約30年ぶりの『ルパン三世』の2D劇場用映画!
『LUPIN THE ⅢRD THE MOVIE 不死身の血族』を見たか!?
2025年6月27日(金)から劇場上映が始まり、現在大ヒット公開中の『LUPIN THE ⅢRD THE MOVIE 不死身の血族』。7月6日(日)までの10日間で、動員数は16万人、興行収入は2.4億円を突破した。

1967年にモンキー・パンチ氏によって生み出され、1971年のTVアニメのオンエア以来、『ルパン三世』シリーズは世代を超えて愛され続けてきた。その最新作となる本作は『DEAD OR ALIVE』(1996年)以来、約30年ぶりに2Dの劇場アニメーションとして制作された。
この作品は『REDLINE』(2010年)をはじめ、 海外では『マトリックス』3部作のオムニバスアニメ『アニマトリックスワールド・レコード』(2003年)を手掛け、『ルパン三世』シリーズでは『次元大介の墓標』(2013年)、『血煙の石川五ェ門』(2015年)、『峰不二子の嘘』(2019年)、そして同作の前日譚となる『銭形と2人のルパン』(2025年)からなる『LUPIN THE IIIRD』シリーズ全作のメガホンを取った小池健氏が監督を務めている。

小池健氏の作品といえば、そのスタイリッシュかつシリアスなテイストが持ち味だ。その作風は国内外で高い評価を得ており、同作でも繊細な作画による唯一無二の映像美と緊張感ある演出で、すべての『ルパン三世』に繋がる原点とも言える究極の物語を構築した。

脚本は『LUPIN THE IIIRD』シリーズで息の合ったタッグを組んだ高橋悠也氏、音楽はジェイムス下地氏が担当している。アニメーション制作は『ルパン三世 カリオストロの城 』(1979年。以下『カリ城』)をはじめ、数々のルパン作品を手がけてきた「テレコム・アニメーションフィルム」(以下、「テレコム」)。また、『鮫肌男と桃尻女』(1999年)や『PARTY7』(2000年) などで独特の世界観を作り上げている映像作家の石井克人氏がクリエイティブ・ディレクターで参加するなど精鋭スタッフが結集し、「誰も知らないルパン三世」が描かれている。

STORY
世界地図に存在しない“謎の島”を目指し、ルパン三世たちはバミューダ海域へ向かう。目的はこれまで彼らに刺客を送り続けてきた黒幕の正体を突き止め、隠された莫大な財宝を暴き出すこと。しかし、島へ近づいた瞬間、銃声が響く。狙撃によって飛行機は撃墜され、一行は死の島へと不時着。そこに広がっていたのは、朽ちた兵器や核ミサイルが山のように積まれ、かつて兵器として使われ、捨てられた「ゴミ人間」たちが徘徊する世界の終わりのような風景だった……。
霧に覆われたその島には、24時間以内に死をもたらす毒が充満し、逃げ場はない。島の支配者・ムオムは不老不死を掲げ、世界を選別と排除で支配しようとしていた。銃も刀も通じない「死なない敵」を前に、ルパンは過去と誇り、そして盗人としての矜持を賭けた知略の戦いに挑む!
果たして、ルパンは24時間以内にすべてを盗み出し、生きて島を脱出できるのか──。
なお、劇場に足を運ぶ前に注意点がひとつある。『不死身の血族』は1本の映画として完結しているが、Prime VideoやDMM TV、U-NEXT、dアニメストアなどの各配信サービスで現在公開中の前日譚『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』を事前に見ておくと作品をより深く楽しめる。
また、「すべての『ルパン三世』につながる物語」とのキャッチコピーが示唆している通り、シリーズ屈指のヴィランであるマモーとの物語(少々ネタバレすると、じつは本作にも登場シーンがある)に繋がることから、映画観賞後にが後日談に当たる『ルパンvs複製人間』(1978年。以下『複製人間』)をあらためて視聴することをオススメしたい。
小池節炸裂の『LUPIN THE ⅢRD』シリーズ完結篇
ダークでハードボイルドなアクション&サスペンス
筆者は公開直後に『不死身の血族』をさっそく映画館で見てきた。1977~1980年にかけてオンエアされた『ルパン三世 (Part2)』以降のTVシリーズや、宮崎駿氏と大塚康生氏の名コンビによるシリーズ屈指の名作『ルパン三世 カリオストロの城』とは異なり、今回の作品は老若男女問わず楽しめるファミリー向けの作風から離れて、『LUPIN THE ⅢRD』シリーズに共通するダークでハードボイルドなアクション&サスペンスを持ち味としている。

