連載

自動車エンブレム秘話

フェラーリも乗ったイタリアの名門スポーツカー

現在のアルファロメオは1910年に創業したスポーツカーメーカーが起源で、官能的な走りと美しいデザインによって世界中に熱狂的なファンを持つ。特にモータースポーツの分野では数々の栄光を手にしてきた。連載第10回でも触れたように、1932年の「スパ24時間レース」で1-2フィニッシュを飾った“スクーデリア フェラーリ”のマシンも、実はアルファロメオ製であった。

ミラノで産まれた「ロンバルディアの自動車工場」

1910年6月、イタリアのミラノにひとつの会社が生まれた。当時の社名は “Anonima Lombarda Fabbrica Automobili”。直訳すると「ロンバルディア地方の匿名自動車製造会社」となる。Anonima(アノニマ=匿名会社)は日本でいう合同会社や株式会社に近く、Lombarda(ロンバルダ)はミラノを含むロンバルディア地方、Fabbrica Automobili(ファブリカ・アウトモビリ)は自動車製造工場を意味する。頭文字を採って“A.L.F.A”と略された。

2つのシンボルが交差するミラノの誇り

1919年から1915年まで使用されたアルファのロゴ。
1910年当時のエンブレムだが、今日でも違和感なく「アルファロメオのロゴ」と認識できるだろう。ブルーのサークルに見られる2本の結び目は、当時のイタリア王室サヴォイア家の紋章(サヴォイノット)をモチーフにしたもの。これは王家への敬意を込めた意匠だったが、第二次世界大戦後の王政廃止とともにエンブレムからは削除された。

赤十字と大蛇は、創業の地ミラノに由来する。初代チーフエンジニアのジュゼッペ・メロシと若きイラストレーターのロマーノ・カッタネオが共同でエンブレムをデザインした。カッタネオがトラムを待っていた時、スフォルツェスコ城に描かれているヴィスコンティ家の家紋「ビショーネ(Biscione)」に目を奪われたことがきっかけだったという。

ヴィスコンティ家は中世のミラノを支配した貴族で、紋章にある敵を飲み込む大蛇(またはドラゴン)は再生や力の象徴で勝利の意味もあるとされる。カッタネオはこの意匠をもとにミラノ市の赤い十字と組み合わせ、左に十字、右に蛇を配置したデザインを完成させた。これを“ALFA”と“MILANO”の文字で囲む構成とすることで、ブランドの起源を象徴するエンブレムとなった。

「アルファロメオ」の誕生

1920年前後から、 "ROMEO"の文字もエンブレムに刻まれるようになった。
1920年前後から、 “ROMEO”の文字もエンブレムに刻まれるようになった。

第1次世界大戦の勃発により、アルファは軍需産業への転換を迫られ、業績は悪化。そんな中、ナポリ出身の実業家ニコラ・ロメオが経営権を取得し、社名は「アルファロメオ」へと変更された。これに伴い1920年頃からエンブレムに“ROMEO”の文字が追加され書体も一新されたが、基本的な構成は踏襲された。

ミラノから世界へ

その後、モータースポーツでの成果を記念して月桂冠があしらわれたり、赤とゴールドの2色使いに変更されるなど何度かの修正が加えられた。しかし、赤い十字とビショーネを左右に配し、外周にブランド名を記すという基本レイアウトは今日に至るまで受け継がれている。

その構成要素に大きな変化があったのが1971年。この年、南イタリアのポミリアーノ・ダルコ工場でコンパクトカー「アルファスッド(Alfasud)」(sudは「南」の意)生産が始まった。それに合わせるように、エンブレムから “MILANO”の文字が削除された。

1982年には、ゴールドとブルーの明瞭な色調に代わるとともに、グラフィック全体がモダンかつシャープな印象を与えるものになった。そして2015年、アルファロメオはステランティス・グループ傘下となり、新型「ジュリア」の発表にあわせてエンブレムも刷新。赤十字とビショーネを隔てていた縦の仕切り線が取り払われ、シームレスなデザインが採用された。

PHOTO/Stellantis N.V.

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