うるわしの三保松原

AFORIDER ホンダ LEAD125 東海道 ガス欠 高橋克也
清水港は、小規模ながらもどこか昭和っぽい華やぎに満ちている。

宿を出れば清水港はすぐ目の前だ。港を横目に三保松原(みほのまつばら)へ。東海道からはちょっと離れた寄り道になるが、こんな天気のいい日にはズルも許されるべきだ。なにしろ三保松原は、世界文化遺産にも登録されている保証付きの観光地だ。立ち寄っても損はない。

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三保の路上からド迫力の富士を望む。
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清水三保海浜公園へ。
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三保の清水灯台は明治45年に初点灯し、以来100余年にわたって航路を見守り続けてきた。小さいが美しい白色八角形コンクリート造で、地上高18m、光度5万カンデラ。
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海浜公園からの富士もまた素晴らしい。

不穏なスロットルレスポンス

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沖をゆく貨物船を眺め、ゆるゆる水浴びするカラス。バイクをガス欠させるためだけにむなしく走り、むなしく生きる人類タカハシより、鳥類のほうが楽しく生きている気もする。

三保松原を出発すると、スロットルレスポンスにちょっとした違和感がつきまといはじめた。停止状態から開けると、わずかに出足が引っかかる。ガス欠の兆候かとも思ったが、トリップはまだせいぜい230km、いくら計算上の航続距離より実走距離が短くなるのが普通でも、ガス欠には早すぎる。

タカハシの感覚はもともといい加減だし、寝ぼけてそれがますます狂ってるんだろうと考え、たいして気にもとめず、そのまま走り続けることにした。

エンドロールは突然に

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ピカピカの駿河湾岸。快走路を楽しむ。

海沿いの国道150号を西に向かって快調に進む。この先、ルートは深い山に入る予定だ。まだ先は長い。目についたパーキングで便所を借りておこうと左にリーンさせ、車道をはずれたところで突然トルクを失った。そのままストンとエンジンが止まる。試しにセルスターターを使ってみたが、ブルンと回りかけるものの続かない。何度かトライしているうち、ついにエンジンはまったく反応しなくなった。あっけない幕切れだ。

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ガス欠マニアのタカハシにも予測できなかった、あまりに突然の幕切れ……つか燃料切れ。

満タン6.0Lのガソリンをきっちり使い切ったとすれば、全行程の燃費は40.9km/L。カタログ記載のWMTCモード燃費は49.3km/Lだから、その差はマイナス約17%。まあまあ誤差が大きい。が、そもそもどこが満タンなのかよくわからない構造の謎タンクなので、タカハシがちゃんとガソリンを満タンにできていたかどうかすら、じつはだいぶ怪しい。

専用の測定器で給油量を計ったなら別だが、近所のスタンドで適当に給油しといて「燃費テストをした」と言い張って恥じないバイクメディアのテスト結果なんて、だいたいまあこんなもの。この程度の誤差を気にする必要もないだろう。

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LEAD125の旅の終着点は、静岡市駿河区高松、国道150号沿いの大浜海岸駐車場だった。
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停止地点のトリップは245.5km、本日の走行はたった27.7kmに終わった。

長旅にも耐えるハイパーコミューター

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ヘッドライトまわりには妙な迫力がある。

LEAD125は、もともと近距離走行を主眼に作られたコンパクトなスクーターだが、意外にもロングライドが快適だった。スッと上体が起きるゆったりしたライディングポジションのおかげでライダーの負担が少なく、長距離走行でもあまり疲労を感じない。

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テールライトはウインカーと一体化されている。

LEAD125の装備はベーシックでシンプル。ゴージャスとはいいがたい。が、必要なものが過不足なく揃っているし、設計のすみずみにまでよく神経が行き届いている。おまけにフックなどの基本装備だけでなく、スマートキーとかのけっこう気が利く装備もついている。どれも街乗りの利便のために作られたんだろうが、それにとどまらず、ロングツーリングの快適性をしっかり高めてくれていた。