強いて言えば、モンキー・パンチ氏の原作マンガ、あるいは大隅正秋(現・おおすみ正明)氏が演出を担当したTVアニメ『ルパン三世 (Part1)』の初期エピソードに雰囲気は近いが、前者の『MAD』マガジンに代表されるアメリカン・コミック的なギャグとユーモアは控えめで、後者の1971年という放映時の世情を反映したアンニュイさが排除されており、小池氏らしい硬派な世界観でルパンを描いている。
そのため、人によっては「こんなの私の知っているルパンじゃない!」という人がいるかもしれない。だが、その感想はある意味で正しい。『LUPIN THE ⅢRD』シリーズは、ルパンらが出会って間もない頃のエピソード、すなわち、“まだファミリーではない”時代のルパン像を描いたものだからだ。

さらに加えて言えば、半世紀以上の長きにわたって続く『ルパン三世』シリーズの魅力は、クリエイターによって異なる解釈で描かれるルパン像も魅力のひとつである。”ルパン”というキャラクターはそうした解釈の違いを受け止めるだけの懐の深さを持っているのだ(なんと言ってもルパン三世は、本名不詳、性別男、国籍不明、顔も手口も違う、神出鬼没の大泥棒にして変装の名人なのだから)。

筆者は原作マンガはもちろんのこと「大隅ルパン」や「宮崎ルパン」を心から愛しているが、筆者が考えるもっともルパンらしいルパンと言えば、原作とTVシリーズPart1、Part2の魅力を巧みにバランスさせた吉川惣司氏が監督を務めた『複製人間』の「吉川ルパン」だ。しかし、そんな古くからのルパンファンである筆者をして『不死身の血族』は大いに楽しめた。

それは筆者がこの映画のテーマを理解した上で、小池氏が『ルパン三世』という作品を深く理解し、それを踏まえて独自の解釈で「誰も知らないルパン三世」像を描いたことを高く評価し、称賛しているからだ。

今さら過去に誰かが描いたルパンを焼き直しても新鮮な感動は得られない。小池氏のアプローチの正しさは過去4作の『LUPIN THE IIIRD』シリーズのクオリティの高さを見れば明らかであろう。
川尻善昭氏と故・金田伊功氏の作画・演出術の融合
ケレン味溢れる小池健氏の絵作りに目が離せない!
そんな小池氏の作画・演出の特徴といえば、大友克洋氏が製作総指揮と総監督を務めた『MEMORIES』(1995年)のエピソード2『最臭兵器』で自衛隊が中央道をスーパーカブで逃げる主人公を攻撃するシーンの前半カット(原画)や、『WXIII PATLABOR THE MOVIE 3』(2002年)のイングラムと廃棄物13号の戦闘シーン(原画)、『アイアンマン(PV)』(2010年)の空中戦(監督・キャラデザ・メカデザ・原画)や『REDLINE』(監督・作画監督・キャラデザ・メカデザ)が挙げられる。

これら一連のアクションシーンなどからも明らかなように、メカやキャラクターの描写は極めてリアルでありながら、いざ絵を動かすとスローモーションやフルアニメーション、極端なパースを使ったデフォルメ、特殊効果などを駆使した大胆な動きで、アニメならではのスピード感と躍動感を表現するところにある。

小池氏は高校卒業後、1980年代半ばにアニメスタジオの老舗「マッドハウス」を門を叩いたことでアニメーターとしての経歴をスタートさせた。すなわち、同スタジオの設立時からのメンバーである川尻善昭氏(代表作は『妖獣都市』『獣兵衛忍風帖』『バンパイアハンターD』など)の愛弟子ということになる。
たしかに迫力あるアクションシーンやメリハリをつけた動きは師匠譲りなのかもしれないが、川尻氏の作画や演出スタイルはもっとコンサバティブで、このような大胆な誇張は見られない。極端なパースを使ったデフォルメや特殊効果は、1970年代から1980年代にかけて「金田(かなだ)パース」で一斉を風靡した故・金田伊功氏の影響を強く感じる。
実際、小池氏の過去のインタビュー記事を読むと「『幻魔大戦』(1983年)の川尻善昭氏の絵柄が好きだった」と答えつつ、「金田伊功氏や森本晃司氏、なかむらたかし氏に憧れていた」と答えていることから、間違いなく影響は受けているのだろう。

