トレールバイクとは一線を画する、アドベンチャーツアラーならではの魅力を認識 スズキ・Vストローム250SX 1000kmガチ試乗2/3

近年のVストロームシリーズは、幅広い車種展開を行っている。それらの中でどのモデルに魅力を感じるかは人それぞれだが、今回の試乗で約1100kmを走破した筆者は、自分にとっては250SXがベスト、と感じているのだった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキ・Vストローム250SX……569.800円

ダイヤモンドタイプのスチールフレームはジクサー250をベースにしているが、荷物の積載やタンデムライディングを考慮してシートレールを専用設計。なおスイングアームの軸間距離はジクサー250+48mm。

過酷な林道ツーリング

数ヵ月前に掲載したガチ1000km試乗・ホンダCRF250L編で記したように、最近の僕は愛車のSL230を駆って、ヤマハ・セロー250を所有する友人Eと共に、林道ツーリングによく出かけている。ちなみにEが設定するルートはなかなかに過酷で、二輪二足でないと通過できない状況に頻繁に遭遇するのだが、モノは試しという気持ちでその林道ツーリングにCRF250Lを使ってみたところ、SL230(念のために記しておくと、車重はCRF250Lより26kgも軽い115kgで、現在履いているタイヤはオフロードに特化したブリヂストンED03/04)と大差ない感覚で苦も無く走れた。

ではVストローム250SXが、CRF250Lと同じような走りができるのかと言うと、それは無理だろう。CRF250Lのタイヤサイズと前後ホイールトラベルがトレールバイクとしては一般的な、80/100-21・120/80-18・235mm・230mmであるのに対して、アドベンチャーツアラーのVストローム250SXの数字はオンロード車に近い、100/90-19・140/70-17・120mm・143.7mmなのだから。さらに言うなら164kgの車重も(CRF250Lは141kg)、オフロードを走るうえではマイナス要素になるはずだ。

とはいえ、バイクの乗り味は数字だけでは判断できないものである。もちろん、条件的に厳しいのは間違いないけれど、僕としては勝手知ったると言うべき環境で、Vストローム250SXの性能を確認してみたかったので、友人E+セロー250との林道ツーリングに使ってみることにした。

落胆を味わった後の大発見

これはやっぱり、厳しいぞ……。Vストローム250SXで過酷な林道に足を踏み入れて十数分後、僕はそう感じていた。19インチのフロントタイヤは轍や岩に弾かれやすいので、進路がどうにも定まらないし、路面の凹凸の処理は前後サスペンションだけでは追いつかず、衝撃が身体に入って来る。リアブレーキのABSの作動が早すぎることも気になった点で(一方でフロントブレーキのABSは、握りゴケ防止に貢献する絶妙な設定)、いずれにしても、いつものペースで走るE+セロー250について行くのは難しい。また、行き止まりで車両から下りて数回ほどハンドルを切り返してUターンをした際は、車重の重さをしみじみ実感した。

そんなわけで、意外に早い段階でVストローム250SXの限界を感じた僕だが、1回目の休憩時にEと相談して、以後はいつもの2/3から3/4くらいのペースで走ってみたところ……。アラッ?という言葉が口から出てしまうほど、楽に走れるようになったのである。いや、冷静に考えればそれは当たり前なのだが、そのときの僕は“ペースを控えめにして無理をしなければ、このバイクはオフロードが楽しめるじゃないか‼”と、大発見をした気分だったのだ。

それどろこか、オフにロード特化していないセミブロックパターンの純正タイヤで(マキシスのマックスプロア。ちなみにCRF250Lとセロー250の純正タイヤは、もうちょっとオフロード指向)、よくぞここまでの走りができるものだと。逆に言うなら、前後タイヤをオフロード重視の製品に交換すれば、もっと速いペースで走れるに違いない。

