SR+GB+ブリット+デューク+ピレン÷5=トライアンフ・スクランブラー400X? 現代の350~400cc単気筒車のいいとこ取りな1台です。|1000kmガチ試乗【1/3】

近年の2輪市場には、多種多様なネオクラシックモデルが存在する。そんな中で、古き良き時代の味わいと現代的な運動性を程よい塩梅で両立している貴重なアンダー400ccモデルが、トライアンフが2024年から発売を開始したスピード400とスクランブラー400Xだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

トライアンフ・スクランブラー400X……819,000円

既存の900ccと1200ccバーチカルツイン車に続いて、2024年から400cc単気筒車が加わったことで、トライアンフのスクランブラーシリーズは3兄弟となった。

350~400cc単気筒車の最適解?

これはもう、ムチャクチャいいところを突いているんじゃないか……? 半年ほど前に他の媒体の仕事で、トライアンフが2024年から発売を開始したスピード400とスクランブラー400Xを体験した僕は、しみじみそう思った。何と言っても、ヨーロッパのA2ライセンスや東南アジア市場を重視して生まれた2台のモダンクラシックは、近年の350~400cc単気筒車のいいとこ取り、と表現したくなる資質を備えているのだから。

悪路走破性や快適性を重視したスクランブラー400Xに対して、スピード400はフレンドリーさと現代的な運動性能を追求。

2台のトライアンフ製400cc単気筒車は基本設計の多くを共有する兄弟車だが、あえて分類するなら、スピード400はKTM 390デュークやハスクバーナの401系、スクランブラー400XはヤマハSRやホンダGBやロイヤルエンフィールドの350路線、と言えなくはない。以下に記す最高出力・装備重量・軸間距離・タイヤサイズを見れば、トライアンフの新作を含めた近年の350~400cc単気筒の素性が何となくでも理解できるだろう。

●スピード400……………40ps・170kg・1377mm・前後17インチ
●スクランブラー400X… 40ps・179kg・1418mm・F:19/R:17インチ
●390デューク……………45ps・174.75kg・1357mm・前後17インチ
●ヴィットピレン401………45ps・164.25kg・1368mm・前後17インチ
●SR400(2021年型)… …24ps・175kg・1410mm・前後18インチ
●GB350…………………20ps・179kg・1440mm・F:19/R:18インチ
●ブリット350……………20ps・195kg・1390mm・F:19/R:18インチ

これらの数字にどんな印象を抱くかは人それぞれだが、KTM・ハスクバーナの斬新さやアグレッシブさに馴染めない人、あるいは、SRやGBやブリットの運動性能に物足りなさを感じていた人にとって、トライアンフの400cc単気筒は最適解になり得ると思う。いずれにしてもスピード400とスクランブラー400Xは、これまでのアンダー400ccクラスにはありそうで無かった、古き良き時代の味わいと現代的な運動性能を程よい塩梅で両立したモデルで、だらこそ僕は、ムチャクチャいいところを突いているんじゃないか……と感じたのだ。

スピード400とスクランブラー400Xの相違点

灯火類はすべてLED。ヘッドライトはスピード400と共通だが、ステーは各車専用設計で、ストーンガードはスクランブラー400Xならではのパーツ。

では2台のトライアンフ製400cc単気筒車どんな住み分けを行っているのかと言うと、まずシートが低くて価格が安いスピード400は(790mm・72万9000円。スクランブラー400Xは835mm・81万9000円)、エントリーユーザーに適しているのだろう。また、車体が軽くて小さく、前後17インチのハイグリップタイヤを採用することを考えると(純正指定はピレリ・ディアブロロッソⅢとメッツラー・スポルテックM9RRの2種)、スポーツライディング好きも十分楽しめると思う。

一方のスクランブラー400Xの特徴は、19インチの前輪(純正指定の前後タイヤはオフロードを多少は考慮したメッツラー・カルーストリート)や豊富なサスストローク(ホイールトラベルは前後とも150mm。スピード400はF:140mm/R:130mm)、ゆったりしたライディングポジションなどで、悪路を含めたロングランなら確実にこのモデルに軍配が上がる。とはいえエントリーユーザーや小柄なライダーにとっては、大柄な車格がネックになりそうだ。

外観はクラシックな雰囲気だが、水冷単気筒エンジンの内部は現代的な構成。ボア×ストロークは2024年型以降のKTM ・ハスクバーナ製390/401シングルと同じ89×64mm。

そんなわけで甲乙が付け難い2台だが、今回の1000kmガチ試乗で取り上げるのはスクランブラー400X。もっとも新規ユーザーの開拓、裾野の拡大という見方をするなら、トライアンフにとってのメインは車格と価格がフレンドリーなスピード400……のような気がするけれど、旧車とツーリングが大好きな身としては、スクランブラー400Xに惹かれるのである(ただし僕はスポーツライディングも大好きなので、峠道やサーキットが楽しいスピード400にも、かなりの魅力を感じている)。

重心が高くても、ヒラヒラ軽快ではない

世間でスクランブラーと言ったら、オフロードが気軽に走れてハンドリングがヒラヒラ軽快、というイメージを抱いている人が多いと思う。かく言う僕もその1人だが、スクランブラー400Xは適度な悪路走破性を備えている一方で、乗り味がヒラヒラしているとは言い難かった。

その主な理由は、スピード400より9kg重い車重と41mm長いホイールベース、ダンパーの利きがいまひとつで動きがフワフワしている前後サスペンションだ。実は試乗前の僕は、高めのシートの効果でライダー込みの重心が高くなり、軽快な乗り味を実現しているはず……と想像していたのだけれど、スピード400と比較すると、スクランブラー400Xのハンドリングは、良く言えば安定性重視、悪く言うならモッサリしている。

まあでも、僕にとってその印象はマイナスではなかった。それどころか、穏やかで優しくて安定感が抜群のスクランブラー400Xの乗り味は、旧車とツーリング好き目線ではグッと来るものがあったし、軽くて小さくて運動性に優れるスピード400と比較するなら、絶妙な差別化が図れていると思う。いずれにしてもスピード400とスクランブラー400Xは、トライアンフが現体制で初めて手がけたアンダー400ccクラスとは思えないほど(旧体制時代を含めると約半世紀ぶり)、いろいろな面で配慮が行き届いているので、他メーカーの技術者がこの2台を体験したら、やっぱり僕と同じように、いいところを突いている……という印象を抱くような気がする。

ダイヤモンドタイプのスチール製チューブラーフレームの基本構成は、兄弟車のスピード400と共通。ただし19インチの前輪とラジエターの干渉を避けるため、スクランブラー400Xのステアリングヘッドパイプはスピード400より前方に設置されている。

主要諸元

車名:スクランブラー400X
全長×全幅×全高:2115mm×900mm×1170mm
軸間距離:1418mm
最低地上高:195mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:23.2°/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398.15cc
内径×行程:89.0mm×64.0mm
圧縮比:12.0
最高出力:29.44kW(40ps)/8000rpm
最大トルク:37.5N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.830
 2速:1.930
 3速:1.420
 4速:1.140
 5速:0.960
 6速:0.840
1・2次減速比:2.839・3.070
フレーム形式:ハイブリッドスパイン/ペリメター
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:100/90-19
タイヤサイズ後:140/80R17
ブレーキ形式前:油圧シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:179kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…