川尻氏と金田氏の才能を受け継いだ小池氏による作画・演出の好例が、『LUPIN THE ⅢRD』シリーズ2作目『血煙の石川五ェ門』のクライマックスとなる五ェ門とホークの決闘シーンだ。一瞬たりとも画面から目が離せない手に汗握る作画と演出は、まさに小池氏の真骨頂。クリエイターとしての彼の才能と技術のすべてが凝縮されており、アニメーター、演出家としての彼の実力を雄弁に物語っている。こちらの作品も現在各配信サービスで視聴できるので、未見の人は映画館に足を運ぶ前に必ず見ておくことをオススメしたい。
実力派アニメーターが多数参加!
アニメ界の梁山泊「テレコム・アニメーションフィルム」
だが、アニメは多くのスタッフが制作に携わることで、初めて作品として完成する総合芸術である。小池氏がいかに才能豊かなクリエイターだったとしても、彼ひとりでは作品を作ることはできない。そこで重要なのが、制作を請け負うアニメスタジオなのである。

現在、上映中の『不死身の血族』を手がけるのは1975年に創業した老舗スタジオの「テレコム」だ。このスタジオの名前を聞いてピンと来ないようでは、アニメファン、あるいはルパン三世ファンとしてはモグリと言わざるをえない。同社はセガサミーグループの中にある「トムス・エンタテインメント」(旧・東京ムービー)傘下にある制作会社で、制作・作画・仕上げ・背景・コンポジット・編集とアニメ制作工程のすべてを自社で完結できる体制をとっている。

もともとテレコムは、東京ムービーの創設者だった藤岡豊氏が米国進出を夢見て、海外合作のフルアニメーション『NEMO/ニモ』を制作するために設立したスタジオである。創立間もない時期の「テレコム」がユニークだったのは、新人アニメーターの募集の際に条件として掲げたのが「アニメーションの経験がないこと」と「TVアニメを見ていないこと」の2点だった。

応募したのは美大出身者を中心にした42名の若手クリエイターの卵たちだ。そんな彼らを『狼少年ケン』のオープニングをひとりで作画したことでも知られる伝説の天才アニメーター・月岡貞夫氏が教育係としてアニメーターとしての心構えを叩き込み、月岡氏から教育係を引き継いだアニメ業界の大ベテラン・大塚康生氏がアニメ制作の実作業を叩き込んだ。

その際に指導役として大塚氏が呼び寄せたのが、田中敦子氏や原恵子氏、丹内司氏、友永和秀氏、山内昇寿郎氏らで、のちにジブリ作品や『ルパン三世』シリーズで活躍する実力派アニメーターを揃えたのだ。

そして、新人育成の教材代わりにと大塚氏が取ってきた仕事が、当時オンエア中だった『ルパン三世Part2』だった。ファンから「テレコム回」と呼ばれる同社担当のエピソードは、劇場用アニメもかくやというほどの作画クオリティとTVアニメとしては異例なほどの動画枚数、そしてキャラクターの表情が『Part1』に近いというのが特徴だった。

じつはテレコム回の初期には『Part2』作画監督の北原健雄氏が修正を入れていたが、いくら修正しても『Part1』風のキャラで作画で描かれるため「好きにしてください」と修正作業を放棄している。

