試乗記|19インチに生まれ変わった「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESデュアルクラッチ」で、オフロードを走ってみた。

アフリカツインは、本格的なアドベンチャーとして高い人気を誇るモデルだ。アドベンチャースポーツESに関しては、24リッターのビッグタンクや3段階切り替えのコーナーリングライトなどを装備して旅バイクとしての装備も充実。電子制御サスペンションによって様々な走行シーンで最適なセッティングに切り替えができるなど先進の電子装備を備えている。今回はエンジン特性が変更され、フロントホイールが19インチになったアドベンチャースポーツES DCTに試乗。そのインプレッションをお届けすることにしよう。

ホンダ・CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESデュアルクラッチ 2,057,000円 

新しくなったアドベンチャースポーツES DCTで最も注目すべき点はフロントホイールが19インチ化されたことだろう。

重心位置が下がり、ハンドリングもオンロードを意識したものになっている。


そしてもう一つがエンジン特性。バルブタイミングが見直されて圧縮比が10.1から10.5に高められた結果、最大出力は102ps/7500と変わらないものの最大トルクは10.7kgf/6250rpm から11.04kgf/5500rpmとより低回転で高いトルクを発生するエンジン特性になったのである。

オフロード性能を追求したCRF1100LアフリカツインSに比べて、 アドベンチャースポーツESはオンロードメインのツーリングなどで使用されるケースが多い。そういったユーザーのニーズにより強く答える変更だと考えてよいだろう。

あきらかに力強くなったエンジン

走り出した瞬間、エンジンの力強さはすぐに感じられた。こういった変更の場合、新旧モデルを比較試乗してみないと違いがわかりにくいこともあるのだが新型アフリカツインの場合は別。実用域でのトルクアップしていることがハッキリと分かる。この特性はストリートを走っていてとても楽しい。スロットルを開けた瞬間、回転が上がっていなくても猛然と加速していく。

ハイチューンされたエンジンの場合、過激すぎて疲れてしまう場合もあるが、アフリカツイン本来のジェントルさは失われていない。普通にストリートを流して走っているときは極めて扱いやすく、必要なときだけ欲しいままに加速力を得られる。高回転での伸びの爽快感も失われていないのだが、中速域だけで相当機敏に走らせることができるし、そちらのほうが面白い。

今回の試乗では2日間にわたってアドベンチャースポーツES DCTを走らせたのだが、このエンジン特性と後述するハンドリングのおかげで、とても楽しく走ることができた。個人的にはリッタークラスのアドベンチャーモデルの中で、1,2を争うくらいに好きなエンジン特性である。

DCTとの相性も更に向上

このエンジンの魅力を引き出しているのがDCTである。アフリカツインでDCTを選ぶユーザーが多いことは知られている。今回のモデルでは発進や1速から2速への変速がより自然になるなどの改良が加えられ、より完成度が高められている。

都内の渋滞路での疲れのなさはマニュアルとは比較にならない。クルージングから急な追い越しをするときなども、瞬時に反応してシフトダウンしてくれるから、走っていてとても気持ちがいい。スロットルを開けるだけで、一番楽しい回転域を選んで走ってくれるからまったくストレスがない。

ただ、Uターンするときなどはもう少し低い回転から駆動力がかかってくれたらくれたらと思うことはあった。現状だと1500rpmくらいからゆっくりとつながり始めて2000 rpmを超えたあたりで本格的にバイクが動き出す感じなのだ。同じ時期に試乗したレブル1100DCTではアイドリングの少しスロットルを開けた瞬間から駆動力がかかるので、これは車種ごとのセッティングなのだろう。このあたりの特性はライダーのバイクのコントロールの仕方によって印象が変わるから、あくまでテスターの個人的な好みの問題ではあるが。

19インチ化でオンロードの走りは更に楽しくなった

フロントが19インチになったことでオンロードのハンドリングはどのように変わったのだろう? 個人的に21インチの頃のハンドリングはとても好きだったので、19インチになったことに対して懐疑的な印象もあったのだが、実際に乗ってみてその自然なハンドリングに感動することになった。

もともとアドベンチャースポーツESは電子制御サスペンションによって、オン、オフ問わず最適なサスペンションセッティングが得られるようになっているから、ワインディングがとても楽しいマシンだったのだが、それが今回の19インチ化で更にオンロードのコーナーリング性能が向上しているのだ。

ワインディングを攻めてみると、ハードブレーキングでもオフロードバイク的なピッチングモーションは皆無。バイクは軽快にバンクしていく。フロントタイヤの安定感も高く、バンク中も安心していられる。装着されていたバトラックス・アドベンチャーAT41がオンロード性能を重視してたタイヤであることもハンドリングの向上に寄与しているだろう。

オフロードの性能はどうなったか

フロントが19インチになったことで気になるのはオフロード性能。タイヤ径は大きいほうがオフロードでの走破性が高くなるし、フロントの安定感も増す。つまり21インチから19インチになったことでオフロードの走破性は多少スポイルされることになる。しかし、これはあまり心配する必要はないかもしれない。今回、比較的フラットな林道を走ってみたが、極めて安定していてグリップの悪い場所でも安心して走ることができた。

もちろんハードなダートに行けばデメリットを感じることもあるかもしれないが、そもそもアドベンチャースポーツESのオーナーでそこまでオフロードを攻めることは少ないだろう。旅先で出てくる林道などであれば、まったく臆することなく走っていくことができる。アドベンチャースポーツESの性格にこの19インチという選択肢はベストマッチしていると感じた。

ちなみにモードセレクターをオフロードにし、コーナーの立ち上がりでスロットルを大きく開けっぱなしにしてみるとリアタイヤが30センチくらい滑った状態でトラクションコントロールが介入。タイヤをグリップさせてからまたタイヤが30センチくらい滑るという状態をゆっくりとしたリズムで繰り返す。そんな状態で何度も走り続けられるのはトラクションコントロールが優れているのに加え、フロントタイヤが安定しているからである。