そういった資質を認識した僕の中では、当初は微妙な位置で上下していた好感度メーターがグングン上昇。その変化が功を奏して、以後はスタンディングがバッチリ決まること(着座状態からスッと立てるし、立ってからの落ち着きがいい)、ジワッとでもガバッとでもスロットルを開けた際のトラクションがわかりやすいこと(妙な表現かもしれないが、エンジンのグリップがいいと思った)、必要にして十分な205mmの最低地上高が確保されていること(ただし、CRF250Lは245mmで、セロー250は285mm)など、さまざまな美点を発見することになったのである。

高速巡行がすこぶる快適

もっとも、僕がこのバイクの真価を理解したのは、自宅を出発して8時間以上が経過してからだった。林道走行を終えて帰路についた途中で、Eのセロー250を借りて市街地と高速道路を走った僕は、極端なこと言うなら(あくまでもVストローム250SXと比較しての話だが)自転車を思わせるフラフラ感、安定感の無さに驚き、続いて乗ったVストローム250SXでは極上の安定感、思わず、ホッとしてしまう車体の落ち着きぶりに、心から感激したのだ。

中でも、2台の違いを如実に感じたのは高速道路。セロー250の場合は、そもそも車体が舗装路での高速直進安定性を重視していないうえに、エンジンを高回転域まで回すと不快な振動が発生し、走行風がライダーにダイレクトに当たるので、巡航速度は自然に90~100km/hに落ち着く(Eの所有車はウインドシールドを装着しているが、100km/h以上での巡航は厳しそう)。でもVストローム250SXは、抜群の安定感となかなかの防風性能、適度に抑えられた振動のおかげで、120km/h巡航が余裕でこなせる。

その事実を把握した僕は、“そうか。改めて考えるとアドベンチャーツアラーには、こういう魅力があったんだよな”と感じたのだ。もっとも、アドベンチャーツアラーに明確な定義は存在しないものの、オフロードがそれなりに走れて、舗装路の峠道ではスポーツライディングが楽しめて、高速巡航がすこぶる快適なこのバイクは、多くの人がアドベンチャーツアラーに期待する資質をきっちり備えていると思う。と言っても、それは兄貴分の650や800、1050にも言えることなのだが、フレンドリーさなら、車重やパワーが控えめなVストローム250SXが一番だろう。

トレールバイク仕様の可能性

林道では戸惑いを感じたけれど、約1100kmの試乗を終えた今の僕は、悪路走破性を重視しすぎない、アドベンチャーツアラーとしての魅力を追求したVストローム250SXの特性が大正解だと感じている。と言うより、一般的なツーリングライダーの目線で考えると、現状の悪路走破性に物足りない印象を抱く人は、そんなに多くはないはずだ。

ただしその一方で僕としては、トレールバイク仕様も作って欲しい……と思わなくもない。改めて考えてみると、CRF250Lシリーズの販売成績は好調なようだし、世間ではセロー250の復活を望む声が少なくないのだから、Vストローム250SXの軽量&足長&大径ホイール仕様が登場したら、グラッと来る人は少なくないんじゃないだろうか。

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、約1100kmを走っての実測燃費も紹介します。

並列2気筒のVストローム250と比較すると、油冷単気筒を搭載するVストローム250SXの車重は27kgも軽い167kg。ただし27度のキャスター角と1440mmのホイールベースは、25度10分・1425mmのVストローム250より安定指向。

主要諸元

車名:Vストローム250SX
型式:8BK-EL11L
全長×全幅×全高:2180mm×880mm×1355mm
軸間距離:1440mm
最低地上高:205mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:27°/97mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:249cc
内径×行程:76.0mm×54.9mm
圧縮比:10.7
最高出力:19kW(26PS)/9300rpm
最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/7300rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.687
 3速:1.315
 4速:1.111
 5速:0.954
 6速:0.826
1・2次減速比:3.086・3.07フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:100/90-19
タイヤサイズ後:140/70-17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:164kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:44.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:34.5km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…