まずはケーターハムへ供給 

2024年10月2日、ヤマハはVTホールディングス傘下の英国ケーターハムが市販化に向けて開発を進めている新型EVスポーツクーペのプロジェクト(以下、プロジェクトV)にパートナーとして参画し、協業を進めている。2025年1月の東京オートサロンではプロジェクトVのプロトタイプ車両が展示され、この車両に搭載されるeアクスルのパネル展示が行なわれた。また、4月のモーターファンフェスタでもプロトタイプ車両が展示されている。

4月のモーターファンフェスタに登場したケーターハムProject V。全長×全幅×全高:4255mm×1893mm×1226mm ホイールベース:2581mm パワートレーンはヤマハ製シングルモーターeアクスルを搭載。0-100km/h加速は4.5秒以下 最高速度は230km/hとなっている。

プロジェクトVがターゲットとするスペックは、全長×全幅×全高4255×1893×1226mm、ホイールベース2581mm。0-100km/h加速は4.5秒以下、最高速度は230km/h。バッテリー容量は55kWhを前提としており、その場合のWLTPモードによる一充電あたりの航続距離は400kmを想定している。タイヤサイズはフロントが235/35R19、リヤは285/30R20だ。リヤに搭載するeアクスルの最高出力は200kW(272ps)である。

人とくるまのテクノロジー展横浜でも注目を浴びていた

東京オートサロンでは二次元のパネル展示だったヤマハのeアクスルが、人テク展では三次元(一部モック)となって登場した。「まずはケーターハムさん向けに出す予定ですが、専用設計にはしていません。他社から引き合いがあればお出しできるように汎用性を織り込んで開発しています」と説明員(技術者)のひとりは話す。「ケーターハムさんの開発車両は400Vのシステムですが、僕らとしては800Vを狙っていきたいので、800Vを想定した耐圧設計などを行なっています」

スペック表には最大出力:200kW / 450kW、最高回転数:15000rpm、電圧:350V / 800V、冷却方式:油冷と記してある。800Vシステムなら1基で450kW(612ps)。これでも充分にハイパワーだが、各輪に1基をあてがえば1800kWになる。ヤマハのeアクスルはハイパーカーへの適用を想定した高出力・軽量・小型ユニットということになる。

青いケースの部分がパワー半導体にSiC(炭化ケイ素)を使ったインバーター
青いインバーターボックスの下がモーター。その横(左)がギヤボックス
ギヤボックス側から見るとこう。
トランスミッションは1速

展示物の青いケースの部分がパワー半導体にSiC(炭化ケイ素)を使ったインバーター。その下の円筒形がモーターで、モーターの横にギヤボックスが配置されている。モーターの形式はIPM。ローターに永久磁石を埋め込んだ、モーターの種類としては一般的なタイプを選択。出力とトルクが出る最適な形状を磁場解析で導き出したという。

冷却はスペック表にあるとおり、油冷だ。ステーター側のコイルに直接油をかける方式を選択しており、油の流れを解析し、効率を追求した(透明の筐体を作って流れを可視化し冷やし方を工夫した)。言い換えれば、損失の低減に取り組んだということだ。

前述のとおり、ケーターハムのプロジェクトVは0-100km/h加速4.5秒以下の加速性能と、最高速度230km/hの高速性能をターゲットとしている。加速性能と最高速性能を両立させようとした場合に2段変速などのトランスミッションが欲しくならないかとの問いに、モーター系の技術者は「効率を求めようとすると難しくなるのは確かです。2段変速にする話もありましたが、コンパクトにしたかったので、モーターの特性だけで両方をカバーできるように調整しました」と答えた。

「高回転域ではAC損という高周波の損失が大きくなる。これについては磁石に工夫を入れたり、低損失の電磁鋼板を入れたりといった部分でなんとか成り立たせようとしています。まだ多少未達の部分もありますが、次に向けてアップデートに取り組んでいるところです」

冷却は水冷で行なう。これが熱交換器。

今夏の車両搭載を目標に開発を進めているところだ。モーターとギヤボックスを冷却した油は、ギヤボックスの側面に装着される熱交換器で冷却水と熱交換を行なう。モーターと同様、高出力密度を目指して開発中のインバーターは水冷。冷却水のインとアウトのパイプが側面に確認できる。

ヤマハは2024年3月にフォーミュラE世界選手権への参入を表明し、2024/2025年のシーズン11から、老舗レーシングカー開発会社のローラ・カーズとテクニカルパートナーシップを組み、最新のGEN3 EVO(ジェンスリー・エボ)規格に準拠した電動パワートレーンを開発。これをチャンピオン獲得実績のあるアプトに供給している。ローラ・ヤマハ・アプト・フォーミュラEチームは、4月の第5戦マイアミで2位表彰台を獲得。5月18日の第9戦東京では5位入賞を果たした。競合がひしめくなかで幸先のいいスタートを切ったと言える。

「開発のプロセス自体はフォーミュラEと同じような進め方で取り組んでいます。解析に関しては、フォーミュラEの開発で見ている部分を量産レベルでも取り入れ、効率を細かく見ながら分析しています。いっぽうで、我々量産のメンバーもフォーミュラE側の開発に入ったりしているので、ある部分で活動を支えているとも言えます」

フォーミュラEと密接な関連があると知ると、「Powered by YAMAHA」のバッジを見る目が変わってくるというもの。今後の進捗に期待だ。

ヤマハ“三位一体”で臨むフォーミュラEへの挑戦! エネルギーマネジメント開発の最前線に迫る

FIAフォーミュラE世界選手権に今季からパワートレーンサプライヤーとして参戦したヤマハ発動機にとって、東京大会は初の“ホームレース”となった。ローラ・カーズ、アプトと組んだ新体制の下、GEN3 EVO規格に準拠する電動パワートレーンを開発。第5戦マイアミでは早くも表彰台を獲得し、東京ではメディアラウンドテーブルを通じて次期GEN4への継続参戦や、開発の舞台裏について明かされた。挑戦はすでに次のフェーズへと進み始めている。 TEXT :世良耕太(SERA Kota) PHOTO:Formula E/Motor-Fan.jp編集部

https://motor-fan.jp/mf/article/328838