また、『ルパン三世』シリーズ劇場版第2作の『カリ城』、そして『Part2』終盤の第145話「死の翼アルバトロス」と最終回「さらば愛しきルパンよ」では、監督(演出)と脚本を当時テレコムに所属していた宮﨑駿氏が担当している。その際に「東京ムービー」文芸部の職分を侵したことで、シリーズの文芸担当だった飯岡順一氏との間で確執を招いている。
このように「テレコム」はもともと『ルパン三世』シリーズとは関わりが深いスタジオであると同時に、創成期には作品のクオリティ向上のためにはスタッフ間の軋轢すら恐れない、実力に裏付けられた梁山泊的な雰囲気を持つスタジオであった。
その伝統は今も色濃く残っており、「テレコム」から紡ぎ出される作品のクオリティは極めて高く、なめらかな絵の動きはアニメ業界の中でも定評があり、「スタジオ・ジブリ」と並ぶ名門スタジオとして有名である。
そのような「テレコム」が制作を担当しているだけあって『不死身の血族』の作画クオリティは極めて高い。エンディングのスタッフロールを確認すると、作画監督は野口寛明氏、高田洋一氏、白井裕美子氏、末長宏一氏、三浦雅子氏とベテランが担当している。
原画として参加したアニメーターの中には、森久司氏(『天元突破グレンラガン』の合体シーンなど線の密度が濃く、カッコイイ作画が持ち味の天才肌)、田中敦子氏(『カリ城』でルパンと次元のスパゲティ争奪シーンを作画したことでも知られる)、友永和秀氏(『カリ城』のカーチェイスなどを担当したメカアクションで定評のある大ベテランで『ルパン三世PART IV』の総監督を務める)、酒向大輔氏(「ルパンがやりたくてアニメーターになった」と語るルパンに情熱を傾ける人物で『LUPIN ZERO』で監督を務める)など、文字数の都合で全員は紹介できないが錚々たる顔ぶれが並ぶ。
実力派のアニメーターを揃えた盤石な制作体制により、『不死身の血族』では小池氏からのオーダーに完璧に応えており、エッジの効いた独特な動きを表現している。また、『ルパン三世』シリーズの伝統に則り、アニメで動かすのが難しい戦闘機や装甲車などの複雑な形状のメカもCGに頼ることなくほとんどを手書きで表現している。
最近は技術の進化もあってCGでも魅力的なメカ描写ができるようにはなっているが、やはりアニメーターが手書きした誇張とデフォルメの入ったメカの動きは、実写にはないアニメならではの表現であり、じつに楽しい。
『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』
2025年製作/93分/PG12/日本
配給:TOHO NEXT
劇場公開日:2025年6月27日より大ヒット公開中
<STAFF>
原作:モンキー・パンチ
監督:小池健
脚本:高橋悠也
音楽:ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
主題歌:B'z アニメーション
制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作・著作:トムス・エンタテインメント
<CAST>
ルパン三世:栗田貫一
次元大介:大塚明夫
石川五ェ門:浪川大輔
峰不二子:沢城みゆき
銭形警部:山寺宏一
ムオム:片岡愛之助
サリファ:森川葵
ルウオ:鈴木もぐら
フウア:水川かたまり
圧倒的な作画と絵の動きで魅せるこの映画の中で、唯一気になったシーン
ただし、ひとつだけ気になったのが、ラストシーン近くの空母から単発のレシプロ爆撃機(登場が一瞬だったため機種は特定できなかったが、SBDドーントレスか?)が発艦するシーンだ。通常、艦載機が発艦する際には、空母は風上に向けて全速力で航行し、艦の移動によって発生する風(向かい風)と、航空機のエンジンが生み出す風を合わせた「合成風力」によって相対速度を得て、限られた長さしかない空母の飛行甲板からはじめて飛び立つことができる。

しかし、本作のように係留状態の空母からの発艦した場合、合成風力が得られず、また、飛行甲板の一部が破損し、航空機の残骸が転がっているような状況では充分な滑走距離を確保できないことから、無理に艦載機が飛び立とうとすれば、機体は飛行甲板から1度海面すれすれまで高度が落ち、ヨロヨロと飛び立つように描写しないと、絵的に説得力がなく、リアリティを感じることはできない。

ところが、本作では短い滑走距離にもかかわらず、爆撃機は何事もなかったかのように上方に向けてスゥーっと飛び立つのだ。第二次世界大戦中盤、山荘に幽閉されたムッソリーニを救出するためにドイツ軍特殊部隊が使用したFi156シュトルヒのようなSTOL(短距離離着陸機)機ならともかく、いくら爆装をしていないとは言え、米海軍の重い爆撃機ではこれは不可能な芸当だろう。

