過去に類を見ないギアボックスでエンジンとモーターをつなぐ

スズキの技術戦略説明会は2024年から3年連続で開催されている。
エネルギー極少化を「小・少・軽・短・美」というスズキらしい技術開発の柱で示した2024年。そこに本質的価値の極大化をプラスする「Right × Light Mobile Tech」というスローガンを示した2025年。筆者は、いずれの説明会にも出席している。
そして3年目となる今回の技術戦略説明会のテーマは「小・少・軽・短・美」と「Right × Light Mobile Tech」とお客様のマッチングとなっていた。つまり、夢の技術に終わらせず、ユーザーが実際に利用できる・購入できる「丁度よい技術」への進化を意識した内容というわけだ。
非常に丁寧なプレゼンテーションやQ&Aセッションから実物展示まで2時間以上を会場で過ごし、スズキの技術戦略を肌で感じた筆者が、その中でもっとも注目したのは「48Vマイルドハイブリッド」だった。
まずは、このメカニズムやシステムから紹介したい。

NA(自然吸気)とターボ、2種類の660ccエンジンは既存のR06D型。トランスミッションもCVTとなっている。そこに48VのMGU(モータージェネレーターユニット)を組み合わせたマイルドハイブリッドだ。
最大の注目ポイントは、MGUとエンジン(クランク出力)をギアボックスによって繋いでいる点だ。
現在、スズキが軽自動車用に展開しているマイルドハイブリッドは12VのISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)をベルトでクランクプーリーと繋いでいる。この仕組みはローコストではあるが、回生による発電にしても、モーターアシストにしても、その伝達効率にベルト使用のウィークポイントがあり、それがモーター出力を上げづらくしている。
次世代の48Vマイルドハイブリッドでは、最高出力10kWと、より力強いモーターを使う。その力を十分に利用するためにエンジンとMGUをがっちりとギアボックスで繋いでいるのだ。
今回の展示はカットモデルではなかったので説明員の方に構造をうかがったところ、MGUはエンジンのフライホイールにギアボックスを介してつながっているという。つまりエンジンを始動させることもできれば、クランク出力にダイレクトにモーターアシストを加えることもでき、減速時にはトランスミッションからの入力を最小限のロスで発電に利用することが期待できる。
軽自動車のエンジンルームに納めるためには、補機類を含めた設計変更も必要になるというが、48Vと電圧を上げたことによるアシスト量の拡大やエネルギー回生の性能アップなどを考えると、それだけの手間をかける価値はあるといえるだろう。
しかしながら、軽自動車であっても次世代技術というのなら電動走行領域を拡大したストロングハイブリッドを期待したいユーザーも少なくないと思う。もちろん、筆者もそうした期待は持っているが、スズキのいう「丁度よい」技術としては、軽自動車に48Vマイルドハイブリッドは非常に筋がいいとも感じている。
600kgの次世代アルトは29.2km/L以上の燃費性能が求められる

