ヤマハ・アエロックス:48万1800円

2025年から東南アジア市場、2026年8月から日本での販売が始まった最新型アエロックスの開発コンセプトは、スーパースポーツバイクに最も近いスクーター。外装類のデザインには、YZF-R9に通じる要素を投入。

スーパースポーツのマイナス要素

少し前に当サイトにアップしたインプレに記した通り、2026年8月からヤマハが日本市場への導入を開始したアエロックスは、驚くほどスポーティで、ムチャクチャ面白いスクーターである。

そしてこのモデルの資質をもっとじっくり味わいたくなった僕は、約500kmのツーリングに使ってみることにしたものの……。実は日を改めてロングランに出かけた背景には、初試乗時に自分の中に生まれた疑念を検証しようという意識も存在した。

と言うのも、アエロックスの開発コンセプトは“スーパースポーツバイクに最も近いスクーター”で、スーパースポーツと呼ばれるバイクの多くは、ロングランに使うと何らかのマイナス要素を感じることが珍しくないのである。

具体的な懸念材料を記すと、市街地では運動性重視の特性に躊躇するかもしれないし、高速道路では巡航性能に不満を抱く可能性があるし、帰路では心身に大きな疲労を感じても不思議ではない。だから今回の試乗に臨む僕の気持ちは、期待と不安が半々だったのだ。

なおライディングフィールに関するアエロックスの注目ポイントは、ヤマハのスクーターでは珍しい前後14インチのタイヤ、運動性重視の姿勢が伺える前後ショック、2種のライディングモードが存在し(穏やかなSとシャープなC)、3段階の疑似的なシフトダウンが可能な電子制御式のYECVTなど。

エンジンに関しては他機種で実績を積んだ可変バルブ機構を備える水冷OHC4バルブ単気筒のブルーコア、フレームはオーソドックスなアンダーボーンタイプを採用している。

通勤快速として使える

まずは市街地の印象を述べると、運動性重視の特性への躊躇は微塵も無く、それどころか、予想以上の俊敏さに舌を巻くこととなった。

ただし、体格が小柄な人や常日頃からマッタリ走行を心がけている人は、着座位置の高さや鋭いスロットルレスポンスに戸惑いを覚えるかもしれないが、通勤快速的な性能を欲するライダーにとって、アエロックスは最良の相棒になり得ると思う。

もっとも、アエロックスのタイヤは前後14インチ、軸間距離は1350mmだから、原付二種の世界で通勤快速と呼ばれるスクーター(タイヤは前後12インチか前後10インチで、軸間距離は1300mm以下)と比べれば、小回りは利かない。

とはいえ、信号からゼロ発進した際の強烈なダッシュ力、体感的には250ccのXMAXに匹敵するレベルの加速に心を揺さぶられた身としては、小回り問題は取るに足らないこと……と、感じている。

最高速付近でもビタッと安定

そして高速道路でも、アエロックスは素晴らしい性能を披露してくれた。

と言っても、このモデルは運動性を重視してシート高と重心を高めに設定しているので、当初の僕は直進安定性がいまひとつかもしれない?と危惧していたのだが、前後14インチタイヤと長めの軸間距離に加えて、26度30分/102mmというやや安定指向のキャスター/トレールの効果なのだろうか、トップスピードの約120km/h近辺でも車体はビタッと安定。

また、近年になって選択肢が増えている150~180cc前後のスクーターで高速道路を走ると、追い越し時に微妙な力不足を感じることが珍しくないのだけれど、疑似的なシフトダウンが行えるアエロックスは、そういった問題をきっちり解消。

少なくとも80~90km/hで走行している二/四輪は、気軽にサクッと追い越すことが可能だった。

大小のカーブが続く峠道では、水を得た魚

続いては大小のカーブが続く峠道の話で、この舞台でのアエロックスはもう、水を得た魚である。

中でも僕が嬉しくなったのは、コーナーの立ち上がりでスロットルを開けた際の俊敏なレスポンスと鋭い加速だが(Sモードでは、右手とパワーユニットのシンクロ率が100%以上⁉と思えた)、コーナー進入時に疑似的なシフトダウンを行うと、後方から程よい塩梅で車体が引っ張られるかのような安心感が得られることも特筆したくなる要素だ。

もちろん、そういったYECVTの美点が存分に感じられるのは、足周りやフレームがしっかりしているからである。

いずれにしても、このモデルのスポーツライディングはすこぶる楽しく、スクーターの世界では大昔から定番になっている、アンダーブラケットのみで支持する短いフロントフォーク+ユニットスイング式のリアサスペンションでも、こんなにスポーティなハンドリングが構築できるのかと、僕はしみじみ感心してしまった。