もちろん、アニメはエンタメ作品である。リアリズムの追及よりも作品としての面白さを優先するのは当然のことだ。たとえば、このシーンで言えば「長期間屋外放置されている航空機のエンジンがすぐに掛かるのはおかしい」とか「レシプロ機は油温や水温が安定するまで充分に暖機運転しないと飛ぶのは危険」などのツッコミは野暮というもので、仮にそのような意見を作品内に反映させたとすれば、物語進行のテンポが悪くなり、映像から得られる快感は損なわれてしまうだろう。
だが、筆者が指摘しているのはそのようなエンタメ性を損なうようなリアリズムではない。このシーンを合成風力を得られずにフラつきながら爆撃機が飛び立たせることで、メカとしてのリアリティが高まるだけでなく、絵的にもドラマ的にも緊迫感が増し、映画の完成度をさらに引き上げる効果が得られたであろうことから指摘をしているのだ。

これが平均的な能力の監督、凡百なアニメスタジオの仕事なら、筆者もこのような重箱の隅を突くような指摘をすることはなかっただろう。だが、『LUPIN THE IIIRD』シリーズは斬新かつ大胆なアクションを描くいっぽうで、細かな描写も疎かにしなかったことから、リアリティとケレン味溢れるアクションが同居した小池氏ならではの世界観を見事に描くことに成功している。

日本アニメ界の至宝とも言える小池氏、素晴らしい仕事ぶりで世界中のファンを常に感動させてきた「テレコム」をして、物語の終盤、最後の最後でなぜこのような描写になってしまったのだろうか? 空母や艦載機についてのリサーチが甘かったのか? それとも制作スタッフの誰もが気づかずに見過ごしてしまったのか? あるいは動画が上がった時点で気がついたものの作画を修正する時間がなかったのか?
いずれの理由なのか外野の筆者にはわからない。しかし、才能と実力のある彼らならばやって当然、やらなくてはおかしい演出だ。画竜点睛を欠くとまでは言わないものの、これはなんとも惜しいところではある。

気にならない人は気にならず、スルーしてしまうのかもしれないが、コアなアニメファンや、MotorFan読者のようなクルマ好きやメカ好きなら見過ごすことはできないだろう。もしもソフト化にあたって作画を修正する機会があるとすれば、このシーンはできることなら修正を望みたい。
『LUPIN THE ⅢRD THE MOVIE 不死身の血族』に登場するクルマとメカを一気に紹介!
さて、ここからはMotorFanらしく作品内に登場する自動車とメカについて写真を交えて解説していこう。本作においても『ルパン三世』シリーズの特徴である実在主義に基づくリアルなメカニズムが登場する。ただし、今回は物語の舞台がバミューダ海域に浮かぶ孤島ということで、市販車の登場シーンは少なめ。しかし、物語冒頭ではルパン・コレクションのスーパーカーが登場する。残念ながらスクリーンに映るのは数カットなので、今回筆者が確認できた車種のみを紹介する。

また、民間車両の出番が少ない代わりに、戦車を含めた軍用車両は多数登場する。そのセレクトは相当にマニアックなものも含まれており、メカファンいとっては注目に値するだろう。そちらもわかる範囲で解説して行きたいと思う。
物語序盤の回想シーンでルパンがドライブした「ランボルギーニ・ミウラ」
映画序盤の回想シーンでルパンがハンドルを握っていたクルマがランボルギーニ・ミウラだ。1966年3月のジュネーヴ・モーターショーにて発表されたこのマシンは、3.9L V型12気筒エンジンをミッドシップにマウントした元祖スーパーカーである。

一見するとFR車を思わせるロングノーズ&ショートデッキのクラシカルなスタイリングは、マルチェロ・ガンディーニの手腕によるものだ。欧州車では前例のない大排気量スポーツカーのシャシー設計を手掛けたのはジャンパオロ・ダラーラで、ジョット・ビッザリーニ設計のV型12気筒エンジンをミウラ用に改良したのはパオロ・スタンツァーニである。シャーシはマルケージ社によって製造された。

ルパンと言えば『Part1』の第1話「ルパンは燃えているか?!」では、スコーピオン・コミッショナーのミスターXをして「あれほど用心深く、抜け目のないルパンがことレースとなると一枚の招待状でコロっと引っかかる」と言わしめるほどルパンはカーマニアだ。これまでのシリーズではメルセデス・ベンツSSKやアルファロメオ・グランスポルト・クアトロルオーテ(異説ではモチーフとなった6C1750グランスポルトそのものとされる)、シェルビー・コブラなどのスポーツカーを乗り回していた。

