こんなにも感動したバイクは、いつ以来だろう。【2代目XSR900試乗記】|1000kmガチ試乗1/3

近年の2輪の世界には、ネオクラシック系のカフェレーサーが数多く存在する。とはいえ、2代目XSR900ほどキャラクターがしっかり作り込まれたモデル、開発陣の主張を強く感じるモデルは、相当に貴重なのではないだろうか。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ヤマハXSR900……1,210,000円

レトロテイストでオーソドックスなスポーツネイキッドだった初代とは異なり、2代目XSR900はカフェレーサーに転身。左右分割式でツインスパータイプのアルミフレームは、ヤマハ独自のCFダイキャスト技術を用いて薄肉・軽量化を徹底。

基本設計を共有するMT-09とは完全な別物

こんなにも驚き、こんなにも感動したのは、いつ以来だろう……。現行=3代目MT-09と基本設計を共有する派生機種、2022年6月から国内販売が始まった2代目XSR900を今回の試乗で初めて体験した僕は、心からそう思った。世間や同業者の評価は定かではないけれど、このバイクは僕にとって、予想外にして衝撃的な存在だったのである。

と言うのも、試乗前の僕は2代目XSR900に対して、ルックスは思い切った路線変更をしていても、基本的には3代目MT-09のコスプレ仕様だろう、という印象を抱いていたのだ。そしてその背景には、MT-09が初代の資質を維持しながら、世代を重ねるごとにフレンドリーになったという事情がなくはない。もうちょっとわかりやすい説明をすると、まず2014/2016年に登場した各車の初代は、エンジンと車体の基本設計を共有しながら、MT-09:スーパーモタードテイストを取り入れたアグレッシブな特性、XSR900:ルックスはネオレトロでもキャラクターはオーソドックなスポーツネイキッドだった。でも3代目MT-09はXSR900に通じるフレンドリーさを身につけているので、もはや乗り味に大きな差異は無くなったんじゃないかと。

上段が初代MT-09と初代XSR900で、下段は2/3代目MT-09。

ところが2代目XSR900の乗り味は、3代目MT-09とは別物だったのである。ワイングロードがムチャクチャ楽しいXSR900を体験すると、現時点ではMT-09のほうがオーソドックスなスポーツネイキッドかも?……と感じるくらいに。つまり、かつてとは立ち位置が異なるものの、MT-09とXSR900には依然として明確な差異が存在したのだ。

これはもう、YZF-R9かと思いきや……?

LEDヘッドライトはオーソドックス……と言いたくなる丸型だが、配光の効率を高めることで、ボディをかなり薄くしている。ステーはカスタムパーツ的な雰囲気。

ヤマハ自身はスポーツヘリテージに分類しているし、2輪メディアではネオクラシック、カフェレーサーという表現が通例になっているけれど、XSR900を自宅でじっくり眺めた僕は、このモデルの外観は既存の枠に当てはまらないと思った。もちろん、パッと見の雰囲気は往年のカフェレーサー風だし、ガソリンタンク+シート周辺の造形や試乗車のカラーリングは1980年代のワークスレーサー/レプリカを思わせるのだが、いわゆる懐古趣味ではない。

その原因としては、MT-09と共通のTFTディスプレイや超ショートタイプのマフラー、軽量化に大いに貢献するスピンフォージドホイール、フロントフォークのトップキャップに施されたドリリング、シングルシートカウル風のシートとその下に潜り込むように配置されたテールランプ、収納時はフレームと一体化したように見えるタンデムステップ+ブラケットなどがあるようで、XSR900のデザインは懐かしさと新しさが絶妙の塩梅で同居しているのだ。

では実際に走らせての印象はどうかと言うと、当初の僕は“セパレートハンドルとフルカウルを装着したら、これはもうYZF-R9じゃないか”と感じた。兄弟車のMT-09と比較すれば、前後方向のピッチングが控えめで、車体姿勢のフラット感が強く、コーナー進入時のフロントまわりの接地感が濃厚な(前輪分布荷重の増加や前後ショックの設定を刷新した効果だろう)このバイクに、MT-09のようなスーパーモタードの面影は見当たらず、乗り味は生粋のオンロードスポーツ。もっとも、それだけでは言葉足らずという事実に僕が気づいたのは、車両を借用してから数日後、撮影を兼ねたツーリングの途中だった。

ロングスイングアームならではの安心感と信頼感

やっぱり、YZF-R9ではないな。いきなり前言を翻して恐縮だが、僕の意識が数日間で変化した理由は、低くて後ろ寄りの着座位置と(前後位置は不明だが、シート高はMT-09より15mm低い810mm)、長めのホイールベース(MT-09+65mmmの1495mm)である。もしYZF-R9を名乗るのであれば、着座位置はもっと高くて前寄り、ホイールベースはもっと短くするべきだろう。ちなみに僕がそう感じた背景には、同時期に他の媒体の仕事でYZF-R7(シート高は835mmで、ホイールベースは1395mm)を試乗したという事情があるのかもしれないが、だからと言ってXSR900に悪い印象は微塵も抱かなかった。

その理由はどんな場面でも安心してコーナーを攻められる、と言うか、攻めている感が味わえるから。もっともXSR900のコーナリングは、スパッとかグイグイという雰囲気ではないのだけれど、低くて後ろ寄りの着座位置と長めのホイールベースの効果で、このバイクは近年ほど尖ったキャラクターではなかった、1980年代のスポーツモデルに通じる安心感を味わせてくれる。中でも印象的だったのは、MT-09より55mmも長いトレーサー9GT用のスイングアームを転用した効果で、コーナー進入時には後ろから引っ張られるかのような安心感、コーナーの立ち上がりではどんなに豪快にアクセルを開けても車体姿勢が乱れないという信頼感が得られるので、一寸先は闇と言うべきワインディングロードを、余裕と自信を持って走れるのだ。

懐かしさと新しさが絶妙の塩梅で同居

ここまでを読んでいただければわかるように、XSR900はデザインだけではなく、乗り味という面でも懐かしさと新しさが絶妙の塩梅で同居したバイクで、いわゆる派生機種の次元に収まらない、抜本的にして緻密な仕様変更が行われている。近年の2輪の世界にはネオクラシック系カフェレーサーと呼ばれる車両が数多く存在するけれど、ここまでキャラクターがしっかり作り込まれたバイク、ここまで開発陣の主張を強く感じるバイクは、そうめったにあるものではない。だらこそ僕は衝撃を受けたのだ。

 もっとも、そういう車両がロングランを快適にこなせるのかと言うと、それはまた別の話だろう。近日中に掲載予定の第2回目では、撮影を兼ねたロングツーリングを含めて、約1000kmを走っての印象を紹介したい。

兄弟車のMT-09と同じく、純正指定タイヤはハイグリップスポーツ指向のブリヂストンS22。ちなみに僕個人の見解では、一昔前のヤマハにはタイヤの選択に疑問を感じる車両が存在したのだが、最近は“ベストマッチ”と言いたくなるケースが増えていると思う。

主要諸元

車名:XSR900
型式:8BL-RN80J/N718E
全長×全幅×全高:2155mm×790mm×1155mm
軸間距離:1495mm
最低地上高:140mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列3気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:888cc
内径×行程:78.0mm×62.0mm
圧縮比:11.5
最高出力:88kW(120PS)/10000rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.571
 2速:1.947
 3速:1.619
 4速:1.380
 5速:1.190
 6速:1.037
1・2次減速比:1,680・2.812
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:193kg
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.1km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:20.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…