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軽い車体は駐車場での取り回しも楽
今回試乗したのは、一部仕様変更を受け、2024年2月15日に発売された最新モデルだ。
主な変更点は、まず、最新の平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合させたこと。それでいて、最高出力121PSなどエンジンの動力性能はそのままだ。また、車体色は、今回試乗した「グランプリレッド」のグラフィックを変更すると共に、新色として「マットバリスティックブラックメタリック」を追加。加えて、素早いシフトチェンジを可能にする「クイックシフター」を標準装備するなどのアップデートを受けている。
そんなCBR600RRの最新モデルを、まずは、駐車場で取り回してみた。左右のハンドルを握り、前へ押し歩きしてみる。軽い。筆者は、普段、同じくホンダの650cc・フルカウルスポーツ「CBR650R(初期型)」に乗っているが、似たような排気量でも、明らかにCBR600RRの方が楽に押せる。これは、車両重量が、CBR650Rの208kgに対し、CBR600RRは193kgと15kgも軽いためだろう。もちろん、250cc以下のモデルほど軽くはないが、この程度なら、ちょっとした登り勾配を押す場合も楽だ。
また、セパレートハンドルのマウント位置は、CBR650Rよりも低いものの、いわゆるレーサーほど下過ぎない。そのため、上体もさほど前傾せず、押しづらさはない。
ハンドルを左や右へ切って前進やバックも試してみたが、意外にハンドルに切れ角もあるため、思ったほど大回りもしない。この点は、CBR650Rとあまり変わらないだろう。もちろん、アップライトなバーハンドルを装備したネイキッドモデルほど、小さい半径で回ることはできないだろう。だが、車体の軽さと相まって、例えば、狭いスペースの駐車場でも、想像以上に取り回しはやりやすいことがうかがえた。
やや前傾はきついが、慣れれば問題ないレベル
次は、シートにまたがってみる。リヤ上がり気味の車体姿勢なのもあるが、CBR650Rよりも前傾はきつくなる。だが、思っていたほどではない。また、全長2030mm×全幅685mm×全高1140mmというコンパクトな車体のため、身長165cm・体重59kgの筆者でも、ハンドル位置が遠すぎる印象もない。これなら、低・中速域で走る市街地でも、コントロールはしやすそうだ。
一方、足着き性はどうだろう? CBR600RRのシート高は820mmだから、810mmの愛車CBR650Rより10mm高い。だが、片足なら、CBR650Rと同様、かかとまでベッタリと地面に着く。両足を出した場合は、CBR600RRの方がツマ先の角度こそ多少きつくなるが、CBR650Rとあまり変わらない印象。足先ツンツンで、バランスを取りづらくなる程度ではなく、慣れれば問題ないレベルだ。これなら、例えば、頻繁に足を着く街中の渋滞路などでも、「立ちゴケ」などの心配もさほど感じないだろう。
ただし、乗車した際時にリヤサスが沈み込む量は、CBR650Rほどない。そのため、筆者よりも体重が軽く、片足でも足が着きづらいライダーの場合、街乗りなど公道走行では、イニシャル(スプリングの強さ)を弱くしてみるといいかもしれない。ちなみに、CBR600RRのリヤサスは、10段階のイニシャル調整が可能(標準は6段)。また、減衰力も伸び側・圧側ともに調整できるため、スプリングの強さと合わせた乗り心地などのセットアップも可能だ。
信号待ちなどからの発進では回転上げ気味がいい
次は、実際に市街地を走ってみる。アクセルをじわっと開けてクラッチをミートすると、スルスルと発進し、出足も意外にスムーズだ。だが、低回転域では、例えば、同じ4気筒エンジンを搭載する愛車のCBR650Rほどのトルク感はない。
CBR600RRの599ccエンジンは、前述の通り、最高出力121PS。一方、CBR650Rのエンジンは、排気量こそ648ccとCBR600RRより大きいが、最高出力は95PSと26PSも少ない。だが、発生回転数はCBR600RRの14250rpmに対し、12000rpmとより低い回転数に設定している。
また、最大トルクは、両モデルともに6.4kgf-mだが、発生回転数はCBR600RRが11500rpmで、CBR650Rは9500rpm。つまり、CBR600RRはより高回転型のセッティングが施されているのだ。そのため、ある程度回転を上げて発進する必要がある。信号待ちなどからの発進で、あまりアクセルを開けず、ラフにクラッチをつなぐと、エンストする可能性があるので注意が必要だ。
もちろん、昔の2ストロークマシンのように、低回転域がスカスカというわけではない。3000rpm前後であれば、例えば、渋滞路でノロノロ運転をする場合も、エンストの心配は無用。CBR650Rほど低回転域のトルクこそないが、慣れれば十分に市街地でもスムーズに走ることができる。
逆に、新型で標準装備となったクイックシフターは、市街地でも便利だ。CBR650Rにもオプションで設定があり、筆者の愛車にも装着しているが、こちらはシフトアップのみに対応。ギアを落とす時にはクラッチ操作が必要だ。一方、CBR600RRでは、アップとダウンの両方に対応するため、街中で頻繁にストップ&ゴーを繰り返すようなシーンでは、停車しない限りクラッチレバーを握らずにすみ、より疲労度を少なくしてくれる。
しかも、CBR600RRのクイックシフターのシフトアップ操作は、1500rpmという低い回転域でも作動する。そのため、発進と同時にギアを上げて、あまり回転を上げずに走る燃費走行時にも使える。
