解説・フルチョイス・システムの要・カーピューター

まずはお詫び。
前回の「フルチョイス・システム」の説明の中で、「顧客は、与えられた事細かなこれら1~7の選択しろから、販社のコンピューター「カーピューター」で希望をオーダーしたわけだ。」と書いたが、そうではない。

エンジン、トランスミッション、外観、内装、色など、各々用意された中から、顧客が予算や好みに応じて自在に選ぶことができるのが「フルチョイス・システム」なわけだが、選択肢も組み合わせも膨大になるだけに客が迷うことは必至だ。
それを手助けするのが「カーピューター」である。

画面に表示した質問項目に答えを入力し、その回答から顧客に適切な、「おすすめのセリカ」を提案する・・・のがカーピューターだ。

お詫びとともに訂正します。

もうひとつ、トップ画像のセリカETの横に1600GTの写真を載せているが、1600GTがフルチョイス・システムの対象外であることは先刻承知。
都合というものがあってのことで、それ以上追求しないやさしさを、読者のみなさまに求めたいところです。

さて、前回、「カーピューター導入は、当初は試験的に、名古屋地区5つのディーラーで・・・」と書いたが、正確にはセリカ発売1970(昭和45)年12月1日の1週間後・・・12月8日から試験的にスタートした。

カーピューターが設置されたのは、当時の以下の販売店である。

・トヨタカローラ中京本社
・トヨタカローラ愛豊本社
・トヨタカローラ名古屋本社
・トヨタカローラ愛知本社(当面は千種営業所)
・名古屋トヨタディーゼル(当面はトヨタ栄町のサロン)

質問項目は次のようなものだ。

・あなたの年齢?
・現在クルマを持っているか?
・そのクルマは何台目か? そのタイプは?
・現在の予算は?(範囲は60万~120万円ほどまである)
・エンジンは、1400、1600、1600ツインキャブ、1600DOHCのどれがいいか?
・トランスミッションは4MT、5MT、トヨグライドのどれがいいか?
・あなたはクルマをどのように使うのが好きか?
・あなたにとってクルマとは?
・ボディカラーはどれがいいか?
・インテリアはどれがいいか?

など。

そのひとの個人的趣向や、セリカそのものについてまでを混在させながら、基本的な質問が約15項目。
返答次第で次の質問も変化し、その総数はざっと150項目ほどにまで上ったらしい。

当時のモーターファンでは、このカーピューターを使ってシミュレーションをしている。
ほんとうにいたのかどうか甚だ怪しいのだが、予算70万円の「Aくん」が登場、カーピューターと対話している。

Aくん希望のセリカは、1600ccツインキャブ、5速MT、木目内装だが、予算70万円に対して次のような流れになったらしい。

●イマ アナタ ノ オキメ ニ ナッタ コウモク オ モトニ アナタ ノ オコノミ ニ アワセテ ツギ ノ ヨウナ ★セリカ★ オ デザイン イタシマシタ。
(いまあなたのお決めになった項目を元に、あなたのお好みに合わせて次のようなセリカをデザイン致しました。)

●ナオ アナタ ノ オキメ ニ ナッタ コウモク ノ ★セリカ★ ハ ゴキボウ ノ カカクク デハ デキマセンデシタ。
(なお、あなたのお決めになった項目のセリカは、ご希望の価格ではできませんでした。)

●ゴサンコウ ノ タメ ニ デキルダケ ゴキボウ ノ カカク デ アナタ ノ オコノミ ニ アワセタ ★セリカ★ モ ゴヨウイ イタシマシタ。
(ご参考のために、できるだけご希望の価格であなたのお好みに合わせたセリカもご用意いたしました。)

イカガデスカ。 ジュウブン ニ ゴケントウ クダサイ。
(いかがですか。充分にご検討ください。)

・・・・・・・・・。

どうにも「ハハキトク スグカエレ」の電報みたいで、カタカナ羅列のままでは読みづらいと思ったので、下にカッコつきで翻訳しておいた。

この流れを見ると、希望の仕様と予算をてんびんにかけて釣り合わないとなるとちゃんと「だめよ!」となるが、それで終わらせず、予算に適切なセリカを提案してくるところが、当時のコンピューターにしてなかなかの営業努力だ。
エンジンはそのままに、4MTに格下げし、木目のないスポーツインテリアを提案。
その価格が、「これくらいのオーバーなら、ま、いいかっ!と思わせる73万9500円なのが涙ぐましい。

とにかく一度つかんだ顧客は決して手放さず、別提案をしてつなぎとめるのである!
それで双方納得ずくの結果が出たら、次のステップ・・・注文書記入(次項)に移り、セールス氏と確認して契約となったのだろう。

