連載

自衛隊新戦力図鑑
航空自衛隊F-2戦闘機。対艦ミサイル4発を積み、いわゆる戦闘攻撃機の運用と空対空戦闘の運用も可能な機体へ発展している。しかし各国ともが開発しようとする最新世代機には、文字どおり「世代」が違い追いつかず仕方がない。現役のF-2が限界を迎えるのは当然。写真/航空自衛隊

BAEとはどんな会社か?

2022年5月14日の土曜日、ある防衛関係の大きなニュースがサラリと短く流れた。内容は航空自衛隊が計画する次期戦闘機「FX(Fighter X)」の開発を、日本とイギリスの共同体制で行なう方向で日本政府は最終調整に入ったというものだった。今年2022年末までに日英政府で正式合意へ運び、それまでに開発計画全体を整えるという。

次期戦闘機の開発計画に参画する企業は日本が三菱重工、英国はBAEシステムズ。この2社が主力企業になるという。そして次期戦闘機とはF-2戦闘機の後継を指す。三菱重工はご存知の通りだが、BAEシステムズも世界的な航空防衛関連企業だ。まずはそのBAEの概要から。

BAEシステムズの前身にはブリティッシュ・エアロスペース(BAe)社があって、これは1970年代後半にそれまで英国内にあった4つの航空機メーカーが統合して生まれた国有の航空宇宙企業だった。80年代には民営化政策の実施をうけ、そのあと1999年にブリティッシュ・エアロスペースとマルコーニ・エレクトロニック・システムズの合併で作られたのがBAEシステムズだ。本社は英国ファーンボローに置いている。

英国の次世代戦闘機開発計画「テンペスト」

英国の次世代戦闘機開発計画「テンペスト」の機体。2018年のファーンボロー国際航空ショーでBAEシステムズ社が発表した。テンペストはユーロファイター・タイフーンの後継となる第6世代ジェット戦闘機。ベクターノズルを採用したステルス双発戦闘機で、高度な人工知能と指向性のレーザー兵器の搭載を予定している。また、無人機のコントロール機能も持つとされる。

BAEシステムズは英空母「クイーン・エリザベス」の開発や製造、維持管理にまで深く関わり、同空母に艦載しているステルス戦闘機F-35Bと、F-35シリーズのプログラム全体にも大きく関わっている。

さらには英国の次世代戦闘機開発計画「テンペスト」を進めるのも同社だ。テンペストはユーロファイター・タイフーンの後継となる最新の第6世代ジェット戦闘機とする計画だ。テンペストはステルス双発戦闘機でベクターノズル(推力偏向機構)を備え、高度人工知能と指向性レーザー兵器の搭載を予定するもの。無人機の制御機能(UAV戦闘支援システム?)の搭載も噂される。就役目標は2035年としている。

テンペスト開発計画は英国とBAEシステムズを中心にして、欧州での共同開発体制に各国が興味を示したり様子見したりする動きや、参画意志を具体化させている最中だ。テンペスト計画は現在、英国・イタリア・スウェーデンが計画の真ん中にいて、競合する開発計画を持つドイツ・フランス・スペインは自陣営の計画に参画を募りながら様子見の状態か。ロシアのウクライナ侵攻で先行き不透明の影響を受けながら、次世代「欧州標準機」の主導権争いが始まっている。

こうしたテンペスト計画を踏まえると、日本政府が航空自衛隊の「次期戦闘機=F-2戦闘機の後継」の共同開発相手をBAEシステムズで決定するならば、F-2後継機はテンペストと事実上の共通戦闘機となる可能性が高まると思う。

BAEシステムズと我が国との間で昨年、次のような物事があった。

英空母「クイーン・エリザベス」が2021年9月4日に日本を初めて訪れ、横須賀へ入港し、中国を睨みながら自衛隊などと共同訓練を重ねていた時期のあと、BAEは日本法人の設立計画を発表した。計画に関するリモート記者発表会が2021年10月に行なわれた。この発表会で、日本での新会社設立はアジア地域での市場性やビジネス面の勝機を捉えてのものかとの日本メディアの質問に対してBAEは肯定的なニュアンスで答えていたのが印象的だった。BAEは日本の新会社を通じて日本の防衛産業界との協力体制を作ることや、自衛隊との関係強化を目指すという。余談だが、この記者発表会開催の知らせは大メディアから筆者のようなフリーランスにまで届いた。BAEの徹底した広報姿勢と、その意を受けた代理業者のやはり徹底的な作業には驚いた。

そして実際そのとおりに、2022年4月6日、「BAE Systems Japan 合同会社」(BAE Systems Japan GK、東京・赤坂)を設立している。実際の設立日は同年1月28日だったという。

英国の現役航空母艦が物理的に日本へ初来航し、自衛隊などと各種の共同訓練を重ねたあと、英防衛関連巨大企業が日本に新会社を作り、そして日本の次期戦闘機=F-2後継機の開発にも加わる予定だという。加えて次期戦闘機のエンジン開発についても日英共同研究とし、英ロールスロイス社とIHIとの共同体制が2021年末には合意している。世界情勢や安全保障環境の変化に対応した大きな動きは確かに存在しており、なかでも英国とBAEシステムズがアジア方面に意欲的であることはこれらの状況からもわかる。

アメリカはどう絡むのか?

