兄貴分のZ900RSよりも、弟分のほうが楽しいかもしれない⁉ カワサキZ650RS 1000kmガチ試乗1/3

世の中には、廉価版、入門用などと言う人がいるらしい。とはいえ、カワサキがRSシリーズの第2段として開発したZ650RSは、兄貴分のZ900RSに勝るとも劣らない魅力を備えているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキZ650RS……1,034,000円

端的に表現すると、Z650RSはZ650のネオクラシック仕様。外装やハンドル/シートなどを専用設計し、兄貴分のZ900RSに通じるデザインのホイールや補器類などを採用することで、往年の空冷Zシリーズに通じる雰囲気を獲得している。

鳴り物入りでデビューしたものの……

少し前にインターネットで2022年の二輪車販売台数ランキングの記事を見て、僕がオヤッ?と感じたのは、2022年4月のデビュー時に大注目を集めたZ650RSが、401cc以上の大型車クラスでトップ10に入っていないことだった。まあでも、材料不足による生産遅延が常態化した昨今の二輪事情を考えれば、販売台数が読みづらいニューモデルの出足が奮わないのは止むを得ない気がするし、今現在の日本にZ650RSの余剰在庫があるのかと言うと、まったくそんなことはなく、納車待ちの人が数多く存在する。

LEDヘッドライトは専用設計。Z900RSのφ170mm/6室構造に対して、Z650RSはφ130mm/2室構造。

ただしZ650RSの人気が、2018年以降の大型車の販売台数で5年連続トップに君臨している兄貴分、Z900RSに及ばないのは事実だろう。そしてZ650RSの話題を周囲の友人知人や同業者に振ってみたところ、“あのスタイルだったらエンジンは並列4気筒じゃないと”、“最近のミドルクラスは並列2気筒ばっかりで食傷気味”などという言葉が返ってきて、その意見は僕にとっては心外だったのである。

カワサキが長きに渡って熟成を続けて来た並列2気筒エンジンは、昨今のミドル以上では貴重な180度位相クランクを採用。

と言うのも、2021年秋にZ650RSが初公開されたとき、僕は素直に感心したのだ。そもそも開発ベースのZ650/ニンジャ650にかなりの好感を抱いていたし、今どきのアグレッシブなストリートファイター/スーパースポーツ系のデザインに抵抗を感じる人には、カワサキらしくてオーソドックスなルックスがグサッと刺さるんじゃないかと。

そして食傷気味という意見は、気持ちとしてはわからないでもないけれど、1985年にEN454/400を発売して以来、カワサキは長きに渡って水冷ミドルパラレルツインの熟成を続けて来たのである。だから近年になって登場した他社のミドルパラレルツインと、Z650RSが同列で語られるのは、個人的にはどうにも腑に落ちなかったのだ。

カワサキ水冷ミドルパラレツインの原点は、1985年に登場したクルーザーのEN454/400。この車両のエンジンは、後にGPZ500/400Sシリーズに転用。

兄貴分とは異なる、弟分ならではの魅力

そんなわけで、僕の中ではZ650RSを擁護したい……と言うより、持ち上げたい気持ちが満々なのである。そしてそれを実現する最も有効な手法は、兄貴分のZ900RSに対する優位性を示すことではないだろうか。と言っても、べつに兄貴分の評価を落としたいわけではないのだが、今回のガチ1000kmを通してZ650RSをじっくり乗り込んだ僕は、兄貴分とは一線を画する弟分ならではの魅力を、改めて大きな声でアピールしたい気分になっているのだ。

Z900RSを比較対象とした場合、最初に挙げたいZ650RSの魅力は103万40000円の価格である。近年のベーシックミドルでは高価な部類に入るものの、これは3年間の点検と3回のオイル&フィルター交換費用が無料となるカワサキケアと、ETC2.0キットを含んでの価格だし、並列4気筒の兄貴分よりは39万6000円も安い。となれば購入後にツーリングやカスタムを楽しむ余裕は、弟分のほうが持ちやすいだろう。