過去の、技術戦略説明会においてスズキは次世代の軽自動車において100kgの軽量化を目指すという発表をしている。研究開発の成果として2030年以降を想定した軽自動車においては、実質的に100kgの軽量化を実現する目途が立ったという。
ただし、それは現在620kgのアルトが520kgになるという話ではない。
法規対応、衝突安全対応、そして燃費向上のために80kg以上重くなったうえで、そこから100kg以上をダイエットするという意味だ。そのために軽自動車に1470MPa級の高張力鋼板を用いることも考えているという。
ここで、48Vマイルドハイブリッドと次世代の軽自動車がつながってくる。イメージとして燃費向上技術で80kg増加の半分程度を占めるとすれば、次世代モデルがハイブリッドを想定していることは間違いない。それが、この48Vマイルドハイブリッドなのか、さらに次世代システムなのかまでは教えてもらえなかったが…。
さらに2030年以降というタイムラインの設定も絶妙だ。なぜなら、2030年度は日本で非常に厳しいCAFE規制が始める予定になっているからだ。そして、現時点で日本政府が発表している車重600kgのクルマに求められる燃費性能は29.2km/Lとなっている。
意外に知られていないかもしれないが、2030年度CAFE規制における燃費基準は車重ごとに定められている。その上で、各メーカーの販売台数を加重平均することで基準の達成・未達が判断されるという仕組みだ。
スズキは「軽くて絶対的に燃費に優れたクルマ」を生み出そうとしているが、実態としては軽くするほどに厳しい燃費基準をクリアする必要が出てくる。
逆にいえば、重いクルマを作るほど燃費基準の目標値は低くなる。技術的な現実味はあっても、これ自体は環境規制としては本質を外しているように思うのは筆者だけだろうか。
鈴木俊宏 社長に、軽量化が日本のCAFE規制では不利になることを質問すれば、「軽いことが悪いとなりかねない。なにが環境に悪いのか、本質を考えてほしい」といった旨の回答もあった。
スズキのエンジニアに聞いても「48Vマイルドハイブリッドだけでは2030年度の新燃費基準には届かないかもしれない」、「足りない分はe-SKYなどのBEVを多く販売することで規制値をクリアする必要があるだろう」といった声もあった。
しかし、筆者としては弱気に見える発言は本心ではないと感じたし、そう思いたい。
今回の技術戦略説明会では、スズキの軽・電気自動車である「e-SKY」の開発初期には一充電走行距離が230km想定だったが、「1アイテムで1km延ばす」を合言葉に、エンジニアが一丸となることで、310km(プロトタイプ参考値)まで延ばしたというエピソードがお披露目された。
2030年以降に登場するであろう車重600kgの新しい軽自動車も、きっと29.2km/Lという新燃費基準をクリアしたモデルとなるだろう。重くしたほうがCAFE規制の達成には有利だとしても、「小・少・軽・短・美」と「Right × Light Mobile Tech」を掲げるスズキにとって”軽いこと”は譲れない価値であり、重要な指標だと思うからだ。

最大熱効率40%超! 直噴ターボの凝りよう
軽自動車の48Vマイルドハイブリッドの話が長くなってしまったが、新世代の3気筒エンジンZ12E型をベースとした1.2L直噴ターボ(DITC)エンジンにも注目だ。

最高出力93kW、最大トルク230Nmを目標とする1.2L直噴ターボの特徴は、E100燃料やCBG(圧縮バイオガス)といったカーボンニュートラル燃料の使用を前提としている点。それぞれの燃料に合わせてインジェクターなどをアレンジする必要はあるが、その上で最大熱効率40%超、さらに50%の達成にチャレンジしている。
技術的な特徴としては、ディーゼルエンジン以外では採用が珍しいVGターボチャージャーや、インドをはじめとした暑いエリアを考慮した水冷インタークーラーの採用がある。EGR(排気再循環)の活用による冷却損失やポンピングロスの低減も、優れた熱交換を実現するために欠かせない技術といえる。
プラグインも想定する1.2Lシリーズハイブリッド

最後に紹介するのは、1.2Lエンジンに2モーター構成のeアクスルを組み合わせたシリーズハイブリッド。エンジンスペックは、最高出力60kW、最大トルク106Nm。そこに最高出力61kWの発電用モーターと最高出力65kWの駆動用モーターという構成になっている。
シリーズハイブリッドということはモーターだけで走行するパワートレインであり、ストロングハイブリッドとなる。しかも、このメカニズムを利用したレンジエクステンダーEVや、プラグインハイブリッドへの展開も考えているというから、グローバルには本命となりそうな電動化ユニットである。
ちなみに、スズキではレンジエクステンダーEVのことを「REEV(リーブ)」と呼んでいる。そして、この1.2Lシリーズハイブリッドを利用したREEVについては、バッテリーを必要最低限の搭載にとどめる「REEVライト」といえる車両を想定しているという。まさに「小・少・軽・短・美」と「Right × Light Mobile Tech」を旗印とするスズキらしい電動化戦略だ。

