連載

自衛隊新戦力図鑑

ふたつの給油方式

空中給油機は冷戦初期から存在したが、航空自衛隊が導入したのは、つい最近のことだ。2009年、航空自衛隊初の空中給油部隊としてアメリカ製の「KC-767」により第404飛行隊が新編された。さらに20年には第405飛行隊が立ち上がり、翌年から新型機「KC-46A」が順次配備されている[※1]。

空中給油には2種類の方式がある。「フライング・ブーム式(以下、ブーム式)」と「プローブ&ドローグ式(以下、P&D式)」だ。KC-767はブーム式のみに対応しているが、KC-46Aは両者の機能を備えている。

ブーム式は、給油機後部から突き出した棒状のブームを受油機の背中にある給油口に挿入するもの。挿入は給油機のオペレーターがブームを操作することで行ない、受油機パイロットの手間は少ない。

※1:このほかにC-130H輸送機を改修したKC-130H空中給油機が2010年より配備されている。給油方式はP&D式で、これまでヘリコプターへの給油を行なってきた。
フライング・ブーム式の給油を給油機側から見た画像。アメリカ空軍のKC-135空中給油機がF-35A戦闘機に給油している。給油口の位置がよくわかる。ブーム先端にはV字型の小翼があり、これを操作してブームの位置を調整する。だから「空飛ぶ(フライング)・ブーム」。U.S. Air Force photo by Senior Airman Lawrence Sena

P&D式は、給油機から伸びてきた柔らかい給油ホースの先についた漏斗状の受け口(ドローグ)に、受油機から前向きに突き出た給油装置(プローブ)を挿入するもの。こちらは受油機パイロットが自機を操縦して挿し込まなければならない。

プローブ&ドローグ式の給油を試みるドイツ空軍のA400M空中給油機。翼下の装置から延長されたホースの先端にドローグが取り付けられている。受油機であるアメリカ海軍のF/A-18戦闘機の機首からは、給油用プローブが突き出ている。U.S. Navy photo by Erik Hildebrandt/Released

両者のメリットとデメリット

ブーム式は時間あたりの給油量が多いことが特徴だ。たとえば、両方の給油方式を備えるKC-10空中給油機(アメリカ軍)の場合、P&D式の毎分1800Lに対して、ブーム式は毎分4200Lと、倍以上の給油能力がある。アメリカ空軍の戦闘機や爆撃機はすべてブーム式に対応しており、アメリカ製のF-15や日米共同開発のF-2を配備する航空自衛隊も同様だ。

一方で、アメリカ海軍はP&D式を採用している。給油装置が比較的小型で、「給油ポッド」として艦載機にも搭載できるからだ。海軍は専用の給油機を保有しておらず、現在はF/A-18戦闘機に給油ポッドを取り付けて給油任務に用いている。当然、F/A-18など海軍機・海兵隊機はP&D式に対応している。

アメリカ海軍のF/A-18E戦闘機が、胴体下に取り付けた給油ポッドからF/A-18G電子戦機に空中給油している。P&D式は小型の機体でも運用できるメリットがある。U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Kevin Tang

F-35戦闘機 同じ機種なのに、異なる給油方式

さて、航空自衛隊は新型戦闘機F-35の配備を進め、2018年からA型(空軍型)が、そして来年にはB型(海兵隊型)もやって来る。お気づきと思うが、この両者は給油方式が異なる。A型がブーム式で、B型はP&D式だ(なお、海軍型のC型もP&D式)。

KC-46Aは、ふたつの給油方式に対応しているので、F-35A/Bどちらにも給油できる。また、島嶼防衛作戦で重要な役割を担う陸上自衛隊のV-22輸送機もP&D式であり、給油が可能となる。さらに言えば、太平洋上で協同して任務にあたるアメリカ海軍/海兵隊機にも給油可能であり、より緊密な連携が期待される。給油方式が「ひとつ」増えただけだが、そこから得られるメリットは、「ひとつ」ではないのである。

アメリカ海兵隊のF-35B戦闘機が機首側面からプローブを突き出し、P&D式で空中給油を受けようとしている。同じF-35でもA型はブーム式、B/C型はP&D式だ。B型は構造的にも、垂直離着陸用のファンが機体中央に置かれているため、ブーム式に対応することは不可能だ。U.S. Marine Corps photo by Cpl. Brian Burdett/Released

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