新生ベネリ唯一のクラシック系モデルは長く乗り続けたいライダーへの最適解|インペリアーレ400試乗記

 1911年創業と長い歴史を誇るイタリアンメーカーのベネリですが、日本メーカーの台頭もあって1988年にブランドは消滅してしまいました。しかし紆余曲折を経て1995年に復活。2005年には中国QJモーターの傘下に入り、2016年、中国の巨大企業ジーリーの資本参加を受け新生ベネリとしてスタートを切りました。そうした環境下で多くのモデルを創出していますが、唯一のクラシックモデルとして生み出されたのがこのインペリアーレ400なのです。
写真:徳永茂
協力:株式会社プロト https://www.plotonline.com/benellimotorcycle/
ベネリ東京練馬 https://www.benelli-tokyo.jp/

Benelli・IMPERIALE400……668,800円

王道のビンテージスタイルを見事に表現

1950年代の英国車を思い起こさせるビンテージスタイルは、鋼管製ダブルクレードルフレームにフロント19、リア18インチスポークホイール、そして直立型の空冷SOHC2バルブ単気筒エンジンによって形成されています。目新しさを印象付けるところはありませんが、バイクらしさに満ち溢れたデザインなので流行に左右されることなく、世代を超えて長く付き合っていけるんじゃないかと思います。

「ここまでやるか!」と驚かされたのは、スプリングクッションを装備したシートです。いまの時代、シートの素材だけで十分に快適なクッション性が得られるのに、あえて昔ながらのサドルスタイルとしたところに、並々ならぬこだわりを感じます。こうしたクラシックスタイルのモデルは国内外のメーカーから発売されていますが、こんなこだわりはライバルに一歩リードできる要素になるんじゃないでしょうか。

単気筒エンジンを採用していることもありボディはスリムです。さらにシート高も780㎜に抑えられているため乗降性は良好です。サスペンションもソフトに作動するので、足つき性にはまったく問題ありません。ステップもやや前方に位置しているので、足を下ろしたときに干渉しないのもうれしいポイントです。

座面が広いサドル型シートはクッション性が良く、座り心地は快適です。ヒザの曲がりも穏やかなので下半身はリラックスした状態になります。一方の上体も、アップハンドルによって直立したポジションになるため、ゆったりと乗車することができます。これなら街中からツーリングまでつねにリラックスしたライディングが可能です。

ステップは比較的前寄りにあるためヒザの曲がりは穏やか。幅広のサドル型シートの座り心地も快適だ
シート高は780㎜となっているので、両足をラクに着けることができる。(ライダー身長178㎝)
アップハンドルが装備してあるので、上体が直立した感じになり、ゆったりとした乗車姿勢を提供してくれる
ステップが前寄りに位置しているため、足を下ろしたときに干渉しない

低中回転トルクが太いエンジンは常用域で元気良い走りを見せてくれる

始動するとヘアライン加工が美しいキャブトンタイプのマフラーから野太いサウンドを放ちます。暖機終了後に軽く空吹かししてみると、単気筒エンジンらしい鼓動感が伝わります。スタートすると、4500rpmで最大トルクを発生する低中速型のエンジン特性が、205㎏の車体を力強く加速させます。

374㏄の排気量を有していますが、最高出力は約21psしか発生しません、このスペックからも理解できるように、決してパワフルなエンジンじゃありません。アクセルを開け続けても伸びを実感するのは6000rpmあたりまで。それ以上の高回転域では伸びが鈍化して、加速感も乏しい印象となります。しかし低中回転ではアクセルを開けた瞬間、ドドドッと躍動感あふれる加速をしてくれ、力強ささえ感じます。市街地や一般道で多用する低中回転域、すなわち常用域では力不足を感じるところはなく、むしろレスポンスにメリハリがあって楽しく走れるほどです。

ツーリングに出た際には高速道路を走行する機会も多いので、高速性は大丈夫なのか?という疑問を抱くかもしれません。でも現実にはまったく問題ありません。日本の高速道路は最高でも120㎞/hに速度が制限されています。実際には100㎞/h程度で走行することがほとんどです。この速度域であればインペリアーレ400でも十分にクルージングできます。それだけじゃありません。低中速型の単気筒エンジンは発進加速が良いので、短い加速車線でも本線上の車の流れに乗ることが可能なのです。単気筒で懸念される高速走行時の振動もほとんど気にならないレベルでした。21psという出力ながらも市街地から高速道路を利用したツーリングまで、しっかりと対応してくれるのです。