なお維持費という視点で見ると、当企画での実測燃費は意外に差がつかず、Z900RS:22km/ℓ、Z650RS:23.1km/ℓだった(ただしZ650RSと基本設計を共有するZ650とニンジャ650の数値をネットで調べると、25km/ℓ以上が珍しくない)。もっともオイル容量の少なさ(Z900RS:3.8ℓ、Z650RS:2.3ℓ)やリアタイヤの細さ(Z900RS:180/55ZR17、Z650RS:160/60ZR17)などを考えると、長い目で見ればZ650RSのほうがコストは抑えられるはずだ。

気になる点が少ないからストレスが溜まらない

実際に乗って感じるZ900RSとZ650RSの最大の違いは言わずもがな、車格と車重である。この件に関しては、気筒数と排気量を考えれば当然と言う人がいるけれど、27kgの車重の差と65mmのホイールベースの差は相当に大きく(Z900RS:215kg/1470mm、Z650RS:188kg/1405mm)、弟分のほうが明らかに気軽で軽快。もちろんその印象には、リアタイヤの細さやクランク幅の狭さによるジャイロ効果の少なさも貢献しているに違いない。いずれにしても、小柄な人や普段の足としてガンガン使いたい人、ツーリングで未知の道路に気後れせずに入って行きたい人にとっては、Z650RSの気軽さと軽快さは大きな武器になるだろう。

車格と車重に続いて感心したのは、気になる点が少ないこと。Z900RSのノーマルに乗っていると、リアショックの硬さやフロントブレーキのコントロール性の悪さ、全閉からスロットルを開けた際の反応の唐突さ、日本仕様のシートの薄さなど、僕の場合はいろいろな不満が出てくるのだけれど(ただし上級仕様のSEはかなり解消)、Z650RSにそういった気配は希薄。と言ってもすべてが完璧ではなく、カスタムの余地はあるのだが、Z900RSをロングランに使った際に、気になる点=ストレスと感じていた身としては、Z650RSのソツのなさは非常にありがたかった。

なお2台の最高出力は、Z900RS:111ps、Z650RS:68psだから、Z650RSに遅い?というイメージを持つ人がいるかもしれない。でもここまでに記した車格の小ささや車重の軽さ、リアタイヤの細さ、ソツのない特性のおかげで、現実の路上で弟分が兄貴分に遅れを取る場面はほとんどないと思う。それどころか、混雑した市街地やチマチマした峠道では、弟分のほうが速く走れるんじゃないだろうか。

空冷ZシリーズのDNA

さて、今回の原稿では兄貴分のZ900RSに対する優位性を記してみたけれど、並列4気筒好き、往年の空冷Zシリーズ好きの視点で考えると、やっぱり並列2気筒エンジンを搭載している時点で、Z650RSはいまひとつピンと来ないモデルなのかもしれない。かくいう僕も車両を借用した直後は、始動時や停止時に並列2気筒ならではの排気音が聞こえてくると、何となく不思議な気がしたのだが……。

 エンジンの4000rpmから上を使ったときのフィーリング、それまではバラついていた各気筒の爆発力が徐々にまとまって勢いよく回って行こうとする特性は、往年の空冷Zシリーズに通じるところがあるし、乗車中の視界に入るスリムなガソリンタンクや左右独立式のハンドルホルダーは、Z900RS以上に往年の空冷Zシリーズ的(Z900RSはゼファー的?)。もちろん、兄貴分と基本設計を共有するメーターも往年の空冷Zシリーズを思わせる要素である。だから気筒数が少なくても、試乗中の僕はいろいろな場面で、往年の空冷ZシリーズのDNAを感じていたのだった。

Z650RSの純正指定タイヤは、ダンロップにとって最新プレミアムスポーツラジアルという位置づけのロードスポーツ2。兄貴分のZ900RSも銘柄はダンロップだが、設計時期がやや古い、ツーリング指向のGPR-300を採用。

主要諸元

車名:Z650RS
型式:8BL-ER650M
全長×全幅×全高:2065mm×800mm×1115mm
軸間距離:1405mm
最低地上高:125mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:24°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:649cc
内径×行程:83.0mm×60.0mm
圧縮比:10.8
最高出力:50kW(68PS)/8000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6700rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.437
 2速:1.714
 3速:1.333
 4速:1.111
 5速:0.965
 6速:0.851
1・2次減速比:2.095・3.066
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:299kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.8km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:23.0km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…