のちに、そうした高級スポーツカーに飽きたのか、フィアット500Fを愛用するようになったのだろうが、『LUPIN THE IIIRD』シリーズで描かれるのはカーマニアであった若き日のルパンであり、ミウラというクルマのチョイスも納得というものだ。

じつは『Part1』の第13話「タイムマシンに気をつけろ!」では、ルパンはランボルギーニ・エスパーダを愛用していた。ほかに『Part2』の第1話「ルパン三世颯爽登場」ではカウンタックが登場するが、これは復讐の鬼と化したミスターXが用意したクルマなので、ルパンの愛車とは言えない。いずれにしても劇中でルパンがランボルギーニのステアリングを握るのは久しぶりのことだ。

劇中ではルパンコレクションが収蔵されるアジトに向かうのにルパンは青いミウラを使用するのだが、到着直後にムオムの配下によってアジトは爆破され、それに巻き込まれたミウラは、ルパンが楽しみにしていた車内に置かれたビンテージワインとともに破壊されてしまう。
ルパンコレクション1「アルファロメオ・カラボ」
1968年のパリサロンに出展されたアルファロメオのコンセプトカー。アルファロメオ・ティーポ33/2ストラダーレのシャーシを流用し、マルチェロ・ガンディーニが手掛けた近未来的な美しいボディを架装した。製作はカロッツェリア・ベルトーネが手掛けている。
エンジンは当初233psを発揮する2.0L V型8気筒DOHCエンジンをミッドシップにマウントしていた。だが、理由は定かではないが、のちにモントリオール用の2.6L V型8気筒エンジンに載せ替えられている。

柔らかい曲線と直線を組み合わせた特徴的なスタイリングは、スポイラーやウイングなどの補助空力装置に頼ることなく、優れた空力性能を発揮する。また、カウンタックより早く採用されたシザーズドアもこのクルマの特徴のひとつ。鮮やかなグリーンのボディカラーは車名の由来となったオサムシ科の甲虫をイメージしたものだ。
コンセプトカーということで製作は1台のみ(シャシー番号:750.33.109)で、現在実車はアルファロメオ・ミュージアムに収蔵されている。

ルパンのアジトに絵画などの美術品とともに保管されていたカラボだが、ルパンがなぜこのクルマを所有していたのか理由は不明だ。あるいは本物のカラボはルパンが盗んだことから、じつはミュージアムの収蔵車は盗難後に公にされることなく製作されたレプリカ……という設定なのかもしれない。

人知れずエンジンが換装された事実を結び付けて、ルパンの過去の戦利品としてカラボを登場させたのだとすると、監督の小池氏はクルマについて相当な知識を持つエンスージアストであり、遊び心にあふれた人物ということになる。なお、カラボの登場シーンは1カットのみで、ムオムの配下によって爆破されてしまう。
ルパンコレクション2「アルファロメオ・モントリオール」
ルパンのアジトに絵画などの美術品とともに保管されていたアルファロメオ製のスポーツカー。1967年のモントリオール万博に出展されたことが車名の由来となっている。
105/115のジュリア系のシャシーをベースに、アルファロメオ・ティーポ33用の2.6L V型8気筒DOHCエンジンをフロントに搭載している。劇中では破壊されたルパンのアジトにスクラップになった状態で登場する。

ほかにもルパン・コレクションのスポーツカーが登場するが、登場と同時にムオムの配下によってアジトが爆破されてしまうため、劇場では車種までは確認できなかった。興味がある人はソフト化された際にコマ送りで車種を確認してみてほしい。
地図にない島でルパンが逃げるのに使用した「ディムラー・スカウトカー」
第二次世界大戦中にイギリス軍が使用した速度性能に優れた偵察・連絡用装甲車。1938年にイギリス陸軍省が国内メーカーに偵察用装甲車の開発計画への応募を求め、これに応じたアルヴィス、BSA、モーリスの3社の中から最終的にBSAの設計案が選ばれた。
実際にこの車両を生産したのは、当時BSA傘下だった高級車メーカーのディムラーで、そのような事情から公式に「ディムラー・スカウトカー」と命名された(現場の兵士たちの間では「ディンゴ」の愛称で呼ばれていた)。

