次世代MTシリーズのスタイリングに刷新したMT-07の走りはどう変わったのか?

ヤマハMT-07試乗|見た目の変化に惑わされてはいけない。次世代MTシリーズは、中身の進化に驚かされる傑作だ。

ヤマハMTシリーズの中核モデルとして世界中で高い支持を得ているMT-07が、MT-09と同様の精悍なスタイリングへと変更されるとともに、平成32年排ガス規制に適合させるなどエンジン特性の見直しを図りマイナーチェンジし2021年7月に発売を開始しました。走行性をはじめとして、細部変更による使い勝手がどのように向上したのか、市街地から一般道、そしてワインディングを実走して、その進化を体感してみました。

ヤマハMT-07 ABS……814,000円

取り回しの良さは変わらず、常用域で一段とトルクフルに変身

 70~80年代、国内の最高峰はナナハン、すなわち750㏄ロードスポーツでした。車格、パワーの両面で他を圧倒するナナハンは多くのライダーの憧れであり、乗りこなすためには高レベルのテクニックが求められました。現在、その役割を担っているのはリッターオーバーのスポーツバイクで、600~800㏄クラスはミドルレンジに分類されています。ヤマハの人気ネイキッドスポーツMTシリーズのうち、このミドルレンジにあるのが688㏄の排気量を持つMT-07です。

 一昔前には大型バイクに分類されていたMT-07ですが、スリムでコンパクトなボディは184㎏という車重に抑えられています。400㏄クラスのロードスポーツ並みです。2度目となるマイナーチェンジで精悍なスタイリングとなりましたが、大きさで威圧しない点は従来と変わりありません。気を良くして跨ってみると、足つき性が抜群に良いわけではないものの、車体がスリムなので不安を抱くことはありません。タンクカバーの変更やハンドルポジションを32㎜ワイドに、12㎜高くしたことでポジションはよりアップライトになり、従来にも増して親しみやすくなった印象を受けます。これなら低速での取り回しもしやすいし、ツーリングでの疲労も軽減されているはずです。
 慣れ親しんだ愛車に乗っているように違和感がありません。700を扱うという重圧はまったく受けないし、ハンドリングやエンジン特性にクセがないから走り出した瞬間、体になじんでしまうのです。だから低速で交差点を曲がるときに不安感を抱くことがないし、アクセルを開けたときの加速感もリニアでナチュラルなので操作がしやすい。大げさな表現をすれば、すべてが自分の手の内で扱えている感覚になるのです。

 MT-07の心臓部は、アクセル操作にリニアなトルク特性を発揮する“クロスプレーン・コンセプト”から創出された水冷直列2気筒エンジン。270度クランクによって独特のパルス感を発生するパワーフィーリングが特色です。今回のマイナーチェンジでは、エアダクト、新型の2into1エキパイ・マフラーの採用、ECU仕様変更、FIセッティング最適化などが行われまた、排気側に耐摩耗性に優れたバルブシートを採用、ミッションのドッグ角変更で再加速時のダイレクト感の向上なども図られています。これらの変更により低速域におけるリニアなレスポンス特性が向上し、滑らかになったトルク曲線が優れた加速性に貢献するなど、従来型に比べて力強い特性となりました。同時に平成32年排出ガス規制適合化を図っているのですから、着実に進化しています。さらに細かいところでは、最新の音響解析技術によって排気系を最適化し、低速低開度時の音色を作り込んだということです。これにより270度クランクのCP2(クロスプレーン2気筒)らしい力強い加速に貢献するパルス感のあるサウンドを実現したとのことです。走りだせばそのちがいは明らかに実感します。低速域、といっても市街地や一般道で多用する60㎞/hまでの常用域で、トルクが太くなっています。しかも歯切れの良いサウンドが耳に心地よく、同時にパワー感も伝えてきます。一段とパワフルになったエンジンは、ワインディングの上りで頼もしいものになりました。

軽快で素直なハンドリングは親近感を与えてくれ、ワインディングがさらに楽しくなる

 軽量・スリム・コンパクトなボディは軽快性に富んだ走りを楽しませてくれます。しかもただ軽いだけじゃなく素直でニュートラルなハンドリング特性を実現している点も評価できます。いたずらに剛性を高めるのではなく、適度にしなやかさを持たせたフレーム、作動性の良いサスペンション、そしてエンジン特性に合ったディメンションが、ライダーの意思に忠実に応答してくれるハンドリングを生み出しているのではないかと思います。ワインディング性の良し悪しはバイクの楽しさを大きく左右します。たとえばそれは、コーナリング性能の高さだけで決まるものじゃありません。重要なのはどんなレベルのライダーにも、それぞれのペースで走って楽しいと感じる要素があるかどうかです。MT-07のハンドリングは、ビギナーのゆっくりペースでも安定した旋回性を発揮しますし、ハードなスポーツライディングにもしっかりと応えてくれます。だからバイクに乗せられているという感覚がなく、ライダーを消化不良にしません。

