「ちょうどいい」の新解釈が“Smile” Just Right Move

基本的なプラットフォームはキャリーオーバーだが、パワートレインは一新されている。

2024年6月27日、ホンダのコンパクトミニバン「フリード」のフルモデルチェンジが発表、3代目へと大幅進化を遂げた。ご存知のように、2代目モデルは非常に人気が高く、モデル末期となる2024年上半期だけでも3.8万台も売れていたほど。それだけの人気モデルゆえにフルモデルチェンジでは継承すべき要素も多かったと想像できる。そんな3代目フリードの開発におけるグランドコンセプトは「“Smile” Just Right Mover(“スマイル” ジャスト ライト ムーバー)」というもの。これまでフリードが培ってきた「ちょうどいい」というイメージに、笑顔というファクターをプラスするのが狙いといえる。

簡単に新型フリードのプロフィールを整理すると、市街地での扱いやすさと期待以上のスペース効率を誇るパッケージングを両立する基本設計は受け継ぎつつ、パワートレインやインテリアデザインなどを一新したものとなっている。

具体的にはハイブリッドシステムは、フィットやヴェゼルと同じ構造の1.5Lエンジン+2モーターの「e:HEV」となった。ガソリンエンジン車については1.5L 4気筒+CVTという基本設計を踏襲しつつ、燃料噴射方式を直噴からポート噴射に変更するなどコストダウンを図っている。

インテリアで大きく変わったのはメーター配置。従来はダッシュボード上に薄型メーターをレイアウトするものだったが、新型フリードではオーソドックスなインホイール位置に7インチ・フル液晶メーターを置いている。

パッケージングの基本となるシートレイアウトは、3列シートが2+2+2の6人乗りを中心に、2+3+2の7人乗りもラインナップ。広大なラゲッジスペースを利用できる2列シート5人乗り仕様も全グレードで選択できるようなっている。

グレード構成は大きく3つ。プレーンなルックスのAIR(エアー)と、装備を充実させたAIR EX。SUVテイストのCROSSTAR(クロスター)についてはホイールアーチプロテクターなどの専用エクステリアが与えられた。これによりボディサイズが5ナンバーに収まるAIRと、3ナンバーのCROSSTARと明確に区別できるようになったのもフルモデルチェンジにおけるトピックスのひとつだ。

プレーンなスタイリングは、シンプルライフを求める世代にぴったりといえそう。

静かさでもスムースネスでもハイブリッドFFが圧倒的

FFの試乗車はe:HEV AIR EX。エンジンが控えめで静かさも抜群。

今回、試乗することができたのはe:HEV AIR EXとe:HEV CROSSTARの2台。いずれも最新の2モーターハイブリッドを搭載しているのは共通だが、AIR EXはFFで、CROSSTARはAWDと駆動方式は異なる。また、前者は3列シート(6人乗り)、後者は2列シートというパッケージも違う。純粋に駆動方式での乗り比べをしたわけではないが、結論からいえば「街乗りはハイブリッドFF一択でしょう」と思えるほど乗り味は異なっていた。

e:HEV AIR EX(FF)で走り出して驚かされたのは静粛性の高さだ。駆動用バッテリーが3目盛り程度充電されていれば30km/h程度まではエンジンをかけずにEVモードで走行できるため静かなのは当然だが、ロードノイズの侵入も最小限。このあたりは、ディテールではなく車両全体での静粛性を考慮した「防音パッケージ」という新設計思想を導入した効果だろう。

また、プラットフォームの基本はキャリーオーバーといえるが、サスペンションは全体にブラッシュアップされている。従来からFF車のリヤサスペンションについては大容量のブッシュが生み出す余裕とスタビリティが美点だったが、それに負けないだけの余裕を感じさせるフロントサスペンションへ進化している。真っ直ぐ走っているときに感じるハンドリングの落ち着きは5ナンバーサイズとは思えないレベル。とにかく街乗りでの上質さは抜群だ。

高速道路も走ってみたが、余裕のパワー&トルクを誇る駆動用モーターのおかげで従来のハイブリッドとは段違いのスムースな加速を見せたのには大幅進化を感じさせられた。標準装備されるホンダセンシングのACC(追従クルーズコントロール)を利用して流れに乗って走ったときの静粛性も、街乗りで感じたものと変わらず、常に上級感あふれる走り味となっていた。

ホンダがAWDと呼ぶ4WD車は、SUVテイストのe:HEV CROSSTARを試乗した。

基本的な防音設計やシャシーセッティングの方向性は変わらないというAWDだが、こちらは上質というよりアクティブな印象が強い。リヤサスペンションの設計が大きく異なる影響もあってか、直進安定性よりも曲がりたがるキャラクターがチラチラを顔を覗かせることもあった。また、ホンダはハイブリッドでもプロペラシャフトを用いて、機械的に前後をつなぐ構造となっているが、その影響なのかAWDでは駆動系由来のノイズを多く感じることになった。

この点だけを取り上げると、リヤを専用モーターで駆動する電動4WDにすればいいのに…と思うかもしれないが、そうとも言い切れない部分もある。新型フリードにおいて4WDのことをAWDと呼んでいるのは、常時四輪駆動の領域が広いことを意味している。たしかに高速道路での加速から巡行といったシチュエーションにおいて後輪の駆動力が直進安定性に貢献している感触はあった。こうしたフィーリングには、リヤデファレンシャルの大容量化など駆動力を増強した進化が貢献しているという。

残念ながら、今回は試乗することができなかったガソリンエンジン車についても静粛性を高めているのは共通だという。従来の直噴エンジンをポート噴射タイプに変更したというのは、ともすればコストダウン優先の退化という風に見えるかもしれないが、ポート噴射のほうがインジェクター周りのノイズが少ないのも事実。市場が求める燃費性能や環境性能を満たすことができるのであれば直噴にこだわる必要もないだろう。

