連載

自衛隊新戦力図鑑

自律航行により広い範囲で機雷を捜索

海上自衛隊 護衛艦隊の公式Xアカウントが2月7日に、護衛艦「くまの」による掃海訓練の様子を写真付きでツイートした。「くまの」は、最新鋭の多機能護衛艦(FFM)「もがみ」型の2番艦である。「もがみ」型は護衛艦として初めて機雷戦(機雷の敷設と処分)能力を持ったことで知られている。

最新鋭護衛艦「もがみ」型がオーストラリア海軍に採用!? 次期フリゲート計画を巡り日独が一騎打ち

12月19日、「もがみ」型護衛艦の10番艦が進水し、「ながら」と命名された。「もがみ」型はステルス性に配慮した未来的なデザインで知られる海上自衛隊の新鋭護衛艦だが、オーストラリア海軍の次期フリゲートに選定される可能性が浮上し、にわかに注目が集まっている。【自衛隊新戦力図鑑】 TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

https://motor-fan.jp/mf/article/286599
海上自衛隊 護衛艦隊のXへの投稿。「もがみ」型護衛艦は多機能護衛艦(FFM)と呼ばれており、機雷戦能力も特徴的機能のひとつだ(写真/海上自衛隊護衛艦隊Xより)

注目したいのは掲載された写真だ。黄色い魚雷のような円筒形の物体が映っている。これは三菱重工が開発した機雷探知用の水中無人機「OZZ-5」であり、「もがみ」型のみに搭載されている。これまでも海上自衛隊では機雷探知等の能力をもった有線式遠隔操作型の水中無人機を保有してきたが、OZZ-5では自律航行型となった点が特徴だ。また、OZZ-5はリチウム蓄電池により最大9時間もの活動時間を持ち、あらかじめ設定した航路に従い母艦から離れて自律的に作業するため、母艦を危険に晒すことなく広い範囲の機雷を捜索できる。

「もがみ」型護衛艦の二番艦「くまの」。「もがみ」型はステルス性を考えて、艦の側面が傾斜した平面で構成されている。OZZ-5は、壁面のハッチを開き、クレーンアームを展張させて出し入れする(写真/海上自衛隊)

OZZ-5は船体中央部に搭載されており、使用する際には船体側面のハッチを開き、クレーンで懸吊して海面に下ろす。Xに投稿された写真は、まさにその瞬間だ。写真を見ると、艦の側から“さすまた”型の棒で押し出し、海面からはボートに乗ったEOD(水中処分員)がロープで引っ張っているが、これは海面の動揺でOZZ-5が船体に激突するのを防ぐためのもの。クレーンアームの短さ、一点吊りによる不安定さに原因があり、今後改善の余地があるようだ。

OZZ-5が船体に衝突しないよう、さすまたで支えながら海面に降ろす(写真/海上自衛隊護衛艦隊Xより)
ゴムボートに乗船しているのはEOD(水中処分員)。自ら潜水して機雷の処分を行う、海上自衛隊では珍しい肉体派のプロフェッショナルたちだ(写真/海上自衛隊護衛艦隊Xより)

OZZ-5は機雷探知でも優れた能力を備えている。海底面に沈底するステルス機雷や、泥に埋もれてしまった機雷など、これまで探知が難しかった機雷に対応し、フランス製(タレス社)の高周波合成開口ソーナーと、国産(NEC)の低周波合成開口ソーナー、ふたつのソーナーを備えている。通信機能としては、浮上時に母艦との通信を行なうための衛星通信用アンテナを尾部に備えるほか、海面上を航行する水上無人艇と音波通信を行なうことも想定されているようだ。

高周波ソーナーは海底面の沈底魚雷を、さらに低周波ソーナーは埋もれた機雷も探知できる。ソーナーの送受信部は底部にあり、前後のX舵によって姿勢を安定させる。なお、前方ソーナーは障害物を避けるためのもの(写真/防衛装備庁資料より)

海上自衛隊はますます機雷戦能力を高める

自律型水中無人機として、海上自衛隊ではOZZ-5に続いて、OZZ-6、OZZ-7、さらにOZZ-100と呼ばれる機種の開発を行っている。これらの具体的な能力は不明だが、OZZ-6が深深度用、OZZ-7が浅深度用とも言われている。

今後、日本が想定する有事は南西諸島や台湾など、広い海を舞台としている。最近は中国による「台湾海上封鎖」というシナリオが話題に上がるが、仮に実行するとなれば台湾周辺に大量の機雷が敷設され、軍事的にはもちろん、通商の面でも日本に与える影響は甚大だろう。それだけに機雷戦能力の向上は、海上自衛隊にとって大きな課題のひとつといえる。

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