約2週間に渡ってXSR900と生活を共に過ごした。|1000kmガチ試乗2/3

これぞヤマハ。約2週間に渡ってXSR900と生活を共にした僕は、しみじみそう思った。誤解を恐れずに言うなら、YZF-RシリーズやMTシリーズなどより、このモデルはヤマハらしさが濃厚なのである。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ヤマハXSR900……1,210,000円

キャスター/トレール:25°/108mmという数値は、開発ベースのMT-09とまったく同じ。ただしホイールベースは、MT-09より65mmも長い1495mm。

気になる点はあるけれど、だからどうした?

当記事の主眼は、試乗車に適したフィールドでの評価だけではなく、日常域における使い勝手やロングランでの快適性を検証することにある。そしてそういう視点で見るなら、2代目XSR900は万全とは言い難く、むしろ初代のほうが優等生だった。例えば、市街地ではバーエンドミラーの左右への張り出しが煩わしかったし、ツーリングでは積載性能の低さ、シートの硬さと薄さ、路面の凹凸をスムーズに吸収するよりも車体姿勢の維持を重視している(ように思える)前後ショックの設定が気になった。でもまあ今現在の僕は、だからどうした?と感じている。

その気持ちの背景には、基本設計の多くを共有する兄弟車として、利便性と快適性に優れるMT-09とトレーサー9GTをヤマハが準備しているという事情があるのだが、アバタもエクボと言うのか恋は盲目と言うのか、前述した気になる要素にも、僕は開発陣のこだわりを感じたのだ。例えば、バックミラーがオーソドックスな構成でテールに積載性を意識した装備が存在したら、現状の端正なルックスは得られなかっただろうし、このバイクならではの独創的なハンドリングを考えると、シートと前後ショックに異論を述べようという気にはならない。と言うより、XSR900を走らせている最中の僕は、第1回目で述べた要素に加えて、いろいろな面で感心しっぱなしだったのである。

全閉からスロットルを開ける瞬間が快感

並列3気筒エンジンは120ps/10000rpmを発揮。なお世間でライバルと呼ばれることが多い、カワサキZ900RSカフェは111ps/8500rpmで、ホンダ・ホーク11は102ps/7500rpm。

まずはエンジンの話から始めると、2014年型MT-09に端を発するヤマハの並列3気筒は、当初はアグレッシブすぎ……の感があったものの、世代を重ねるごとに扱いやすさを高めていき、2021年に登場した3代目MT-09はかなり柔軟な特性を実現していた。その点は2代目XSR900も同様なのだが、今回の試乗で僕はスロットルの開け始め、開度で言うなら1/32~1/16あたりの緻密な反応と、ロングスイングアームならではの開けやすさを実感。このエンジンは全閉からスロットルを開ける瞬間が快感で、さらに開ければもっと大きな快感が味わえるので、コーナーからの立ち上がり加速が楽しくて仕方がないのだ。

あら、その表現だと開けてナンボのバイクみたいだが、そういうわけではない。現代のヤマハ製並列3気筒は、低中回転域で重厚にして心地いい鼓動を感じさせてくれるから、かつては不得手だったまったり巡航も余裕でこなせる。おそらくそういった印象には、エンジンの調教が進んだことに加えて、近年のヤマハがこだわっている吸気音のチューニングや、排気口が乗り手の耳に近い超ショートタイプのマフラーも利いているのだろう。

ライダーを後ろから支えてくれる電子デバイス

一方の車体は、第1回目で述べた低くて後ろ寄りの着座位置と長めのホイールベースならではの安心感と信頼感に加えて、距離を走るうちに僕が興味を惹かれたのは、MT-09とは異なる前後ショックの設定だった。路面の凹凸を通過した際に、ゆったりしたリズムで吸収するMT-09に対して、XSR900の場合は瞬間的にシュタッと吸収という感触で、だから少々硬い印象を持つことはあるのだけれど、僕はその設定がXSR900のキャラクターにピッタリだと感じた。

ちなみに、フロント130mm/リヤ60mmのサスストロークはMT-09とXSR900に共通だが、スプリングレートは各車各様で、MT-09のフロント14Nm/リヤ95Nmに対して、XSR900はフロント15.5Nm/リヤ115Nmを選択している。また、ダンパーに関してはMT-09を基準にすると、コーナーで狙ったラインに一発で乗せることを重視したXSR900は、伸び側が低め、圧側が高めになっているそうだ。

ところで、近年のトレンドになっている多種多様な電子デバイスに対して、ライディングの主導権を車両に握られているような気がする……ことがあるので、僕は必ずしも好意的ではない。もちろん、超パワフルなスーパースポーツや超巨大なアドベンチャーツアラーの場合は、もはや電子デバイスなしでは成立しないと感じることが多々あるものの、XSR900くらいの車格とパワーなら、マストではないだろう。だから広報資料で多種多様な電子デバイスの導入を知ったときは、一抹の寂しさを感じたのだが……。

この件に関しても、XSR900の印象は非常に良好だったのである。ワインディングロードではIMU+トラクション/スライド/リフト/ブレーキコントロールが、ライダーの背中を常に両手で支えてくれているような安心感が得られるし、高速道路ではクルーズコントロールがありがたく感じる。また、アップとダウンの両方に対応するクイックシフターは、速く走るためだけでははく、疲労軽減にも貢献する機構だと改めて思った。いずれにしてもXSR900の電子デバイスは、ライダーを支えるサポート役という印象で、ライダーから主導権を奪う気配はなかったのだ。

ライバル勢より20万円ほど安い価格も大きな魅力

近年の2/4輪の世界ではメーカーならではの個性、〇〇らしさという言葉が使われる機会が増えている。そして約2週間に及んだ試乗を終えた僕は、XSR900にヤマハらしさを強く感じた。まずデザインがどこからどう見てもヤマハだし(往年のゴロワーズカラーを彷彿とさせる車体色のせいかと思ったが、もう1色のブラックもちゃんとヤマハである)、安定性よりも操縦性、コーナリングの快感に重きを置いた乗り味も明らかにヤマハ。誤解を恐れずに言うなら、YZF-RシリーズやMTシリーズよりこのモデルのほうが、ヤマハらしさを感じやすいんじゃないだろうか。

ちなみに世間では、同じネオクラシック系のカフェレーサーとして、ホンダ・ホーク11とカワサキZ900RSカフェを、このモデルのライバルと感じる人が多いようだが、それらと比べると車重が20kgほど軽いこと、そして価格が20万円ほど安いことも、XSR900の魅力である。

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、1035.1kmを走っての実測燃費を紹介します。

テールランプはシート下に潜り込むかのような位置に配置。撮影時に後方を走った富樫カメラマンによると、視認性はなかなか良好とのこと。

主要諸元

車名:XSR900
型式:8BL-RN80J/N718E
全長×全幅×全高:2155mm×790mm×1155mm
軸間距離:1495mm
最低地上高:140mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列3気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:888cc
内径×行程:78.0mm×62.0mm
圧縮比:11.5
最高出力:88kW(120PS)/10000rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.571
 2速:1.947
 3速:1.619
 4速:1.380
 5速:1.190
 6速:1.037
1・2次減速比:1,680・2.812
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:193kg
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.1km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:20.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…