クラッチレバーが無いんです! オートマチック変速のBMW、R1300GSアドベンチャー|海外試乗記

昨年10年ぶりのフルモデルチェンジにより登場したR1300G。約1年遅れて、まさに待望といえるアドベンチャーが登場、スペインにてプレス試乗会が開催された。
今回は車高調整機構とクラッチレバーを持たない新機構のASA(エーエスエー)を装備したマシンを2日間に渡ってテストした。



鈴木大五郎

BMW・R1300GSアドベンチャー

ボクサーエンジンを搭載するGSには大きくわけて2つのモデルが存在。スタンダードモデルと、より高い旅性能や快適性を備えたアドベンチャーだ。

これまで本国では両モデルの販売台数はほぼイーブン。我が国では近年、より迫力のあるアドベンチャーのほうが売れていると聞く。
昨年10年ぶりのフルモデルチェンジにより登場したR1300GSは、BMWとして。そしてアドベンチャーマシンのベンチマークとしても相応しい性能を有していた。そして約1年遅れて、まさに待望といえるアドベンチャーが登場。スペインにてプレス試乗会が開催された。

GSに限らず、BMWモトラッドのモデルには多くのバリエーションやオプションが存在し、今回は車高調整機構とクラッチレバーを持たない新機構。ASA(エーエスエー)を装備したマシンを2日間に渡ってテストした。

R1300GSから採用された自動車高調整機構により停車時のシート高は870mmから840mmに下げられる。身長165cmのライダーにとっては決して足つきが良好というわけではないものの、大きな助けになることも確かである。また、日本仕様ではさらにシート高が低くなるコンフォート仕様もラインナップされるから、そのフレンドリーさは従来モデル以上と感じられるだろう。
車格は大柄ながらも、跨った際の各操作系のポジションはそのイメージとは大きくかけ離れている。コンパクトという表現はさすがに語弊があるかもしれないが、従来モデルに比べても、あきらかに手に余る感触が少なくなっている。

イグニッションボタンをプッシュ。ブレーキを握りながらエンジンスタート。シフトペダルを操作してニュートラルからギアを入れると走行が可能となる。モードはオートマチックとなるDモードをセレクト。変速もすべてお任せ仕様である。

恐る恐るスロットルを開けると大柄なマシンはジェントルに動き出した。ライディングモードはエコからスタート。アクセルを開けていくと小気味よくシフトアップがおこなわれ、巨体を軽々前に押し進める。
混雑する市街地では極々低回転域での走行。そしてストップ&ゴーもあるなかで上手いこと半クラ操作をしてくれている。ここがオートマチックモデルのキーポイントともなる場面でもあるが正直、これはベテランライダーの域である。
撮影で何度もUターンを行ったが、トルクが急に変動したり切れたりして、マシンがフラッと倒れこんでしまいそうになることもない。ここが上手くいかないとマシンがさらに大きく感じられたりしてしまうものであるが、マシンとのフィット具合がグッと縮まった印象であった。

スロットルの開け方。また、選択されたライディングモードによってシフトアップタイミングは異なるが、教官的目線で言えば「適切なタイミング」である。

また、よりデリケートなコントロールが必要となる減速時のタイミングもいい塩梅だ。エコモードではかなり穏やかな回転数となるようなギアをチョイス。ロード、そしてダイナミックモードを選択すれば少しだけ高い回転数をキープすべく、シフトダウンが行われる。とはいえ、そのシフトタイミングもマシンの挙動も非常にスムーズである。
しかし、スピードが高まり、フロントブレーキをしっかり握っていった際には、減速の度合いとシンクロしてよりスポーティにシフトダウンが行われていく。ブレーキをかける量やその減速具合によって「お、こいつは速く走らせようとしているんだな。」と察知してくれているようなフィーリング。腕に自信のあるライダーであっても、この感触に違和感はほとんどないのではないかと想像する。

トルクが厚く、回転数に依存せずに走らせることができるエンジンキャラクターの恩恵も大きいだろう。正直、「ここはちょっとタイミングが違うなぁ」といった違和感を覚えることは記憶にないほどである。
また、万が一そのように感じたのであれば、マニュアルモードを選択して任意のシフトを選択すれば済むはなしでもある。
しかもそのシフトタッチはやや硬めとなる通常のGSのものと異なり、スコンスコンと軽いタッチでシフトチェンジが行われる。