そのカーピューターでの入出力の様子が次の写真だ。

まずは名古屋地区のトヨタカローラ店5店舗に置かれた「カーピューター」。

当時のモーターファンとこの写真から推測するしかないのだが、カーピューター本体は、昔のオーブンみたいな特大筐体に画面がはめ込まれた姿をしており、どうやらペンタッチで入力したらしい。

質問表示やその質問に対する顧客の返答操作(希望の入力)は画面上で行なうが、希望に対するカーピューターからの回答は、左のタイプライターみたいな機械から出る。
つまり「カーピューター」は2台構成・・・いまの目で見ると、進んでいるのかそうでないのかよくわからなくなるが、1970年当時としては、やはりがんばりのあるデバイスだと思う。

そのやり取りの出力が次の写真だ。

カーピューターからの出力。見やすさなどは二の次だ。
** バツクミラー.インテリア * ボウゲンシキ * ボウゲンシキ ** シート.カラー * ブラツク * ブラツク ** ・・・・・・
カーピューター自身はこの後すぐ忘れるつもりらしい。

当時の注文書でセリカ2台を注文してみる

いくらコンピューターを導入したといっても1970年当時のこと。
すべてがすべて電子機器任せというわけにはいかない。

前回、全国の販社とトヨタ自販、トヨタ自工をオンラインで結んで毎日発注データを送り、工場に生産指示を届ける「デーリー・オーダー・システム」の話をしたが、紙の注文書も存在する。

ここにその当時ものの注文書があるのでお見せしよう。
正しくは「セリカ車両注文仕様明細書」。

セリカ車両注文仕様明細書。当時ものだ。

後に追加された「1600GTV」の表記があるので、1970年12月当時のものではなく、どうやら1972年10月以降のものだと思うのだが、当時モンには違いない。

いまのようにコンピューターで入力したものも含めて印刷するのではなく、あらかじめ記載された項目に自分で〇をつけて記入するものだ。
注文書ナンバーも顧客氏名も営業所名もセールスマン氏名も手書きだ。
前回述べたように、契約が終わると販社はこの用紙をテレックスでトヨタ自販に送ったのだろう。

2025年5月現在、1970年12月当時のカーピューターを試すことができないので、その代わり、この用紙に記入をしてセリカを注文してみよう。
といってもボールペンで記入するだけだ。

さあ、1600ツインキャブと5MTを簡素なET外観で包み、爪を隠した能ある鷹でいくか?
やる気モードのST外観に4MTの1400を組み合わせ、狼の皮をかぶったヒツジでいくか?

いいや、どうせなら両方いってみよう。
見やすいよう、赤で記入しておいた。

サンプル1.ツインキャブ1600・トヨグライド3速のETを注文する

まずは「爪を隠した能ある鷹」バージョン。

いちばん安いETの内装をカスタムSWにし、フルオプションにしたら100万を超えてしまった。
当時の一般オーナー車両の1400ET。

当然、外観は簡素なET。
ここに1600ツインキャブの3速トヨグライドを組み合わせる。
外側とは逆に、中身はとびきり豪華にしてカスタムSW内装を選び、フルオプションでAM/FMラジオ、カーステレオ、パワーウインドウ選択しておこう。
暑さにめっぽう弱い私としては、カーエアコンは欠かせないのだ。
あと、1600GTでないエンジンの中ではマックスパワーの持ち主なので、安全のためにコラプシブルハンドルも注文。
安全第一だ。
ただ、ET外装だとエクステリアオプションの部分は黒塗りで何も選べない。
パワーウインドウがついていても、後ろのくもり取り熱線はないというちぐはぐさがたまらないクルマとなる。

見た目は簡素でも中身はグランドツアラーの1600ツインキャブ・3速トヨグライドのETの完成だ。

サンプル2.1400・4MTのSTを注文する

もうひとつは、「狼の皮をかぶったヒツジ」のセリカ。

STを選んでも全体の仕様を最低限にすればかなり安く変える。1400ST、4速MTで75万4000円也。

いちばんアンダーパワーでマニュアルシフトの4MTを、見た目は「セリカ!」な、青のSTエクステリアで包む。
コラムシフトの3速があったら選んだに違いない。
外観に反してエクストラチャージが0円の「ベーシック」内装を選ぶほどだから、単品オプションも最低限でいこう。

ただし前述理由でカーエアコンが必須なのと、交通情報くらいはほしいのでAMラジオはつけておく。
1400の4MTだからスピードは出ないだろう、前輪ディスクブレーキは頼まず、ドラムのままでいく。
コラプシブルハンドルも同様だ。
ただ、後方視界確保から、豪華仕様に仕立てたETでは選べなかった「熱線入りリヤウインド」には〇をつけておいた。