対するCBR650Rのクイックシフターは、販売店によれば、ある程度回転を上げた6000rpmあたりでシフトアップしないと、故障する場合もあるとのこと。スポーティな走りをする場合には便利だが、街中だとあまり恩恵を受けられない。この点でも、CBR600RRは、意外に街乗りにも「使える」バイクなのだといえる。
交差点の右左折での車体姿勢は慣れも必要
軽い車体により、CBR600RRは、細い路地の切り返しや、Uターンなどでも軽快だ。ただし、ハンドルを左右どちらかへ一杯に切ると、手が燃料タンクに当たってしまい、操作がしにくくなる。
もちろん、同じくセパレート式を採用するCBR650Rのハンドルも、一杯に切ると燃料タンクに手が当たる。だが、CBR600RRの方が、より低いハンドル位置であることもあり、燃料タンクとハンドルに挟まる手がさらに窮屈だ。これも、慣れの問題ではあるが、例えば、バーハンドルのネイキッドバイクなどに慣れている人は、最初に乗るときには注意した方がいいだろう。
あと、CBR600RRのリヤサスペンションは、前述した標準イニシャル値(6段)だと、筆者の場合、街乗りではあまり沈み込む印象がなかった。一方、フロントサスペンションは、低・中速域でもよく動く。そのため、例えば、交差点の右左折時には、上体がやや前のめりになりやすく、前方や進行方向を見にくい。
もちろん、この点も、意識して減速時から上体を起こすようにすれば、問題のないレベルだ。もし、あまり気になる場合は、街乗りなど公道走行時だけでも、リヤサスのイニシャル値を弱めに設定する方がいいかもしれない。サーキット走行にも対応するCBR600RRは、前後サスペンションのセッティングを細かく変えられる仕様となっている。そして、実は、こうしたセットアップの幅広さは、街乗りなどでも十分対応できるといえる。
1台で幅広く使えるバイク
このように、CBR600RRは、市街地でも思いのほか扱いやすいバイクだったといえる。もちろん、通勤や通学、買い物などの移動手段として、街乗りをメインに使うのであれば、よりポジションが楽なネイキッドモデルや、シート下にトランクスペースがあるスクーターモデルの方が便利だ。
だが、2台持ちが無理などで、市街地や高速道路、ワインディングからサーキットまで、1台で幅広い用途に使うのであれば、CBR600RRも悪くない。特に、車体の軽さは、コーナーを俊敏に走れるだけでなく、駐車場や細い路地など、普段使いでも十分に効力を発揮する。
もちろん、例えば、リヤシートは、いわゆるツアラーモデルほどの積載性はないし、シート下スペースも少ない。使い勝手のよさでは一歩譲るが、あとは好みの問題。ウイングレットなども付いたレーシーなスタイルが好きなユーザーであれば、日常から休日まで、いつも一緒にいられる「いい相棒」となるだろう。
CBR600RR・主要諸元
車名・型式:ホンダ・8BL-PC40 全長×全幅×全高(mm):2,030×685×1,140 軸距(mm):1,370 最低地上高(mm)★:125 シート高(mm)★:820 車両重量(kg):193 乗車定員(人):2 燃料消費率(※2)(km/L): 国土交通省届出値 定地燃費値※3(km/h)…25.5(60)<2名乗車時> WMTCモード値★(クラス)(※4)…18.5(クラス3-2)<1名乗> 最小回転半径(m):3.2 エンジン型式・種類:PC40E・水冷 4ストローク DOHC 4バルブ 直列4気筒 総排気量(㎤):599 内径×行程(mm):67.0×42.5 圧縮比★:12.2 最高出力(kW[PS]/rpm):89[121]/14,250 最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):63[6.4]/11,500 燃料供給装置形式:電子式<電子制御燃料噴射装置(PGM-DSFI)> 使用燃料種類:無鉛プレミアムガソリン 始動方式★:セルフ式 点火装置形式★:フルトランジスタ式バッテリー点火 潤滑方式★:圧送飛沫併用式 燃料タンク容量(L):18 クラッチ形式★:湿式多板コイルスプリング式 変速機形式:常時噛合式6段リターン 変速比: 1速 2.615 2速 2.000 3速 1.666 4速 1.444 5速 1.304 6速 1.208 減速比(1次★/2次):2.111/2.625 キャスター角(度)★/トレール量(mm)★:24°6´/100 タイヤ:前 120/70ZR17M/C(58W)、後 180/55ZR17M/C(73W) ブレーキ形式:前 油圧式ダブルディスク、後 油圧式ディスク 懸架方式: 前 テレスコピック式(倒立サス ビッグ・ピストン・フロント・フォーク) 後 スイングアーム式(ユニットプロリンク) フレーム形式:ダイヤモンド ■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元) ■製造事業者/本田技研工業株式会社 ※2燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞など)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。 ※3定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。 ※4WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。