ただし、聞くところによるとガソリンエンジン車についてはCVTの制御も含めて、従来より加速性能を”あえて”抑えているのだという。従来型フリードでは車重やパワートレインのセッティングによって、じつはガソリンエンジン車のほうが鋭い発進加速を味わえたのだが、新型ではハイブリッドのほうが快速感を楽しめるという。

そうであれば、モーター駆動による段付きのない加速や圧倒的な静粛性が享受できるハイブリッド一択といえるだろう。そしてハイブリッドの中で選択するのであればクラスを超えた上質を味わえるFFを圧倒的におすすめしたい。

2列目中央が通路の6人乗りがベストチョイス

6人乗り仕様の2列目は独立したキャプテンシートとなる。中央のアームレストがないほうが動線的にはプラスな印象。

前述したように、3列シート(6人乗り/7人乗り)と2列シートという3種類のシートレイアウトを用意するフリードだが、個人的には2列目キャプテンシートの6人乗り仕様がオススメだ。今回の試乗では瞬間的な大雨に見舞われることもあったが、こうしたシチュエーションで6人乗りは有利だ。なぜならキャプテンシートであれば2列目と3列目の移動は室内で完結するため、雨に濡れることなく多人数が乗り込めるからだ。2列目を前にスライドして3列目に乗り込むのと比べて、手間が少ないためトータルでの乗車時間も短く済む。

唯一、気になったのは2列目キャプテンシートが両側アームレストを備えているタイプになっている点。この部分は従来型フリード同様なのだが、やはり大柄な人が移動しようと思うと、アームレストと体が干渉してしまう。中央側のアームレストがなくとも2列目の快適性は確保できるだろうから、もっと移動しやすさを重視したパッケージを提案することで、“Smile” Just Right Moverというコンセプト通りに、3列目乗員の笑顔が増えるのでは? と思ったりするのだが、どうだろうか。

1列目のシート間にジャストサイズの格納式テーブルが純正アクセサリーで用意される。
純正アクセサリーによってフロントマスクのイメージチェンジが可能。バンパーガーニッシュをブラックアウトするクロスター用は装着率2割という人気アイテムだ。

新型フリード主要スペック

最低地上高はFFが135mm、4WDは150mmとなる。
FREED e:HEV CROSSTAR(4WD/5人乗り)
全長×全幅×全高:4310mm×1720mm×1780mm
ホイールベース:2610mm
車両重量:1560kg
排気量:1496cc
エンジン:直列4気筒DOHC
最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
最大トルク:127Nm/4500-5000rpm 
モーター:交流同期電動機 
モーター最高出力:123PS(90kW)/3500-8000rpm 
モーター最大トルク:253Nm/0-3000rpm 
バッテリー:リチウムイオン電池
駆動方式:4WD
WLTCモード燃費:21.3km/L
最小回転半径:5.2m
タイヤサイズ:185/65R15
乗車定員:5名
メーカー希望小売価格:339万3500円
ハイブリッドに使われる4気筒ガソリンエンジンはポート噴射タイプ。i-VTEC機構も備える。
FREED e:HEV AIR EX(FF/6人乗り)
全長×全幅×全高:4310mm×1695mm×1755mm
ホイールベース:2740mm
車両重量:1460kg
排気量:1496cc
エンジン:直列4気筒DOHC
最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
モーター:交流同期電動機
モーター最高出力:123PS(90kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253Nm/0-3000rpm
バッテリー:リチウムイオン電池
駆動方式:FF
WLTCモード燃費:25.6km/L
最小回転半径:5.2m
タイヤサイズ:185/65R15
乗車定員:6名
メーカー希望小売価格:304万7000円
ホンダ新型FREED(フリード) ◆No.1_エクステリアデザイン Honda’s new FREED  ◆No.1_Exterior Design

[ English text next to Japanese ] 本田技研工業株式会社(Honda Motor Co., Ltd.)は6月28日に新型FREEDを発売した。2008年に初代、2016年に2代目が発売され今回で3代目となる。今回のコンセプトは”Smile” Just Right Mover (“スマイル” ジャスト ライト ムーバー)。人びとの暮らしだけではく、使う人の気持ちにも寄り添い、日々の暮らしに笑顔をもたらすクルマとなることを目指して開発した。さらに3WAY Universal Moverとして「日常使い」「レジャー使い」「介護使い」を定め、用途や手段を選ばずに快適に使える「標準車」を超える車を目指した、としている。 売れている車のモデルチェンジは難しいのだが、どのように目標を設定し開発を進めたかを開発者に聞いた。No.1_エクステリアデザイン、No.2_インテリアデザイン、No.3_介護使い、の3回に分けてお届けする。 Text:難波 治 Photos : Honda, Motor-fan, The Creative Commons Attribution, Osamu NAMBA Honda Motor Co., Ltd. launched the new FREED on June 28, the third generation after the first generation in 2008 and the second generation in 2016. The concept of the new car is the “Smile” Just Right Mover. It was developed to be a car that brings smiles to people's faces, not only in their daily lives, but also in the feelings of those who use it. The company has also defined the 3-way Universal Mover as “for daily use,” “for leisure,” and “for nursing care,” aiming to create a vehicle that is more than a “standard car” that can be used comfortably for any purpose or means. We asked the developers how they set their goals and proceeded with development, although it is difficult to remodel a car that is already selling well. This issue will be divided into three parts: No.1_EXTERIOR DESIGN, No.2_INTERIOR DESIGN, No.3_CARE USE. Text:Osamu NAMBA Photos : Honda, Motor-fan, The Creative Commons Attribution, Osamu NAMBA

https://motor-fan.jp/carstyling-jp/article/1357