ディムラー・スカウトカーの乗員は2名で、全長3.2m×全幅1.7m×全高1.5mと装甲車としてはコンパクト。防御性能も小銃弾に耐えられる程度のものしか持たないが、その分車重は3tと軽く、88.5km/hの最高速度と優れた悪路走破性、抜群の信頼性を誇った。初期型のMK.Iでは4WSが採用されていたが、不慣れな操縦手には運転が難しかったため、この機構はマークII以降は廃止されている。

第二次世界大戦中は北アフリカ、ヨーロッパ、インド・アジア方面と、イギリス陸軍の全作戦地域で兵士たちのアシとして運用された。また、イギリスのディムラー工場だけでなく、フォード製のエンジンに換装した派生モデルの「リンクス」がフォード・カナダ工場で製造され、英連邦の各国軍でも使用された。
戦後は1952年に後継の「フェレット」装甲車が登場するまでイギリス軍で運用されたほか、ポルトガル軍やキプロス軍では1970年代まで使用が続けられた。また、1960年代にアメリカ陸軍が少数の中古車を購入し、ベトナム戦争に投入している。

劇中ではルパンが逃走する際に、地図のない島で放棄されていた車両(おそらくはMK.II)を使用した。走行中、いつのまにか謎の少女・サリファが助手席に乗り込んでおり、ルパンとの会話の直後に出現したムオムと死闘が始まる。
地図のない島で放棄されていた車両1「オースチン10HPティリー・トラック」
イギリス軍が第二次世界大戦初期に使用したライト・ユーティリティー・カーと呼称した軍用ピックアップトラック。兵士たちは親しみを込めて「ティリー」の愛称で呼んでいた。

この軍用車両はイギリス国内の自動車メーカーが自社の乗用車用シャシーを流用して開発された。劇中に登場するのは、そのなかの1車種でオースチン10HP GRAをベースとしたオースチン10HPティリーである。

大戦中盤以降、アメリカからウィリスMB/フォードGPW(ジープ)が供給されると最前線からは引き上げられたが、操縦性と乗り心地に優れていたことから英本土や後方地域を中心に終戦まで活躍した。
なお、英王室の伝統に基づき、大戦中に英国女子国防軍に従軍したプリンセス時代のエリザベス女王が10HPで車両整備を学んでいる。

劇中では地図のない島に多数のオースチン10HPティリー・トラックが放置されていた。

地図のない島で放棄されていた車両2「MGR-1オネスト・ジョン」
1951~1982年にかけてアメリカ陸軍が運用した同軍初の戦術核弾頭搭載地対地ロケット。1954年から在欧アメリカ軍に配備された。MGR-1は固形燃料ロケット・モーターを動力とする直径762mmの無誘導ロケット弾で、M54 5t軍用トラックから派生したM289もしくはM386発射機に搭載された。最大射程は26.5kmと短いものの、6人の兵士とクレーン1機で発射準備が整い、およそ5分で発射できる運用性の柔軟性から、MGM-5コーポラルやMGM-18ラクロスの配備後も運用が続けられた。

劇中では地図のない島にオースチン10HPティリー・トラックとともに多数が放置されている。なお、M289/M386発射機のベースとなったM54 5t軍用トラックは『複製人間』でエジプト国家治安警察のトラックとして登場している。

地図のない島で放棄されていた車両3「M4A1シャーマン」
第二次世界大戦時に登場したアメリカ製の中戦車。優れた機動力と火力をバランスさせたアメリカを代表する戦車である。自動車工場や機関車工場など11社もの工場で生産され、1942~1945年の間に5万台以上が製造された。M4戦車シリーズはアメリカ陸軍/海兵隊のみならず、イギリス軍やカナダ軍、自由フランス軍、ソ連軍などの同盟国に供給され、連合軍勝利の原動力となった。戦後も西側諸国を中心に広く使用され、朝鮮戦争やインドシナ戦争、中東戦争などで活躍している。

M4戦車シリーズは生産工場の設備による都合のほか、搭載する武装やエンジンごとに膨大なバリエーションが存在するが、劇中で不二子が「初期型」と喝破していた通り、地図のない島に放棄されていた車両は、もっとも早く実戦投入されたM4A1の初期型だ。