快適性に感心し、航続距離に落胆

さて、ここまでは各場面の話を展開してきたけれど、ここからはロングランに使っての印象。前述した通り、当初の僕は大きな疲労を想定していたものの、路面の凹凸の吸収性が良好なうえに、帰路はライディングモードをずっとTにしていたからだろうか、約500kmの走行を終えた後の僕の心身は、予想以上に元気だった。

もっとも、シートに跨るのではなく、座るスクーターだから、ロングランの後半では尻に適度な痛みが発生したのだが、それは着座位置の前後移動である程度は解消できるので、大問題ではないだろう。つまり快適性では、このモデルはスーパースポーツバイクに近くないのだ。

ただし、僕がアエロックスのオーナーになったら、頻繁にロングランに出かけるのかと言うと……、何とも言い難いところである。

その理由は航続距離の短さ。WMTCモードの燃費とガソリンタンク容量から算出できる航続可能距離は41.1×5.5=226.05kmだから、180kmくらいは普通にイケると思っていたものの、燃料計の減り方を見ていると、Sモードがメインで150km以上を走るのは相当な勇気が必要。

ちなみに今回のツーリングの折り返し地点は、当初は国道最高峰の渋峠の予定だったのだが、群馬県草津町から志賀草津道路を上り始めた途端に燃料警告灯が点滅したため、途中で断念することとなった。

この件についてはいろいろな見方があって、“150kmで十分”と言う人がいれば、“最低でも200km”と言う人、“中村の運転が悪い”と言う人もいるだろう。

おそらくヤマハ社内でも、この件に関する議論はあったはずで、“スーパースポーツバイクに最も近いスクーター”という開発コンセプトを最優先した結果として、現状のガソリンタンク容量と航続距離に落ち着いたのだと思う。

だから僕としては、現状のアエロックスに異論を述べるつもりはないし、乗り味に関しては超がつくほどの好印象を抱いているのだけれど、個人的にはヘルメットが収納できなくてもいいから、トランクスペース容量を2ℓほど削減して、そのぶんをガソリンタンク容量に充ててくれば最高だったのに……という気がしないでもない。

Sモードのみで走ってシフトダウンを頻繁に行った①②は、給油前に燃料警告灯が点滅。①は点滅直後にガソリンスタンドに入ったから、このモデルは残量が1.6ℓ前後になった時点で警告が始まるようだ(タンク容量は5.5ℓ)。ちなみに、②でガソリンスタンドに辿り着くまではヒヤヒヤだったものの、残量はまだ1ℓ以上あった。Tモードのみで走った③④は、スペックに記された41.1km/ℓに近い数字をマーク。今回のトータル燃費から算出できる航続距離は、36.3×5.5=199.65km。

中村のお気に入りポイント

普通に走っているだけでは気づかないものの、スポーツライディング中の僕はハンドルの高さと幅と絞り角、ブレーキレバーの角度を絶妙と感じた。あまり話題にならない部分だが、こういうところには開発陣のこだわりが表れているように思う。
高めで細身のセンタートンネルは、スポーツライディング中のホールド感に貢献。世の中にはフットスペースの前後長の短さを問題視する人がいるようだが、僕は不満を感じなかった。
コーナー進入時のフロント周りの安心感は特筆モノ。その主な理由は14インチという前輪のサイズ……だと思うけれど、かなりのグリップ力を発揮する純正指定タイヤのIRC SCT-005、しっとりとした動きを見せるフロントフォークも、安心感を構成する要素だ。
センサーで得た情報を基にしてTCUが制御を行い、モーターでプライマリーシーブを動かすYECVTの構成図。かつての僕はスクーターにモード切り替えや変速機構は不要?と思っていたのだが、2025年型NMAX155と2026年型アエロックスを体験して考えが一変。今後はいろいろな機種に導入して欲しいと思っている。

主要諸元

型式:8BK-SG97J
全長×全幅×全高:1980mm×765mm×1170mm
軸間距離:1350mm
最低地上高:145mm
シート高:790mm
装備重量:132kg
キャスター/トレール:26°30′/102mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:155cc
ボア×ストローク:58×58.7mm
圧縮比:11.6
最高出力:11kW〈15PS〉/8000rpm
最大トルク:14N・m〈1.4 kg-f・m〉/6500rpm
燃料供給装置: フューエルインジェクション
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
クラッチ形式:乾式自動遠心シュータイプ
変速機形式:Vベルト無段変速・電子制御式
フレーム形式:アンダーボーン
ブレーキ形式前:油圧式ディスク
ブレーキ形式後:油圧式ディスク
タイヤサイズ前:110/80-14
タイヤサイズ後:140/70-14
燃料タンク容量:5.5ℓ
乗車定員 2名
燃料消費率WMTCモード値:41.1km/L(クラス2・1名乗車時)


【モトチャンプ】