スズキ・GSX-8TT……1,386,000円

プレミアムオールラウンダー

スズキはオールラウンダーを作るのが上手な会社だ。オールラウンダーの代名詞ともいえるのは、長い歴史を持ちつつ今は(一時的だと思いたいが)ラインナップ落ちしているSV系だろう。8SはSVからオールラウンダー枠を引き継いだ感もあったが、どちらかと言えばストリートファイター的な構成はオールラウンドなSVとは少しニュアンスが異なった。
ところがT/TTになったとたん、価格こそ上乗せされたものの、乗り物としてはオールラウンドという言葉が復活したように思う。コンセプトにもあった「タイムレス」さもその一因で、いわゆるネオクラ枠だろうにそうは感じさせない普遍的なオートバイらしさがそうさせるのかもしれない。8Sに対してより快適になったシートや、タンデムや荷物の積載もしやすくなったテールセクションもオールラウンドユースにはありがたい。
しかしSVと違い「プレミアム」オールラウンダーたらしめるのは、スズキも胸を張る「最新の電子制御」を備えることだ。ローRPMアシストやスズキイージースタートシステムなど基本的なことに加え、トラコンやドライブモードセレクター、クイックシフターなどを備えることで、オールラウンダーという概念をもう一歩進めたような印象となっている。

次世代エンジンに見るスズキらしさ

8S、8Rに加え、Vストローム800にも搭載されるこのエンジン、スズキの大排気量エンジンとしては久しぶりの新規で、トレンドの270°クランクパラツインを採用。それでいてクロスバランサーなる独自のバランサーシステムを採用することで270°クランクをことさらアピールしないようなスムーズな特性を獲得。こんなオールマイティなエンジンであるがゆえに、こうして多機種に搭載されても上手にフィットしているといえる。
スズキらしいと感じるのはそのバランスの良さ。トルクフルでありながら高回転も良く回るし、スペック上は80馬力と特別ハイパワーではないのに実際には十分以上にパワフルで、特に公道環境においては十分以上の心地よい機動力がある。今の時代にダウンドラフトではなくホリゾンタル吸気としたのも特徴だろう。これはVストロームシリーズの20L燃料タンクを載せたいといった都合もあったことだろうが、こうした全方位の実務的性能をバランスよく成り立たせるのがいかにも「スズキらしい」。

「ワクワクプロジェクト」

GSX-8TTの車体は、ほぼそのままGSX-8Sのものだ。エンジン、フレームだけでなく、足回りの設定も、ハンドルやステップ、シートのポジションに至るまで共通なのである。唯一違いがあるとすればタンク幅が増えたことによるニーグリップの感覚と、より快適になったシートぐらい。それでいてこれだけ違う仕上がりとなっているのが面白い。
実はGSX-8TとTTは「ワクワクプロジェクト」の第1号機。このプロジェクトは「デザイン発信、デザイン思考で、自由にモノづくりをしよう」というもので、デザイナーの理想が詰まった商品となっていく。デザイニングも現代的なCADではなく、イメージとなったT500タイタンが存在した60~70年代の柔らかいラインを追求し、昔ながらのクレイワーク(粘土による手作業のデザイニング)を導入。
またエンブレムや金属製サイレンサーガード、バーエンドミラーや馬蹄型ヘッドライトなどプレミアムなパーツを採用。8Sに対する単なる着せ替えではなく、細部に至るまで手が入ったT/TTは、アイコニックなモデルの復活として登場した同社KATANAとは違った、もっと広い意味でスズキのアイデンティティを体現するアプローチのネオクラシックモデルとなっているのだ。

「旧くない」ネイキッド


今回はサーキットメインの試乗だったのに、残念ながらフルウェットで最大限攻め込むことは難しかった。ただそんな状況でもしなやかな足周りや、ドライブモードをB以下にすることで優しくなるエンジン特性に助けられ、意外や楽しめたのが嬉しい。ひらひらとた操舵性や回転数に関わらず力強く加速するトルク感など、サーキットビキナーでも楽しみやすい構成に思う。筑波や袖ヶ浦のように1周2㎞程のコースがマッチしそうだ。公道も少し走ったが、この雨の中でブレーキが頼もしかったのが好印象。タイヤやサスのおかげもあるだろう、自在に減速・停止ができるのは雨天走行で強い味方だ。