空冷単気筒エンジンは、低速から太いトルクでグイグイ走るわけじゃないが、中速域でのレスポンスにはメリハリがあり、日常走行で大きな不満を覚えることはない

ライダーの操作に素直に追従してくれる操縦性

操縦安定性は安定感重視。そのため現代的なスポーツバイクの感覚と比較すると、重ったるいようなハンドリング特性となっています。俊敏に身を翻して走れるタイプじゃないのですが、落ち着きのあるハンドリングはワインディング走行も十分に楽しませてくれます。まあクラシカルなスタイリングにマッチしているといえるハンドリングなのですが、ゆっくりとしたモーションで車体に身を任せてコーナリングする喜びもまた、インペリアーレ400の魅力だと思います。

ゆったりと走らせている限り、ブレーキ性能、サスペンションの吸収性に大きな不満はありません。しかし無茶な走り方に対処できる性能ではありません。バイクの雰囲気に合った落ち着きある走り方がインペリアーレ400を楽しむ秘訣だと感じました。

ゆったりとした気分でエンジンと対話しながら走る。クラシックなスタイリングが特徴のインペリアーレ400は、空冷単気筒エンジンが放つ鼓動を楽しみながら、気持ちをリラックスさせて走るのが似合うバイクだと思います。市街地でもワインディングでもドッシリとした安定感を味わいながら走ることで、楽しさや喜びがこみ上げてきます。

金属部品を多用したボディは、磨き上げる楽しみも提供してくれますし、クラシカルでシンプルなデザインは、カスタムベースにも最適です。このようにいろいろな楽しみ方ができるのがインペリアーレ400なのです。

ディテール解説

ホイールはワイヤースポーク式。フロントタイヤは19インチ。サスペンションは正立フォーク
リアタイヤには18インチサイズを装着。サスペンションはベーシックな2本ショック式で、プリロード調整が可能だ
フロントブレーキにはΦ300㎜のシングルディスクブレーキを採用。ABS標準装備だ
リアブレーキはΦ240㎜シングルディスクを装備。効きに関して不足はない
アップタイプのパイプハンドルにアナログ式2眼メーターと、ビンテージスタイルのこのモデルにピッタリのコクピット
アナログ式の2眼メーターはレトロな雰囲気が好印象。液晶ディスプレイ内蔵で現代的な機能性も持つ
4段階にアジャストできるブレーキレバーだが、全体に間隔が遠めだ
ヘッドライトはもちろん丸型の一灯式。しかもハロゲン球を採用している。LEDが主流のいま、明るくはないが、逆に目立つ
ロングタイプのリアフェンダー上に設置されているシンプルなテールランプ。ウインカーともども昔ながらの電球を採用
ティアドロップ型の燃料タンクは容量12ℓ。クラシックスタイルモデルらしく、タンクサイドにはラバーパッドが装着
ライダー側には大きめのサドル型シートが装備されている。さらに下部にスプリングを装備する徹底ぶり。クッション性は良好
ステップは固定式で、ワイドなラバーステップとなっている。足置きがラクなので、長時間走行にも疲労を抑えてくれる
メンテナンス時や荷物の積載時などに便利なセンタースタンドが装備。操作性も良好だ

主要諸元

トランスミッション形式:常時噛合5速リターン
クラッチ形式:湿式多板
2次減速方式:チェーン式
フレーム形式:ダブルクレードルフレーム
懸架方式(前):正立テレスコピック
懸架方式(後):スイングアーム
エンジン種類:空冷4ストローク単気筒
弁方式:SOHC2バルブ
総排気量:374cc
内径×行程/圧縮比:Φ72.7×90.0/8.5:1
最高出力:15.5kw/5500rpm
最大トルク:29Nm/4500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:トランジスタ(TLI)
潤滑方式:圧送飛沫併用型
燃料供給方式:フューエルインジェクション

全長×全幅×全高:2170mm×820mm×1120mm
軸間距離:1440mm
最低地上高:165mm
シート高:780mm
車両整備重量:205kg
ホイールトラベル(前):121mm
ホイールトラベル(後):55.5mm
タイヤサイズ(前):100/90-19
タイヤサイズ(後):130/80-18
ブレーキ形式/径(前):油圧デイスク/300mm
ブレーキ形式/径(後):油圧デイスク/240mm
燃料タンク容量:12.0L
燃費(WMTCモード):32.3km/L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…