オフロードでの走りも巨体を感じさせないコントロール性の高さである。バランスを取りながらUターンをするような難易度の高いシチュエーションではフロント、またはリアブレーキを引きずりながらのアクセル操作というちょっとしたテクニックを併用することとなったが、クラッチ操作の代わりにマスターすれば良いだけのこと。クラッチ付きモデルでもこのようなシチュエーションでは同様のアクセルとブレーキ操作を行っていることからも大きなハードルとはならないだろう。
多くの場面。すなわちそのほとんどのライダーに恩恵がある機能であると実感したのである。

いっぽうで、モトラッドの開発スタッフ達はクラッチ付きモデルを決して否定することはなかった。従来通り、操作を100%楽しめる完璧なパッケージ。しかし機械よりも上手かろうが下手であろうが、快適性の向上につながる可能性。そしてニーズに応えるかたちでの選択の多様化は歓迎すべきことである。

今後も増えていくであろうASAであるが、試乗前に疑心暗鬼だった気持ちはすっかりと晴れ渡ったような気分でスペインをあとにしたのである。

足つきチェック(ライダー身長165cm)

現地で走行テストした車両はシート高が840‐870mmであったが、写真は日本で最も人気となるであろうコンフォート仕様で、停車時のシート高は820mm(走行時850mm)となる。大柄に見える
もののタンク後端部はスリムでイメージよりも足つきは悪くない(身重165センチ)。また、ライディングポジションも先代のR1250GSアドベンチャーよりも一回りコンパクトな印象でスタンディングポジションも取りやすい設定。

ディテール解説

6.5インチTFTフルカラーモニターは多くのモトラッドモデルと共通であるが、表示内容はオリジナル。
ASAモデルの特徴でもあるクラッチレバーがない違和感はすぐに消え去る。特に低速域での繊細なクラッチ操作やエンストの不安がない恩恵は大柄なモデルだけにとくに大きく感じられるもの。トルクフルなエンジン特性とのマッチングが素晴らしい。
左スイッチ部にはセレクトボタンやジョグダイヤルが装備される。複雑にみえるが多くのモトラッドモデルと共通の操作法となり、基本的にシンプルで使いやすい。左下のD/Mボタンがオートマモードとマニュアルモードの切り替えで走行中にも操作可能。
ヘッドライトはR1300GSと共通だが、ウィンドシールドは大型化されより高い防風性を獲得。大きく張り出したラジエターシュラウドには補助ヘッドライトが内蔵される。ツーリングモデルにはハンドガードにウィンカーも備えるが、自動車高調整機能を持たないトロフィーモデルは通常のヘッドライト横に配置される。
迫力満点のガソリンタンクはアルミ製で容量は30リットルでタンク上面前部には小物入れを装備。純正のタンクバックが簡単に装着出来るマウントが備わる。
エンジンおよび駆動系はR1300GSと共通となるが、足回りのセットアップは専用。ブレーキは前後どちらをかけても連動するフルインテグラルABSプロを標準装備。強力な制動力をしっかり発揮出来る設定となっている。
シートは前後分割式でシートヒーターも装備。R1300GSとは形状も異なる。また、シートレールはより大容量のパニア&トップケースを装着すること前提で、より強度の高められた専用設計。日本仕様にはケースが簡単に着脱出来る専用ステーが標準装備される。

BMW・R1300GSA 主要諸元

●エンジン
タイプ:空冷/水冷2気筒4ストロークボクサーエンジン、DOHC、2ディファレンシャルギヤ、可変インテークカムシャフトコントロールBMW ShiftCam
ボア×ストローク:106.5mm x 73mm
排気量:1,300cc
最高出:107kW (145PS) / 7,750rpm
最大トルク:149Nm / 6,500rpm
圧縮比:13.3 : 1
点火 / 噴射制御:電子制御式インテークパイプインジェクション
エミッション制御:クローズドループ制御式三元触媒コンバーター
排ガス基準:EURO5

●性能・燃費
最高速度:220km/h以上(ケースOA装備、トップケースOA装備、タンクバッグ OA装備:180km/h)
WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時):20.4km/L
WMTCに準拠したCO2排出量:113g/km
WMTCに準拠した航続距離612km
燃料種類:無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)(エタノール15%以下、E15)、95ROZ/RON、90AKI

●電装関係
オルタネーター:三相交流オルタネーター、650W(定格出力)
バッテリー:12V / 14Ah、メンテナンスフリー、AGMバッテリー

●パワートランスミッション
クラッチ:湿式多板クラッチ、アンチホッピング
ミッション:常時噛み合い式6速トランスミッションをエンジンブロックに内蔵
駆動方式:カルダンシャフト
トラクションコントロール:BMW Motorrad DTC

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