ジェットフォイル並みのスピードで移動する大型客船のよう

5代目のレンジローバーが発表されたのは2021年のこと。日本では2022年1月に受注を開始した。発表当初からレンジローバー初となるBEVモデル、レンジローバー・エレクトリックの登場が予告されており、現在も開発プログラムは進行中。正式発表まで、もう少し待つ必要がありそうだ。
日本で手に入るレンジローバーのバリエーションは多彩で、パワートレーンは3.0L直列6気筒ディーゼルのMHEV(マイルドハイブリッド車)、3.0L直列6気筒ガソリンターボのPHEV(プラグインハイブリッド車)、そして4.4LV型8気筒ガソリンターボの3種類である。ボティタイプはスタンダードホイールベース(SWB)とロングホイールベース(LWB)の2種類あり、シートレイアウトは4人乗り、5人乗り、7人乗りがある。

今回試乗したのは、現行のラインアップで最も電気リッチなPHEVで、車名はレンジローバー・オートバイオグラフィP550eである。SWBで5人乗りだ。SWBといえどもホイールベースは2995mm(LWBは3200mm)あり、全長が5mを超えて取り回しに難が予想される。そこで、5代目レンジローバーはオールホイールステアリング(AWS)と名づけた後輪操舵システムを適用し、小回り性を確保した。システムサプライヤーはアイシンである。AWSは逆相側に最大7.3度切れ、10.95mmの最小回転直径を実現している。
車体骨格の80%にアルミを用いた新設計のプラットフォームは、従来比で50%のねじり剛性向上を果たしたという。電子制御のエアサスペンションを搭載し、車高を可変制御。乗り降りする際は50mm下げることが可能だし、高速巡航時は空気抵抗を減らすために16mm下げ、オフロード走行時は走破性を高めるために75mm、もしくはさらに60mm足して135mmも車高を上げることが可能。

4WDシステムは機械的に前後をつないだコンベンショナルかつ信頼性の高い構造。グリップレベルとドライバーの操作入力を100分の1秒単位でモニターし、最適な駆動力配分を行なう。例えば、発進時とオフロード走行時、そして路面凍結の恐れがある外気温が3℃以下、160km/h以上の超高速走行時(国内では無関係だが)は必ず4WDになる。いっぽう、35km/hから160km/hの間ではフロントへの伝達を断って後輪駆動となり、駆動系を連れ回すことによる損失の低減を図る。
ダイナミックレスポンスプロと呼ぶ車両制御機能もレンジローバーが搭載する特徴的な技術のひとつで、パワートレーン、電子制御エアサスペンション、各輪ブレーキを統合的に制御することで、旋回時のボディロール角低減、応答性の高いステアリングフィール、オフロード走行時のホイールアーティキュレーション(前後逆位相時の接地性)の向上を実現する。
レンジローバーはディフェンダーと同様にテレインレスポンス2を搭載しており、走行状況に応じてサスペンションやパワートレーン、デフなどの車両設定を自動的に選択してくれる(カスタマイズや手動での切り換えも可能)。ラグジュアリーな見た目ではあるが、走行性能は本格オフローダーのディフェンダー譲りだ。


PHEVは最高出力404.5kW(550ps)、最大トルク800Nmを発生する3.0L直列6気筒ガソリンターボエンジンに、最高出力160kWを発生するモーターを組み合わせている。モーターは、ZF製8速ATの変速機構とエンジンの間に位置。床下に搭載するバッテリーの総容量は38.2kWhで、そのうち31.8kWhを実際に使用。カタログ上のEV走行換算距離は111kmである。試乗時にメーターを確認したら、83%の残量で航続可能距離は67kmであることを示していた。実質的に80km程度はEV走行できる計算になる。これなら日常のほとんどをEV走行でカバーできるだろう。充電は普通充電(最大7kW)と急速充電(最大50kW)に対応している。



ドアを開けるとステップが迫り出してくるが、いかに長い足が自慢の筆者でも、ステップの助けを借りたくなるほど、フロアは高い。フロアが高いうえにヒップポイントも高めで、大げさに表現すれば、豪華客船のブリッジから眼下にデッキを見下ろしながら大海原を航海する感覚である。横を追い越していく背の低いクルマ(大部分がその部類)は、小舟がチマチマ動き回っているようにしか感じられず、追い抜くならどうぞ、といった感じ。レンジローバーの運転席に座っていると、鷹揚とした気分になる。
そんな気分にしてくれるのは、高周波の振動は上手に遮断し、低周波系のゆったりした動きに終始するからかもしれない。ただし、ゆらゆらと間断なく揺れている船と違い、レンジローバーの場合は揺れが素早く収束するため、心地良さを感じこそすれ、不快感にはつながらない。
室内のムードはラグジュアリーホテルの一室と同様である。落ち着いた雰囲気で、質の高さが感じられ、品がいい。発表から4年が経過しているが、11.4インチのタッチスクリーンに表示されるグラフィックに古くささは感じない。車両をかたどったグラフィックなどは、最新のスパイ系アクション映画の作戦会議に出て来ても不思議ではないほどの出来映えだ。


大容量のバッテリーに蓄えた電気エネルギーでEV走行をしている際はもちろんのこと、エンジンが始動してもレンジローバーの室内は静寂そのもの。「追い抜くならどうぞ」と鷹揚とした気分になると伝えたが、最高出力404.5kWのエンジンと160kWのモーターを備えたP550eの瞬発力はスポーツカー並みで、3トン近い車重でありながら、0-100km/h加速を5.0秒でこなす。このチグハグさときたら、ジェットフォイル並みのスピードで移動する大型客船のようなもので、乗り手としては呆気にとられるのみである。
ラグジュアリーだけどスポーティ。そして、卓越したオフロード性能も担保している。レンジローバーに触れていると、「全能」の言葉が思い浮かぶ。

レンジローバー・オートバイオグラフィP550e
全長×全幅×全高:5065mm×2005mm×1870mm
ホイールベース:2995mm
車重:2970kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式
駆動方式:AWD
エンジン
形式:直列6気筒DOHCINGENIUMターボ
排気量:2966cc
ボア×ストローク:
圧縮比:
最高出力:550ps(404.5kW)/5500-65000pm
最大トルク:800Nm/2000-3000rpm
燃料供給:DI
燃料:プレミアム
燃料タンク:
モーター
最高出力:160kW(318ps)
バッテリー容量:38.2kWh
トランスミッション:8AT
燃費:WLTCモード9.9km/L
市街地モードTBC
郊外モードTBC
高速道路TBC
EV走行距離:111km
車両本体価格:2332万円


レンジローバーのサスペンションを眺めてみる