というわけで、「名ばかりのGT達」と違い、外観は一見やる気モードで、「道をあける」前から常に左側が走行車線となるセリカSTの出来上がり。

ただし、あくまでも注文書レベルでの話である。しかもいまごろ。

こんな具合に、当時の顧客も販社セールスマンもセリカをオーダー名としたのだろう。

最後、前回載せ忘れた一部販社オプションの写真もお見せしておこう。

エクステリアオプション:エラストマ・カラーバンパー。
エクステリアオプション:レザートップ。
エクステリアオプション:熱線入りリヤウインドゥ。
インテリアオプション:タイムリングつき三針時計。
インテリアオプション:カーエアコン。
インテリアオプション:昼夜切替式防眩ミラー。
インテリアオプション:カーステレオ。
インテリアオプション:パワーウインドゥ。
インテリアオプション:AM/FMラジオ。
インテリアオプション:AMラジオ。
インテリアオプション:ヒーター。

フリー選択のその後

客の好みに仕様を造り上げることのできる売り方・買い方は、初代セリカが最初だが、次のセリカでは廃止されていることから、長続きしなかったことがわかる。
生産効率の問題や、やはり納期が長くなるといった問題もないではなかったのだろう。

ではクルマの自由な仕様選びシステムがなかったかといえばそうでもなく、その後の例には1988(昭和63)年の日産セフィーロ、2002(平成14)年11月に復活した三菱コルトがある。

日産セフィーロ 「セフィーロ・コーディネーション」

セフィーロのそれは「セフィーロ・コーディネーション」と呼ばれるもので、エンジン、サスペンション、車体色、内装素材&色を自由に組み合わせられるとしたものだ。
内訳は「ファンクション・パフォーマンス・コーディネーション」「カラー・ファブリック・コーディネーション」の2つ。

日産セフィーロ(1988年)。お元気ですかぁ~?

「ファンクション・パフォーマンス・コーディネーション」はエンジン3種、サスペンション3種を用意し、それぞれの組み合わせを可能としている。

「セフィーロ・コーディネーション」の中の「ファンクション・パフォーマンス コーディネーション」一覧。
「セフィーロ・コーディネーション」設定機種。


「カラー・ファブリック・コーディネーション」は、9色のボディカラー、3タイプ・2色のシート地&ドアトリム地を用意し、ボディ色と内装素材&色の組み合わせを可能としている。

もうひとつ、「カラー・ファブリック コーディネーション」リスト。

三菱コルト 「カスタマーフリーチョイス」

コルトは「カスタマーフリーチョイス」を売りにした。
あらかじめ用意されているのは1300と1500それぞれに「スタンダード」「カジュアルバージョン」「エレガンスバージョン」を用意。
そこから先は、次の表を見てもらうほうがわかりやすい。

三菱コルト(2002年)。
コルトのカタログ巻末にあった、カスタマーフリーチョイス・オーダーリスト。わかりやすい、実にわかりやすい。

誰が見ても、何をどう記入するのかが一目瞭然な表になっている。
まず丸裸の「スタンダード」を用意したのがいいし、選択分野を「選択装着」と「追加・変更・取り外しオプション」とわかりやすいのも優れている。
表を眺めると、コルトの方がセフィーロよりも、セリカ「フルチョイス・システム」よりも、いっそCoCo一番屋(前回記事)に近く、三菱自動車の思いやりがこの表から見て取れ、拍手パチパチである。
企画開発者や設計陣、生産工場のひとたちは、ずいぶん大変な思いをしたのではないだろうか。

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2回に渡ってセリカの「フルチョイス・システム」についてお送りした。

もともとクルマにグレード分けがされていたり、オプションの組み合わせに制約があったりするのは、少ない需要に対してまでも生産することが効率的でないこと、納期が長引くことを避けたいためだ。
「このような仕様、このような装備組み合わせの需要が多かろう」と予測した仕様が、いわゆるグレードなのだ。
逆にいうと、希少な組み合わせでも、ユーザーが長く待つことを厭いさえしなければ、「造りますよ」ということになる(効率の件はともかくとして。)。

ところで、理由はいろいろだが、ここ何年か、注文しても納車までの期間が年単位という新車が増えてきた。
勝手なことをいうと、私たち日本のユーザーも、納車待ちに対して気長に待つことに慣れている部分もあると思う。

ここいらで、セリカやコルトのように(あとCoCo一番屋も)、きっちり仕様を選択できる売り方をもういちど試してみたらどうだろう。
納車までが長くなるのを承知の上で自分好みに注文し、ようやく迎えた新車なら、より愛着も湧くことだろうし、クルマだって喜ぶのではないか。
そんな売り方、買い方をいま再び試してみるのも悪くないと思う。

セリカ話はまだまだ続く・・・