目次
越すに越されなかった大井川
藤枝の宿を出れば、大井川は目と鼻の先だ。箱根馬子唄に「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」とうたわれているとおり、かつては橋を架けることも渡し船を出すことも許されず、庶民は川越人足(かわごしにんそく)の肩車とかで渡るしかなかった東海道の最難所だ。
この制度は明治時代に取りやめになり、蓬莱橋が架けられてからは歩いて渡れるようになった。今では橋の実用性は失われ、もっぱら観光用として使われている。
ついでに川堤の道を走って川会所に立ち寄った。大井川橋東岸から川下へのびる葉桜の道は、かつて島田大堤とよばれた大きな堤防の一部だ。
川会所をちらっと見物し、西をめざしてまた走り出した。ここからの東海道は、御前崎を迂回して内陸を突っ切り、浜名湖へ向かっている。
大井川を越えて金谷宿を過ぎ、掛川からバイパスに乗る。ここからは効率最優先でひたすらガンガン走る。袋井をこえ、天竜川を渡ればそこが浜松。浜名湖も目前だ。
海の男と陸のバイク
浜名湖の西側までくると、125ccはバイパスを走れなくなる。旧東海道に降り、浜名湖につきあたったところで、ふらりと舞阪漁港に立ち寄った。規模は小さいが、シラス漁で全国にその名をとどろかせる名港だ。
港をウロウロしていたら、タカハシが何らかの悪事を働こうとする不審者ないし変質者だと感じたらしく(それも無理はないが)、バイクでやってきた男性に声をかけられた。聞けば、ずらりと停泊しているシラス漁船のうち「吉丸」の船長だとのこと。
船長は、ホンダ ダックス125を1年待ちで買い、少年時代以来のバイクライフを再び楽しみはじめたばかりだそうだ。写真をおねだりしてみたが、いかにも海の男らしく豪気に笑いながらも、軽薄なWebメディアなんぞに出るには困惑もあったのだろう、「おれの写真は勘弁で」とあっさり断られた。残念だがバイクの写真だけを掲載しておく。
浜名湖からは海岸沿いにしばらく西へ、潮見坂から内陸に食い込む形で進路を北向きにかえ、岡崎へ向かう。ずいぶん前からピコピコ点滅したかと思うと、また目盛りを戻したりとフラフラしていたフューエルメーターが落ち着いてきたのは豊川市内のこと。トリップ355.1km地点をもって、ピコピコ状況確定と判断した。
岡崎駅近くの宿につき、バイクをパーキングに押し込む。すでにフューエルメーターのピコピコが始まっているが、こいつがあとどれだけ走るかは、まだ全然わからない。荷物を部屋にほうりこむと、コンビニ飯を飲み込んですぐに眠った。