かつてのビッグネイキッド系は低重心で、大排気量ゆえの余裕と豪快さが持ち味だった。そして現在のネオクラ系もおおよそその路線だろう。しかし8TTは少し様子が違う。ツインということもあって軽量で付き合いやすいキャラクターなのだが、それに加え重心位置が高くてモダンな運動性を持っているのだ。シート高は810㎜と特別高いというわけではないものの、ベースモデルがストリートファイター系だったことを匂わせる、ライダーが積極的に動きたくなるスポーツ性を持っている。これゆえにヒラリヒラリと走らせることができ、800㏄程もあるような印象はなく手の内感が高い。クラシカルな見た目ではあるがしっかりと現代的なスポーツバイクなのである。
エンジンの印象は同社KATANAやライバルの4気筒/3気筒に比べるとプレミアム感は薄めかもしれない。先述したようにスタンダードという言葉がよく合うだろう。とても使いやすく、必要十分である一方、回し切ってもノケゾルようなパワーがあるわけではない。むしろオイシイのは常用域であり、そういう意味では普段から最も楽しいゾーンを満喫できる設定だ。

ドライブモードセレクターを採用するのも、ベースモデルの8Sと同様だ。以前の試乗ではどのモードも上手に作り込まれている印象で、ゆえに違和感を覚えたこともなかった。ただ今回はフルウェットでサーキット走行だったため、その違いに気づくことができた。
コースインしてスリッピーな路面を恐る恐るペースアップする中で、スロットルのツキが鋭めだな、と感じたのだ。周回を重ねるうちに「あれ、8TTってもう少しフレンドリーじゃなかったっけ?」と疑問符が浮かび始め、その時に初めてドライプモードがどこに入っているのかを確認。メーターを見ると最も積極的なアクセルレスポンスとなるAモードだったのだ。そうかそうか、とBモードに変更するとグッと扱いやすくなり、またトラコンもより介入しやすく設定しておいた。これら設定が左側の大きなスイッチで直感的に行えるのが嬉しい。

Bモードにしたらこれまでのイメージ通りの反応が得られ、フルウェットにもかかわらず楽しめてしまうほどアクセルを開けていけた。A・B・Cの各モードはあくまでアクセルレスポンスが変わるだけであり最高出力は変わらないため、このように状況に合わせて変更してもいいし、状況に関わらずライダーの好みで選んでもいいだろう。ちなみに筆者は以前に試乗した際にも結局Bモードに落ち着いて他のモードは使わず、そして今回もフルウェットにもかかわらず結局Bモードに落ち着いた。状況に関わらず、筆者の好みはBモードだったということであり、ドライブモードセレクターはそのように使ってもいいだろう。

万人向けの「良いヤツ」

扱いやすく、現実的な公道環境において十分以上に速いだけでなくサーキットでも楽しめるエンジン、そしてしなやかでフルウェットでも怖さがなかったサスペンション。モダンな重量バランスにより現代的なスポーツ性能を提供してくれる車体。これら要素だけでも、良きスタンダードであり、かつ電子制御などで現代的なニーズにも応える8TT。
これならば誰でも楽しめるだろうし、誰にでも薦めやすい。

さらに万人向けだと感じるのは、そのプレゼンスだ。KATANAや、他社で言えばZやCBといえば、80年代に強烈なアイコンがあって、どうしてもイメージがソッチに引っ張られる。しかし8TTにはそんなことがない。モチーフとしてT500があったというが、あくまでモチーフだし、そして良くも悪くもT500はカタナ、あるいはZやCBほどのアイコンではなかっただろう。ゆえに特定のイメージに縛られることなく、年齢層含めてより幅広いライダーにとって「どこかスズキのアイデンティティを感じさせてくれる、スタンダードなネイキッド」と受け入れられやすいように思う。

ディテール解説

倒立フォークは8Rが採用したSHOWA製ではなく、8Sと全く同じKYB製。調整機構はないが、出荷時設定は絶妙でかつてのドライ試乗でワインディングやストリートを走っても不満なし。そして今回のフルウェットも良く対応してくれた。マスターシリンダーは一般的な横置きタイプだが、キャリパーはラジアルマウントでブレーキ性能も申し分なし。タイヤはダンロップのロードスポーツ2を標準装備。

