
販売時は運転免許証の提示や自賠責保険の加入を義務付けるべきか? 乗る者・売る者のモラルが問われるモペッド問題
上記の表の通り、ペダル付きのモペッド(原付一種や原付二種)を運転するには運転免許、ナンバープレートの取得・取り付け、自賠責保険の加入、ヘルメットの着用が必要。だがそれらを無視して電動アシスト自転車と偽り、交通ルールを無視した無謀運転の末に事故を起こし、警察沙汰になるケースが後を立たない。
ジャーナリスト・柳原三佳氏が意見募集プラットフォーム「Surfvote」で募ったモペッドに対する意見の途中結果(詳しくは下記ページ参照)によると、「モペッドを販売する際は、免許証の提示を義務付けるべき」が40.5%を占めた。「免許を見せるという一手間は必要。販売する際には自賠責保険も強制加入させるべき」との声も上がった。
続いて多かったのが、「販売中止に出来ないならば、違反に対する取り締まりを徹底的に行うべき」「危険なので販売中止にすべき」「電動アシスト自転車にもヘルメット着用を義務付けるべき」との意見。
ちまた(特に違法なモペッドが交通違反を繰り返し、我が物顔で危険な走行する都心部)ではモペッドに対し、非常に厳しい目が向けられている。これに逆行するかのごとく、規制の緩さと手軽さから販売業者はますます増加しており、クラウドファンディングを利用してのリリースも急増。
ペダル付き電動バイクが登場以来、様々な問題点が指摘。それらが今、「モペッド問題」として顕著に表面化してきた。警察は今後、街中での違法取り締まりだけでなく、「電動アシスト自転車」と偽り、一時の金儲け主義に走る業者の取り締まりも強化していく模様だ。
現在、モペッドの利用者のモラル向上はもちろん、モペッドを販売する業者にも、ユーザーに対する啓蒙(けいもう/安全運転や道交法に基づいた適切な指導)や高いモラルが求められている。
もしも今、アナタがモペッドを電動アシスト自転車と偽って乗っているならば、人生を自ら追い詰める前に即やめるべし。また通常の自転車を含め、電動アシスト自転車の利用者は、任意の自転車保険に加入しておいたほうが安心。普通に働けば難なく支払えるであろう金額をケチった代償は、あまりにも大き過ぎる。
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