ビッグシングルなのに乗りやすい! エントリーユーザーに乗ってほしい1台、トライアンフ・スクランブラー400X。|1000kmガチ試乗【2/3】

大型2輪免許を取得したら、アンダー400ccクラスには興味を示さない。独自の免許制度が存在する日本では、そういうライダーが少なくないと思う。とはいえ、トライアンフが2024年から発売を開始した400cc単気筒車を体験したら、排気量に対する意識が大きく変わるはずだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

トライアンフ・スクランブラー400X……819.000円

兄弟車のスピード400がフレンドリーさやスポーツ性に注力しているのに対して、スクランブラー400Xは快適性や悪路走破性を重視して開発。マフラーは各車専用設計で、スクランブラー400Xのエキゾーストノートはスピード400より元気で重厚……な気がする。

妥協の気配がどこにも見当たらない

第1回目に続いて兄弟車のスピード400にも通じる話になるけれど、トライアンフの400c単気筒車で僕が最初に感心したのは、兄貴分に当たる900/1200ccツイン車に勝るとも劣らない、質感の高さだった。その一方でインド製のマイナス要素は感じなかったものの、生産を担当するバジャジオートは十数年前からKTMのスモールデュークシリーズを手がけ、すでに十分な実績を築いているのだから、それは当然なのかもしれない。

そして乗り味に関しても、僕はインド生産のマイナス要素を感じなかったのだが……。同業者の中には、前後サスペンションの動きやシフトフィーリング、フロントブレーキタッチなどに違和感を述べる人がいるので、おそらく、現時点では個体差がそれなりにあるのだろう。

なお妥協の気配が見当たらない真摯な作り込みにも、僕はかなり心を動かされた。ストリート400とスクランブラー400Xは、ひと目で差異が判別できる前後ホイールやマフラーだけではなく、メインフレーム(基本構成は同じでも、スイングアームピボット~ヘッドパイプの距離が異なる)やシートレール、前後サス、ライポジ関連など、数多くのパーツを専用設計しているし、前後タイヤはピレリ/メッツラーの最新作を履いているのだ。

さらに言うなら、電子制御スロットルや解除可能なトラクションコントロールを導入したこと、スクランブラー400XのABSにオフロードモードを設定したことも、特筆すべき要素だろう。クラシックなルックスに注目が集まりがちだが、コストダウンが重視されがちな近年の400~500ccccクラスにおいて、ここまで作り手の気合いが伝わって来るモデルはめったにないように思う。

絶妙なエンジンフィーリングと真っ当なライポジ

2台のトライアンフ製400cc単気筒車の美点として、僕が筆頭に挙げたいのは守備範囲が相当に広い単気筒エンジンである。広報資料やスペックからは高回転高出力指向が伺えるものの、実際にさまざまな場面を走ってみると、低中回転域ではシングルならではの心地いい鼓動と振動を披露してくれるので、このエンジンはスポーツライディングとまったり巡航の両方が楽しめるのだ。

もっとも近年の400ccクラスの基準で考えれば、最高出力:40ps/8000rpm・最大トルク:3.8kgf・m/6500rpmという数値に、驚きや意外性は無いのである(競合車になりそうな単気筒車、KTM・ハスクバーナの400ccは45ps/8500rpm・3.97kgf・m/7000rpmで、ホンダGB350は20ps/5500rpm・3.0kgf・m/3000rpm。ちなみに現在の400ccクラスで最もパワフルなカワサキZX-4Rは77ps/14500rpm・4.0kgf・m/13000rpm)。とはいえ、今回の試乗中に力不足が気になった場面はほとんどなかったし、高速巡行時の100km/h・トップ6速の回転数は5000rpmで、レブリミッターが作動する9000rpmまで回せば160km/h前後のスピードはは出そうだから、一般的な感覚のライダーならパワーに不満を感じることはないだろう。

