1000kmガチ試乗1/3|ライバル勢とは方向性が異なる、マイペース系バイク。【スズキ・ジクサーSF250】

スペックに特筆すべき要素は見当たらないし、そもそもクラストップの動力性能は目指していない。とはいえ、油冷単気筒を搭載するジクサーSF250は、同じ排気量の2/4気筒車とは一線を画する、貴重な資質を備えているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキ・ジクサーSF250……481.800円

試乗車のカラーリングはトリンプブルーメタリックで、2022年型はこの他にマットブラックメタリックを設定。初代に存在したマットプラチナシルバーメタリックはすでに廃止。

価格と燃費はクラストップ

ヘッドライトとテールランプはLED。ただしウインカーは昔ながらの白熱球。スクリーンはかなりコンパクト。

 近年の250ccフルカウルスポーツ市場で、スズキはライバル勢とは方向性が異なる、独自の道を歩んでいる。その状況が把握できる材料として、カワサキが2008年に発売したニンジャ250Rに端を発する、日本製250ccフルカウルスポーツの最高出力・エンジンの気筒数・装備重量を以下に記そう(数値はいずれも初代のベーシック仕様)。

●2008 カワサキ・ニンジャ250R……31ps・2気筒・168kg
●2011 ホンダCBR250R………………27ps・単気筒・165kg
●2014 ヤマハYZF-R25………………36ps・2気筒・166kg
●2015 カワサキ・ニンジャ250SL…29ps・単気筒・149kg
●2017 スズキGSX250R………………24ps・2気筒・178kg
●2017 ホンダCBR250RR……………38ps・2気筒・165kg
●2020 カワサキ・ニンジャZX-25R…45ps・4気筒・183kg
●2020 スズキ・ジクサーSF250………26ps・単気筒・158kg

 誤解を恐れずに言うなら、近年のこの分野におけるスズキは、クラストップの動力性能を目指していないのである。最高出力と車重に加えて、その象徴となるのがエンジンの動弁系で、ホンダ/ヤマハ/カワサキの全車がDOHCを採用するのに対して、GSX250RとジクサーSF250はOHC。とはいえ、以下に記す2022年型の価格とWMTCモードの燃費を見れば、スズキの2台が敷居の低さや経済性という面で、秀逸な資質を備えていることが理解できるはずだ。

●ホンダCBR250RR……………82万1700円~・27.1km/ℓ
●ヤマハYZF-R25………………65万4500円・27.2km/ℓ
●スズキGSX250R………………58万1900円・33.2km/ℓ
●スズキ・ジクサーSF250………48万1800円・37.7km/ℓ
●カワサキ・ニンジャ250………65万4500円・26.2km/ℓ
●カワサキ・ニンジャZX-25R…84万7000円~・24km/ℓ

 ちなみに、2017年に日本での販売が終了した2台の単気筒車の数値は以下の通り(いずれも最終型のABS仕様)。

●ホンダCBR250R………………54万9720円~・32.1km/ℓ
●カワサキ・ニンジャ250SL……52万3800円・31.3km/ℓ

これじゃなきゃ‼という要素が見当たらない

 ジクサーSF250の素性を紹介するにあたって、まずは数字をベースとするライバル勢との比較から初めてみたが、2020年のデビュー直後にこのモデルを試乗した僕の印象は、不可はないけど可もない……だった。どんな用途にも使えそうだし、GSX系とは異なる流麗なスタイルには感心したものの、個人的には“これじゃなきゃ‼”と言いたくなる要素が見当たらない。もちろん、スズキ独自のエンジン冷却機構である“油冷”はジクサーSF250の特徴なのだが、フィーリングやルックスという面で、他機種が搭載している水冷エンジンとの差異が存在するわけではなかった。

OHC4バルブ単気筒エンジンは、オイルを積極的に冷却に用いる油冷システムを採用。最高出力は水冷並列2気筒のGSX250Rより2ps高い26ps。

 ところが、ある程度の日数をかけて距離を走ってみないと、やっぱりバイクの本質はわからないもので、今現在の僕の気持ちはガラリと好転。逆にどうしてかつての印象が良好ではなかったのかと言うと、クラストップの動力性能を目指していないから……だろうか。誠にお恥ずかしい話だが、絶対的な速さや旋回性といった動力性能に注目してしまいがちなのは、1980年代のレーサーレプリカ全盛期にバイクに目覚めたオッサンライダーの悪い習慣で、今回の試乗を通して、僕はニュートラルな姿勢でじっくり接することの重要性を、今さらながらにして痛感したのだった。

どんなときもマイペースでいられる

 前述した価格と燃費に加えて、乗り味という面でのジクサーSF250のわかりやすい特徴は、軽さと小ささだろう。体格が大柄な僕は(身長182cm、体重74kg)、軽二輪クラスのオンロードモデルで重さや大きさを感じることはめったにないけれど、現行250ccフルカウルスポーツの中で、最も車重が軽く、最も軸間距離が短く(1345mm。逆に最も長いのはGSX250Rの1430mm)、しかも車体がスリムなこのモデルは、並列2/4気筒を搭載するライバル勢より明らかに軽快。と言ってもそういう視点で見るなら、カワサキが2015~2017年に国内販売を行ったニンジャ250SL(軸間距離は1330mmで、ABS仕様の車重は151kg)のほうが、ライバル勢との差異は明確だったような……?

 かつての僕が引っかかっていたのは、ソコである。小型軽量化を重視した車体に、高回転高出力指向の単気筒エンジンを搭載するニンジャ250SLが、ライトウェイトスポーツシングルとしての魅力を強調していたのに対して、ジクサーSF250にそういった主張はない。だから僕は物足りなさを感じたのだが、今回の試乗でオーナー気分になってジクサーSF250と暮らしてみたら、むしろ主張が強烈ではないことこそが、このバイクの魅力ではないかと思えて来た。

 ただし、ジクサーSF250の乗り味は決して無味乾燥ではなく、ワインディングロードに出かければスポーツライディングが楽しめるし、巡航時のコロコロとしたエンジンの回り方には愛嬌を感じる。でもマシンからの主張、“もっと飛ばせ‼”や“もっと回せ‼”という要求がまったくないので、どんなときもマイペースでいられるのだ。もっともそういった感触は同じスズキの250ccフルカウルスポーツ、GSX250Rでも得られるのだが、車格の差を考えると、気軽さや自由度はジクサーSF250のほうが上だと思う。

 さて、冒頭でスペックを羅列したためか、ライバル勢との比較が多い文章になってしまったが、ジクサーSF250は他車との差異を考えなくても、十分に魅力的なモデルである。近日中に掲載予定の第2回目では、撮影を兼ねたツーリングを含めて、約1200kmを走ってのインプレをお届けしたい。

2つの排気口を備えるマフラーは、MotoGPレーサーGSX-RRを思わせるデザイン。生産国のインド仕様と日本仕様ではエンド部の表面処理が異なる。

主要諸元

車名:ジクサーSF250
型式:2BK-ED22B
全長×全幅×全高:2010mm×740mm×1035mm
軸間距離:1345mm
最低地上高:165mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:24°20′/96mm
エンジン形式:油冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:249cc
内径×行程:76.0mm×54.9mm
圧縮比:10.7
最高出力:19kW(26PS)/9000rpm
最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/7300rpm
始動方式:セルフ式
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.687
 3速:1.315
 4速:1.111
 5速:0.954
1・2次減速比:3.086・3.076
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:スイングアーム・モノショック
タイヤサイズ前:110/70R17
タイヤサイズ後:150/60R17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:158kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:45.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:37.3km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…