アルミのスイングアームに、リアホイールはビッグバイク定番の5.5インチリムに180幅タイヤを装着。モノショックはプリロード調整のみとシンプルだ。

大部分を腹下に収め、サイレンサー出口のみ車体右側に小さく飛び出す排気系はスマート。車体のスリム化にも貢献して駐輪の際にも気兼ねないし、誤って触れてしまってヤケドをしてしまうといった危険も最小限だ。サイレンサーカバーは8Sでは樹脂だったのに対し、8TTではステンレスとして質感を追求。
パラツインの270°クランクはホンダもヤマハも、そして多くの海外メーカーも展開しているエンジンレイアウト。しかしスズキではクロスバランサーを採用して、逆に270°クランクらしさを消すほどにスムーズな特性を追求。最高出力は80PSと控えめだが、実走では決して侮れない速さを持っているし、トバさない時の躾の良さは流石スズキという付き合いやすさ。ダウンドラフト吸気が一般的な今の世の中で、昔ながらのホリゾンタル吸気としているところも特徴的で、このような味付けに貢献しているような気がする。
クイックシフターは標準装備。クイックシフターはあまり好まず、ついていてもOFFにしてしまうことが多い筆者だが、8TTにおいてはOFFにすると逆にギクシャクするような感があったため、再びONに設定しなおした。全体的にミッションが渋めに感じたのはまた走行距離が浅かったからだろう。
8Sも素晴らしいバイクだったが、唯一ともいえる不満点はシートの快適性だった。8T系はこの点を大きく改善。シート幅が広くなっただけでなく内部も見直し、大変に快適なシートへと生まれ変わっている。そしてこのシートに合わせるようにタンク幅も8Sよりもワイド化しており、これがまたがった時の感覚の違いになっているとか。ただそれは直接跨り比べなければわからない気がする。同「ネオクラ」カテゴリーの4気筒勢に比べれば圧倒的にスリムなのである。タンク容量は8Sの14Lに対して16Lとし、ツーリングシーンを支える。燃料はハイオク。
8TTの方にのみ、ビキニカウルとアンダーカウルが装着される。ビキニタイプとはいえ防風性は考慮されていて、スクリーン上部は整流のための工夫が。ヘッドライトは8T同様に馬蹄型だが、スクエアに見えるカウルとの相性も良好。デザイナーさん曰く「90年代ネイキッドのイメージには影響を受けていますね。ZRX(400)っぽいと言われたら…そうかもしれません(笑)」と話してくれた。8Tの方はヘッドライト内にポジション灯があるのに対し、8TTはウインカーがポジション灯を兼ねている。
スイッチ類が極めてシンプルなのがスズキの良心に思う。ライドモードやトラコンの設定などもとても分かりやすく、メーター内の各種設定の階層の中で迷子になることがない。また左スイッチボックスの大きなボタンは冬用のグローブをしていてもしっかりと操作できるのもまた好印象。
右側はキルスイッチと一体となっているセルスタータースイッチ、そしてハザード。スロットルは電子制御となっている。なおクラッチレバーの操作はわりと重めの印象で、それは以前にも気づいた点。
とても見やすいメーターには一切の不満なし。回転数もスピードも一目でわかるし、ドライブモードもトラコンもそれぞれの設定がわかりやすい。他社ではネオクラに四角いメーターは敬遠されるようだが、8Tシリーズにおいてそのような批判を聞いたことが無いのは、スタイリング云々ではなくシンプルに超優秀なメーターだからだと思う。もっとも、8TTにおいてはカウルに隠れて四角さは見えないが。なおキーは一般的なメカニカルキー。これもまたわかりやすくて好きだ。
テールは8S系と同様に、ナンバーホルダーの方に飛び出してテールランプがある構成。特に8TT系においてはツーリングシーンなどで荷物を括りつけたり、あるいはキャリアなどの装着も考えられるため、そういった場面でテールランプが隠れないのは良い。

今回試乗できたサーキットは、宇都宮インター近くにリニューアルオープンした「しのいリンク」。1.3㎞とコンパクトなコースながらアップダウンもあってなかなかテクニカル。晴れていれば大変に楽しめそうだし、8TTにも良くマッチしそう。今回のリニューアルオープンでクリーン&オシャレに生まれ変わっているが、そんなシチュエーションにもマッチするスマートな8TTである。

主要諸元

型式8BL-EM1AA
全長 / 全幅 / 全高2,115mm / 775mm / 1,160mm
軸間距離 / 最低地上高1,465mm / 145mm
シート高810mm
装備重量 ※1203kg
燃料消費率 ※2国土交通省届出値:定地燃費値 ※334.5km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 ※423.4km/L(クラス3、サブクラス3-2) 1名乗車時
最小回転半径2.9m
エンジン型式 / 弁方式FRA1・水冷・4サイクル・2気筒 / DOHC・4バルブ
総排気量775cm3
内径×行程 / 圧縮比84.0mm × 70.0mm / 12.8:1
最高出力 ※559kW〈80PS〉 / 8,500rpm
最大トルク ※576N・m〈7.7kgf・m〉 / 6,800rpm
燃料供給装置フューエルインジェクションシステム
始動方式セルフ式
点火方式フルトランジスタ式
潤滑方式圧送式ウェットサンプ
潤滑油容量3.9L
燃料タンク容量16L
クラッチ形式湿式多板コイルスプリング
変速機形式常時噛合式6段リターン
変速比1速3.071
2速2.200
3速1.700
4速1.416
5速1.230
6速1.107
減速比(1次 / 2次)1.675 / 2.764
フレーム形式ダイヤモンド
キャスター / トレール25° / 104mm
ブレーキ形式(前 / 後)油圧式ダブルディスク(ABS) / 油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前 / 後)120/70ZR17M/C(58W) / 180/55ZR17M/C(73W)
舵取り角左右35°
乗車定員2名
排出ガス基準平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応