この車両は他のサブタイプと異なり、鋳造車体を採用しているのが特徴で、主武装は37,5口径76.2mm戦車砲を備え、エンジンは航空機から流用したコンチネンタルR-975星型ガソリンを搭載するタイプだ。

なお、1カットのみ砲塔後部に無線機を収納する外部収納箱を備えた車両も登場する。通常のM4A1はこのような装備を持たないことから、どうやらイギリス陸軍が運用していた58.3口径17ポンド(76.2mm)戦車砲を装備したシャーマン・ファイアフライが混じっているようである。

地図のない島で放棄されていた車両4「T-34」
M4A1シャーマン戦車と同じく、地図のない島に多数放置されていた第二次世界大戦で活躍したソ連製の中戦車。1940~1945年にかけて約5万7000台が製造され、戦後も朝鮮戦争やベトナム戦争、中東戦争、チェコ事件、中越戦争、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争などで使用され、北朝鮮やイエメンなど一部の国では現在も現役に留まる。

T-34は避弾経始を考慮した傾斜装甲を車体設計に取り入れ、主武装には登場時としては大口径の76.2mm戦車砲を持ち、燃費性能に優れ、火災の危険性の少ないディーゼルエンジンを搭載し、幅広の履帯とクリスティー式サスペンションによる優れた機動性を発揮する。
その先進的かつ、攻・守・走のバランスの取られた設計はミハイル・コーシュキン技師によるものだ。第二次世界大戦時の最優秀戦車と言って良いほどの傑作戦車であり、その後の各国の戦車開発に多大な影響を与えた。

劇中では85mm戦車砲を装備した後期生産型のT-34/85のほか、ナット型(六角形)砲塔を備えた1942年型もしくは1943年型のT-34/76(銭形が使用したのはこのタイプ)が登場する。
地図のない島で放棄されていたメカ「MIM-14ナイキ・ハーキュリーズ」
地図のない島で放棄されていたアメリカ製の地対空ミサイル。前任のナイキ・アジャックス・ミサイルの改良型で、誘導方式はレーダーで捉えた目標情報に基づき、地上から電波で指令を送りミサイルを誘導する無線指令誘導方式を採用する。

射程は145km、射高は1000~4万5720m。通常弾頭のほかW31核弾頭の搭載も可能(航空自衛隊が導入したナイキJは通常弾頭の運用能力しか持たない)。劇中ではMGR-1オネスト・ジョンとともに地図のない島に放棄されていた。
地図のない島で放棄されていたメカ「エセックス級航空母艦」
物語のクライマックスで舞台となるアメリカ海軍の空母。1942~1946年にかけて計23隻が就役し、第二次世界大戦後はジェット艦載機運用のため、そのうちの7隻は蒸気カタパルトやアングルド・デッキを追加装備する大規模な近代化改修が図られた。劇中に登場する艦は建造時の状態のまま放棄されていた。

ルパンを追う銭形警部が地図のない島への移動に使用した「Yak-36」
前日譚の『銭形と2人のルパン』に引き続き登場するソ連製のVTOL(垂直離着陸)機。Yak-36は1950年代後半に開発が始まり、1963年に初飛行したソ連初のVTOL機で、VTOL方式はのちにYak-38フォージャーにも採用されるリフトエンジン方式を採用していた。同機は制式採用されたものの、離陸時の過大な燃料消費による航続距離の短さ、兵装搭載量の少なさからわずか12機で生産が打ち切られた。

劇中ではインターポールの協力要請を受けたロビエト連邦軍(おそらくは海軍)が銭形に提供したようだ。実機は劣悪な操縦性とさまざまな設計上の問題から武装は施されなかったものの、銭形が登場した機体は機関砲(おそらく口径は23mmか30mm)と翼下パイロンに無誘導のロケット弾ポッドを備えていた。

映画序盤ではルパンらが乗るセスナ337スーパー・スカイマスターと空中戦を演じる。Yak-36の航続距離は500kmと極端に短いため、ルパンを追う銭形はロビエト連邦からバミューダ海域へ移動するのに、給油のため何度も着陸して飛び石伝いにやってきたに違いない。速力に勝るYak-36が地図のない島の上空でやっとルパンのセスナに追いついたのはそのためだろう。

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映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』公式サイト