続いて述べたい2台に共通する美点は、自由度が高くて身体のどこにも負担がかからないライディングポジション。もちろんこの件の印象は各車各様で、コンパクトにまとまっているスピード400に対して、スクランブラー400Xは大柄にして大らかなのだが、状況に応じて着座位置を変更できることや、ロングランで腕や足腰や尻などに妙な痛みや違和感が発生しないことは、2台に通じる要素。と言っても前後ホイールトラベルや軸間距離を考えると(スピード400はF:140mm/R:130mm・1377mmで、スクランブラー400Xは前後150mm・1418mm)、快適性や安定性ではスクランブラー400Xに軍配が上がるのだけれど、スピード400でツーリングが楽しめないわけではない。

ステップアップの必然性を感じない

一昔前の400cc前後の単気筒車には、ちょっと特殊な分野、何らかのこだわりを持つ人が選ぶ車両、などというイメージがあったと思う。でも今回の試乗で僕は、周辺技術が進化した現代の400cc前後の単気筒車に、万人が楽しめるベーシックモデルとしての資質が備わっていることを実感した。何と言っても一昔前のビッグシングルの悪癖と言われていた、低回転域の扱いづらさや高回転域における過大な振動、減速時の強烈なエンジンブレーキといった問題は、もはや存在しないのだから。

言ってみれば、かつてのビッグシングルの問題をきっちり解消しているからこそ、スクランブラー400Xは混雑した市街地から快適なワインディングまで、いろいろな場面に柔軟に対応できたのだろう。まあでも、どんな単気筒車にそういう印象を抱くは各人各様で、トライアンフより旧車感が強いホンダGB350やロイヤルエンフィールドの350シリーズなどがしっくり来る人がいれば、トライアンフよりスポーティでアグレッシブなKTM 390デュークやハスクバーナ・ヴィットピレン/スヴァルトピレン401にそそられる人も少なくないと思う。

でも今現在の僕が、不特定多数のライダーに最もオススメしやすい400cc前後の単気筒車は、エンジンが必要にして十分なパワーを発揮し、ハンドリングが素直で優しくて、操作に難しいところがまったくなく、その気になればリッターバイクとのツーリングも過不足なくこなせる、スクランブラー400Xとスピード400だ。

その一方で何となく心配になったのは、トライアンフの戦略である。スピード400とスクランブラー400Xを購入したライダーに対して、同社は当然、将来的なモダンクラシック系900/1200ccツインへの乗り換えを期待しているだろう。でもスクランブラー400Xを試乗しているときの僕は、ステップアップの必然性をあまり感じず、それどころか日本のチマチマした道では、むしろ400cc単気筒車のほうが楽しめる気がしたのである。

もちろん、大型車には大型車ならではの魅力が備わっているのだけれど、あえて400cc単気筒車を乗り続ける人、あえて400cc単気筒車を選ぶ人がいても、僕としてはまったく不思議ではない。逆にステップアップを前提にするなら、トライアンフは2台の400cc単気筒車に、何らかの“スキ”を設けるべきだったのかもしれない?

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、約1000kmを走っての実測燃費を紹介します。

パッと見はクラシックでも、スピード400とスクランブラー400Xのエンジン+シャシーは現代的な構成で、前後サスは倒立式フォーク/直押し式モノショック。トライアンフは意図していないと思うけれど、そのあたりは日本で大人気を獲得しているカワサキZ900RSに通じる要素だ。

主要諸元

車名:スクランブラー400X
全長×全幅×全高:2115mm×900mm×1170mm
軸間距離:1418mm
最低地上高:195mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:23.2°/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398.15cc
内径×行程:89.0mm×64.0mm
圧縮比:12.0
最高出力:29.44kW(40ps)/8000rpm
最大トルク:37.5N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.830
 2速:1.930
 3速:1.420
 4速:1.140
 5速:0.960
 6速:0.840
1・2次減速比:2.839・3.070
フレーム形式:ハイブリッドスパイン/ペリメター
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:100/90-19
タイヤサイズ後:140/80R17
ブレーキ形式前:油圧シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:179kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…