総合的に考えると最高の旅バイクかもしれない

アドベンチャーモデルには各メーカー力を入れていることもあって強力なライバルが多い。個人的に気になるマシンも多いのだが、日常でも頻繁に使い、ときには旅に出たりワインディングを楽しむというような使い方をするのであれば、新しいアドベンチャースポーツESは一つ頭が抜きん出た感じがする。

世界各国で販売されているマシンだから、特に日本向けになっているわけではないのだが、エンジンの特性やハンドリング、車体サイズなどが日本の道路事情にとてもマッチしているのである。

たぶんアドベンチャーモデルに乗りたいと考えている人たちにとって、アドベンチャースポーツESが理想的だと考える人は少なくないだろう。一度乗っていただきたいと思うマシンである。

ポジション&足つき(身長178cm 体重75kg)

ハンドルが比較的フラットで足付きも良いから跨ってもビックオフローダーやアドベンチャー的な威圧感は少ない。ロードバイクから乗り換えても違和感は少ないはずだ。

テスターの体格だと足付両足がべったりついて、さらに膝が少し曲がるくらいに足つき性は良好だ。

ディテール解説

フロントタイヤは19インチになると同時にワイドリム化。サイズは110/80-19でチューブレスタイヤになった。
フロントカウルはこれまでのイメージを感じさせながらもデザインが変わっている。コーナーリングライトを装備していて、バンク角に応じて照射角を変え、夜間のコーナーリングをサポートする。
スクリーンは大型化され、5段階に高さを変えることが可能になった。
左のスイッチボックスにはDCTのシフト操作ボタンなどが配置されている。
右のスイッチボックスは一番上がスタートボタンとキルスイッチ。真ん中にあるボタンをDにするとDCTのオートマチックモードとなって1速に入る。Mにするとマニュアルシフトになる。下のグレーのボタンはオートクルーズ。
アドベンチャースポーツESは電子制御サスペンションEERAを装備。オン、オフなど走行条件が変わってもサスセッティングに自動的に変更する。ライディングモードと連携して常に理想的な特性を作り出す。
12Vのアクセサリーソケットを装備。
6.5インチタッチパネルの液晶メーターはスマホを接続することで様々な機能を使うことができる。メーターに表示する内容も3段階でセレクトが可能だ。
リアショックも電子制御サスペンションEERA。プリロードアジャスターは一人乗り、一人乗り+積載、二人乗り、二人乗り+積載を選択可能で、電動で走行中も調整が可能だ。
静粛性と官能的なサウンドを両立させたサイレンサー。
シートのスポンジが厚くなって快適性が向上。820mmと840mmの二段階に調整することができる。
シート下にはETC2.0を標準装備している。
リアホイールもチューブレスのスポーク。サイズは150/70-18。
圧縮比、バルブタイミング、吸気ポート、ECUの変更でトルクが7%も向上。最大トルクがこれまでより750rpmも低い5500rpmで発生する実用域のトルクが向上したことで、ストリートライディングで更に楽しくなったエンジン。シフトダウンのタイミングが早くなり、コーナーリング検出性能が向上したDCTはワインディングでも文句のない作動をしてくれた。走っていてもマニュアルよりも楽しいと思う。

主要諸元

CRF1100L Africa Twin
Adventure Sports ES
CRF1100L Africa Twin〈s〉
車名・型式 ホンダ・8BL-SD15
全長(mm) 2,305 2,330
全幅(mm) 960
全高(mm) 1,475(スクリーン最上位置は1,530) 1,485(スクリーン最上位置は1,540)
軸距(mm) 1,570 1,575
最低地上高(mm) 220 250
シート高(mm) 840(ローポジションは820) 870(ローポジションは850)
車両重量(kg) 243【253】 231【242】
乗車定員(人) 2
燃料消費率*1
(km/L)
国土交通省届出値:
定地燃費値*2
(km/h)
32.0【31.0】(60)〈2名乗車時〉
WMTCモード値
(クラス)*3
19.6(クラス 3-2)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m) 2.6
エンジン型式 SD13E
エンジン種類 水冷4ストロークOHC(ユニカム)4バルブ直列2気筒
総排気量(cm³) 1,082
内径×行程(mm) 92.0×81.4
圧縮比 10.5
最高出力(kW[PS]/rpm) 75[102]/7,500
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 112[11.4]/5,500
燃料供給装置形式 電子式 〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式 セルフ式
点火装置形式 フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式 圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L) 24 18
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング式
変速機形式 常時噛合式6段リターン【電子式6段変速(DCT)】
変速比 1速 2.866【2.562】
2速 1.888【1.761】
3速 1.480【1.375】
4速 1.230【1.133】
5速 1.064【0.972】
6速 0.972【0.882】
減速比(1次/2次) 1.717/2.625【1.863/2.625】
キャスター角(度) 27゜30′
トレール量(mm) 106 113
タイヤ 110/80R19M/C 59V 90/90-21M/C 54H
150/70R18M/C 70H
ブレーキ形式 油圧式ダブルディスク
油圧式ディスク
懸架方式 テレスコピック式
スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式 セミダブルクレードル
  • 道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
  • 製造事業者/本田技研工業株式会社
  • *1 燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
  • *2 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
  • *3 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。WMTCモード値については、日本自動車工業会ホームページもご参照ください。
  • 本仕様は予告なく変更する場合があります。
  • Africa Twin、CRF、PGM-FI、PRO-LINKは本田技研工業株式会社の登録商標です。
  • この主要諸元は2024年2月現在のものです。

 

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