クロスカブ110で走り込むこと1000km。ハンターカブとは似て非なる魅力を改めて実感‼|1000kmガチ試乗1/3

クロスか、ハンターか。カブ好きが何人か集まると、そんな話題になることが少なくない。筆者の場合は、どちらかと言えばハンター派だったのだけれど、林道での比較試乗を経て、その考えは微妙に揺らぎ始めている。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダ・クロスカブ110……363,000円

2022年から発売が始まった3代目クロスカブの特徴は、アルミキャストホイールとフロントディスクブレーキ。カブ系らしからぬという意見もあるけれど、この2つを採用することで、2代目以前と比較すると運動性能が飛躍的に向上した。

気軽なクロスカブと、重厚なハンターカブ

2019年の東京モーターショーでCT125ハンターカブのプロトタイプ初公開されたとき、“このモデルが発売されたら、クロスカブ110は終わっちゃうのかもしれないな”と僕は感じた。その理由は、往年のハンターカブに通じる雰囲気をまといつつも、あくまでもスーパーカブ110の派生機種という位置づけのクロスカブ110とは異なり、数多くの部品を専用設計したCT125ハンターカブは、1980~2012年に生産されたCT110をかなり忠実に再現していたから。誤解を恐れずに表現すると、“本命”の登場によって、“布石”は役割を終えるんじゃないか……という気がしたのだ。

もっとも、2020年にCT125ハンターカブが発売された後も、クロスカブの人気は衰えることなく、2022年からは第3世代の現行モデルが販売されている。つまり僕の予想は大ハズレで、2013年から発売が始まったクロスカブは、ハンターカブ好きとは異なる支持層を獲得していたのだ。ではクロスカブ好きがどんなところに惹かれているのかと言うと、筆頭に挙がるのはやっぱり価格と車格だろう。

以下に各車の2023年型の価格/重量/シート高/全長×全幅×全高/軸間距離を記すと、クロスカブ110は36万3000円/107kg/784mm/1935×795×1110mm/1230mmで、CT125ハンターカブは44万円/118kg/800mm/1965×805×1085mm/1260mm。この数値の解釈は人それぞれで、微々たるものと言う人がいるかもしれないが、安価で小柄で軽快なクロスカブを基準にすると、CT125ハンターカブは高価で大柄で重厚……なのである。

チマチマした林道では、クロスのほうが優勢?

前傾単気筒エンジンの内径×行程は、歴代カブシリーズで最もロングストロークとなる47×63.1mm。最高出力はCT125ハンターカブより1.1ps低い8ps。

クロスか、ハンターか。業界のカブ好きが何人か集まると、そんな話題になることが少なくない。ちなみに僕の場合は、どちらも面白いモデルだから、予算や車格や外観の好みで選んでいいんじゃないかという考えを前提にしつつも、自分に合っているのはハンターだと思っていた。7万7000円の価格差はさておき、体格が大柄で(身長182cm、体重74kg)、愛車の主な用途がツーリングで、旅先で未知の林道に入って行くのが大好きで、通勤快速的な資質を欲してない身としては、ハンターが向いているんじゃないかと。

ところが、少し前にモトチャンプの仕事でクロスとハンターを同条件で比較した僕は、クロスの潜在能力の高さに驚き、一方でハンターの乗り味にちょっとガッカリしたのである。しかもその舞台は、まさかのオフロードだった。

もちろん各車の素性に注目すると、悪路走破性はハンターに軍配が上がる……はずなのだ。前後サスストロークは、クロス:105/77mm、ハンター:110/86mmだし、フロントまわりの剛性は、1つのブラケットで短いフォークを支持するクロスよりも、一般的なモーターサイクルと同じく、アッパー+アンダーブラケットで長いフォークを支持するハンターのほうが確実に上。また、3代目クロスカブが採用したキャストホイールは、路面の凹凸の吸収性という面では不利に違いない(ハンターはスポークホイール)。でも速度域が低いチマチマした林道で2台を乗り比べると、ハンターの美点はなかなか感じづらかったのである。

LEDヘッドライトはステアリングの慣性モーメント低減に貢献するフレームマウント式で、そのステーはガード/フロントキャリアとしての役割を兼務。

それどころか、車重の軽さと素直なハンドリングを武器にして、悪路をスイスイ進めるクロスを比較対象にすると、アップマフラーと巨大なリアキャリアを原因とする重心の高さ、ヘッドライト+ステーをフォークカバーに設置したことによる(クロスカブのヘッドライトはフレームマウント)ステアリング系の慣性モーメントの大きさ、そして車重の重さが仇になって、ハンターはどうにも気持ちよく走れなかった。その結果として、クロスで先導役を務めたときの僕は、比較試乗に同行したテスター+ハンターを余裕でリードできたものの、車両を交換すると、テスター+クロスにビッタリ追走されたのである。スピードレンジがもっと高ければ、あるいは、路面状況がもっと悪ければ、事情は違ったのかもしれないが、この比較試乗を通して、僕の中には“もしかしたら、クロスのほうが自分には合っているのかも?”という疑問が生まれたのだ。

比較試乗の後に芽生えた欲望

まあでも、過去にハンター単体で林道を走ったときの僕は、悪路走破性はこれで十分と感じたし、そもそも普段の自分のツーリングでオフロードを走る機会は、全体の10%にも満たないのである。だからチマチマした林道での走破性がクロスに及ばなくても、ハンターの株が大きく下がることはなかったのだが(過去のガチ1000kmで記したように、ロングランでのハンターの印象は最高だった)、林道での比較試乗を経験した後は、クロスの資質をいろいろな場面でじっくり堪能してみたい……という欲望が芽生えて来た。

そんなわけで、今回のガチ1000kmではクロスカブ110を取り上げることにしたものの、すでに前フリを膨大な文字数を使ってしまったので、このモデルと約2週間を共にしての印象は、近日中に掲載予定の第2回目で紹介したい。

純正タイヤはCT125ハンターカブと同じIRC・GP-5。ただしCT125ハンターカブ用がチューブの装着を前提にしているのに対して、クロスカブ110用はチューブレス仕様である。

主要諸元

車名:クロスカブ110
型式:8BJ-JA60
全長×全幅×全高:1935mm×795mm×1120mm
軸間距離:1230mm
最低地上高:163mm
シート高:784mm
キャスター/トレール:27°/78mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:109cc
内径×行程:47.0mm×63.1mm
圧縮比:10.0
最高出力:5.9kW(8PS)/7500rpm
最大トルク:8.8N・m(0.9kgf・m)/5500rpm
始動方式:セルフスターター・キック併用式
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式4段リターン
クラッチ形式:湿式多板ダイヤフラムスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.142
 2速:1.833
 3速:1.333
 4速:1.071
1・2次減速比:3.421・2.642
フレーム形式:バックボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ27mm
懸架方式後:スイグアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:80/90-17
タイヤサイズ後:80/90-17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:機械式ドラム
車両重量:107kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:4.1L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:67.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:67.9km/L(1名乗車時)

キーワードで検索する

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…