 エンジンについても同様で、回転をガクッと落としてしまっても、アクセルを開けさえすれば要求する加速をしてくれます。失速しそうになって慌ててギヤを落とすなんていうことをしなくても、低回転からしっかりレスポンスしてくれるのでアクセルだけで対処できます。先がわからない初めての道も、これなら不安なく走ることができると思います。
 従来からのコンセプトを継承しつつさらに進化したミドルネイキッドスポーツMT-07は、大型初心者からベテランライダーまで、走る喜びを十二分に提供してくれるバイクだと感じました。
タンクカバー形状、ハンドルポジションの変更で上体は一段とアップライトになった
車重が184㎏に抑えられているので、足つきに不安のあるライダーも取り回しにつらさはないはず
805mmというシート高は、日本人の平均的な体格があれば両足を着くことができるレベル。ボディがスリムなので、想像するより足つき性は悪くない
こちらは女性ライダーの足つき。小柄な人でも両足つま先を着くことができる
軽量・スリム・コンパクトなボディは、軽快で素直なハンドリング特性もあって400クラスのスポーツバイクを操作している感覚で走ることができる。低回転からトルクフルなエンジン特性との相性も良く、独自のパルス感が走る楽しさを倍増させる
従来型と同様のCP2エンジン。しかし吸排気系の変更やECU仕様変更、FIセッティング最適化などで、さらにトルクフルな出力特性となった
フロントブレーキには新たにΦ298mmのダブルディスクブレーキを採用。キャリパーは4ポットの対向ピストン式を装備
ロービームとハイビームを一体型としたバイファンクションLEDヘッドランプを採用。フラッシャーランプとポジションランプにもLEDを新採用した
最新の音響解析技術により排気系を最適化し、低速低開度時の音色を作り込んでパルス感のあるサウンドを実現している
リアブレーキにはΦ245mmディスクを採用。前後ともにABSを標準装備する
テールランプにももちろんLEDを採用し、被視認性を高めている
新たにアルミ製テーパーハンドルを採用。従来型と比較して、左右幅を32mm広く、ハンドル高を12mm高く設定し、アップライトでゆったりとした乗車姿勢を実現。さらに燃料タンクカバー周りのデザインを一新してホールド性をアップ
コンパクトサイズのLCDマルチファンクションメーターはデザイン一新の新作。視認性に優れたネガティブ表示を採用。インフォメーション機能も十分だ
シートはスポーティなフォルムのセパレートタイプを採用。前席はワイドな形状で快適性を高めつつ、前方を絞り込んでニーグリップ性、足つき性に配慮
リアシート下にはとくに収納スペースは確保されていない

主要諸元

認定型式/原動機打刻型式:8BL-RM33J/M419E
全長/全幅/全高:2,085mm/780mm/1,105mm
シート高:805mm
軸間距離:1,400mm
最低地上高:140mm
車両重量:184kg
燃料消費率*1
 国土交通省届出値定地燃費値*2:40.0km/L(60km/h)2名乗車時
 WMTCモード値 *3:24.6km/L(クラス3 サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機種類:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列:直列, 2気筒
総排気量:688cm3
内径×行程:80.0mm×68.5mm
圧縮比:11.5 : 1
最高出力:54kW(73PS)/8,750r/min
最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6,500r/min
始動方式:セルフ式
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量:3.00L
燃料タンク容量:13L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式:フューエルインジェクション
点火方式:TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式:12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S
1次減速比/2次減速比:1.925/2.687 (77/40 X 43/16) 
クラッチ形式:湿式, 多板
変速装置/変速方式:常時噛合式6速/リターン式
変速比
 1速:2.846
 2速:2.125
 3速:1.631
 4速:1.300
 5速:1.090
 6速:0.964
フレーム形式ダイヤモンド
キャスター/トレール:24°50′/90mm
タイヤサイズ(前/後):120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/ 180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後):油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ:LED/LED
乗車定員:2名

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…