ここまで「日英」という言葉が連続したが、同時にそれで日米関係が次期戦闘機選定や開発等の方面で途絶えるわけでもなさそうだ。航空自衛隊が計画する次期戦闘機の運用構想に必要な要素のひとつ「無人機による戦闘支援システム」は米国と共同開発を続けるらしい。これはおそらく米ロッキード社が引き続き主導的立場をとるものと思われる。またもやブラックボックスだろうけれども。

ここまでを整理すると、次期戦闘機の機体は三菱が主導しながらBAEと共同開発する、エンジンはロールスロイスとIHIとの共同による、無人機・戦闘支援システムはロッキードのものを持ってくる、武装システム全般にもBAEが関与する、どうやらこれが大きな骨組みと予想できる。まだ憶測レベルだが。

繰り返しになるが次期戦闘機はF-2戦闘機の後継となる。F-2は退役を睨んでいて、2030年代には代替機を導入し始める必要がある。防衛省は次期戦闘機の就役目標を2035年としている。これはテンペストと同じだ。そこまでの年月は戦闘機を開発する期間としては短い時間だと思う。

同時に過去それぞれの時代の次期戦闘機選定事業のなかでは少ない頻度ながら欧州機が候補に組み込まれていたのも事実。しかし毎回、結果的に採用機体には残らなかったが。

防衛省発表資料「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」に描かれた将来戦闘機コンセプト図。資料/防衛省
同じく「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」に描かれた将来戦闘機コンセプト図。将来戦闘機の航空戦闘では戦闘機が複数機の無人機・ドローンを操り戦闘する。資料/防衛省

新型戦闘機というものの開発・導入事業に関して、その選択肢は欧州機や米国機、共同開発機や国産機と、本来なら多様でいいはずだが、これは原則論。抱える事情は多い。我が国はヒトモノカネが少なくなり、対して日本の防衛環境はますます過酷になる。十数年後の厳しい安保環境下で必要な性能を発揮する機体を整備するには今より戦略的で挑戦的な行動が必要だと思う。

日本防衛のために最良な機体を造り出すこと、または最適な機体を手に入れることが次期戦闘機開発・導入事業の本質だと確認しておきたい。筆者は軽い軍事マニアで「国産新型戦闘機」という響きや物体にロマンを感じる気質だが、この先の時代には遊びの時間は急減少すると思っている。実利追求姿勢が重要だ。今後の次期戦闘機共同開発状況については随時ご紹介するつもりです。

F-15J:開発から45年。それでも第一線で活躍する主力戦闘機。 いまも約200機が防空任務やスクランブルに対応する

日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。本連載では、ここでは、そのなかからいくつかを紹介しよう。今回は航空自衛隊の主力戦闘機、F-15Jを紹介する。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://motor-fan.jp/mf/article/25037/
航空自衛隊:次期戦闘機のための実験機「先進技術実証機X-2」、将来の戦闘機は無人機運用を含む高度なネットワーク戦闘能力を持つ

次期戦闘機「FX(Fighter X)」の研究開発が進んでいる。できれば国産で、最新世代のステルス戦闘機を作り出したい。実際は当初より米国と共同歩調を取るもので日米共同開発と後世に呼ばれるのかもしれない。現用の主力戦闘機F-2の後継機となり、F-15Jすらも更新、F-35に比肩する存在になるという。 TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://motor-fan.jp/mf/article/23957/

連載 自衛隊新戦力図鑑

業界人コラム 2025.11.30

ずんぐりした船体を揺らして氷を砕く!? 哨戒艦「マックス・バーネイズ」来日

業界人コラム 2025.11.23

将来の無人機は「声」で指示を受ける!? 有人戦闘機×無人機の連携に向けた研究

業界人コラム 2025.11.16

海上自衛隊の新型「さくら」型哨戒艦が進水。小型ながら「無人機母艦」として活躍か?

業界人コラム 2025.11.09

攻撃ヘリは時代遅れなのか? ドローン時代に適応した新たな能力に生き残りをかける

業界人コラム 2025.11.02

海上輸送群の小型輸送艦「あまつそら」が進水。船ごと海岸に上陸する「ビーチング」能力とは

業界人コラム 2025.10.26

ウクライナが選んだのは「しぶとく戦う」戦闘機――JAS-39グリペンとは?