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容量たっぷり37Lのシート下ラゲッジ。ホンダ技術陣には空間への異常なコダワリでもあるのか、内部の凹凸を削りまくってビシッとフラットに作られていて、数値以上にいろんなモノが詰め込める。
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実効身長❋153cmのタカハシでも足はほぼベタ着き。取り回しも安心感たっぷりだ。(❋実効身長=日本人の平均股下長から算出した仮想身長)

うまいものは赤い自販機に

さて、つねに苦難のロケを強いられる東海道ガス欠チャレンジにも、ミッションを果たしたあとには、砂漠のオアシスのような温情ルールがひとつだけ用意されている。「ガス欠地点では経費でうまいものを食ってよい」という規定だ。

せっかく名物だらけの静岡市でガス欠したんだから、安倍川餅でも買おうと、市街めざして走り出したとたん、道ばたに赤い自販機を見つけた。どうもイチゴが売られているらしい。

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突如あらわれた赤い自販機には採れたてイチゴが詰まっている。
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イチゴは1パック300円。200円の枠もあったが、そちらはすでに空っぽだった。
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簡素で古めかしいベンディングマシンには、どこかしら靴箱っぽさが漂う。

タカハシの後からも次々に客がやってきて、イチゴを買い求めては去ってゆく。一人を呼び止めて話をきくと、自販機はいつも動いているが、必ずイチゴがあるわけじゃなく、むしろ売り切れの時のほうが多いから、今日は買えてラッキーだったと頬をゆるめていた。

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少年や主婦、留学生たちまでもが次々に群がり、自販機のイチゴはまたたく間に空っぽに。

イチゴのコストパフォーマンス

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近所の人の話では、まもなく道路の拡幅工事があり、いちご自販機は撤去される見通しだそうだ。

LEAD125を木陰に停め、海岸でイチゴを食うことにした。強烈な海風ときらきらの陽光を浴びながら、トイレの水で洗ったイチゴを口にふくむ。爽やかで、かつ甘い。 すんげー激ウマ! しかも300円だ。コレめちゃくちゃ安いじゃん! と、軽率にも思い込みかけた次の瞬間、燃費企画ライダーとしての矜持とともに、ひとつの疑念がむくむくと頭をもたげはじめた。

いや待てしばし。このイチゴはほんとうに安いのか?

比較のため、誰もが知る山崎製パンの「薄皮つぶあんぱん」を調べてみると、そのカロリーは1袋あたり532kcalとされていた。2025年現在は185円くらいで販売されているので、もしこのアンパンに100円払えば、約288kcalのエネルギーが買える計算になる。

いっぽう300円の中粒イチゴ1パックの可食部を約250gと推計すると、イチゴは31kcal/100gなので、1パックのカロリーはわずか約78kcal。つまり100円払っても約26kcalしか買えないのだ……。

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ツヤツヤの赤いイチゴは、静岡の名産品のひとつ。

ちなみに体重60kgの人間が1km走るのに必要なカロリーは約60kcalだ。アンパンなら、1kmわずか約21円で走れるのに、イチゴだと1kmの走行に約231円もの莫大なコストがかかってしまう……。

たっっっかっっっ! イチゴ燃費わるっ!

検証の結果、イチゴには深刻な燃費問題があることが判明した。だがタカハシにとって、それよりもっと大きな問題は、このイチゴが「自販機で」売られていたことだ。いくら「経費でうまいものを食ってよい」というルールがあっても、自販機では領収書がもらえない。つまりこのイチゴ、完全に自腹になってしまうのだ!!!!

これではわざわざ手間ヒマかけて食い物を探しまわり、チャラけた喫食写真まで撮って全世界に披露する意味はまったくない。タカハシが悄然と肩を落とし、涙に頬を濡らし、イチゴ汁で口のまわりをべっとりと赤黒く汚して東京への帰路をたどる結果となったのも、当然の成り行きだったといえるだろう。

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青い海を眺めつつ赤いイチゴを楽しむという、手アカにまみれた演出で写真を撮り、東京へ帰った。
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