1000km試乗した結論:「最高出力は下がったのに、 スズキSV650は相変わらずの鉄板物件だった」|1000kmガチ試乗1/3 

1998年に登場した初代SVに感銘を受けて以来、スズキのミドルVツインシリーズは、筆者にとって大のお気に入りである。ユーロ5規制に適合するため、最高出力と最大トルクがわずかに低下した2022年型に乗っても、その思いは変わらなかった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキSV650 ……803,000円

スズキらしからぬ?……という意見はあるけれど、2022年年型のニューカラーとなる白外装+赤フレームはなかなか新鮮。他2種のカラーは、パール黒外装+金フレーム、マット黒外装+青フレーム。

24年目を迎えたロングセラー

 1998年から発売が始まったスズキSVシリーズは、近年のミドルクラスでは異例の長寿車である。同時期にデビューしたミドルで、当初のコンセプトと基本設計を維持しながら現在でも生産が続いているモデルは、おそらく、カワサキW650/800くらいじゃないだろうか。もっとも、日本が主要市場のW650/800とは異なり、SVシリーズはヨーロッパ市場で幅広い層のライダーから支持を集めたことが、ロングセラーの最大の要因になっているようだ。

 SVシリーズの第一弾は、1998年秋から発売が始まった日本市場向けのSV400/Sで、1999年には全世界を対象としたSV650/Sが登場している。ただし以後のSVシリーズの変遷、と言うか販売形態は、ちょっとややこしい。まずSV650/Sは、2003年型でフレームをアルミ楕円パイプ→アルミ鋳造製に刷新した第2世代に進化。ただしこのモデルは海外市場専用車で、2003年以降の日本国内では既存の400/Sのみが継続販売された。

初代SV650。フレームの主材はアルミ楕円パイプ。
SV650のハーフカウル仕様となるSV650S。
アルミキャストフレームを採用した2003年型SV650
2009年以降のグラディスウはスチールフレームを採用。

 そしてフレームをスチール製に変更した2009年以降のグラディウスでは、2003~2008年に通じる姿勢で、海外:650cc、日本:400ccという住み分けが行われたものの(ただし逆輸入車として、650ccの購入は可能だった)、2016年以降の日本では、海外と同様にスチールフレームの新世代SV650のみが販売され、400ccは廃止。弟分にも捨て難い魅力があると感じていた僕にとって、スズキの判断は誠に残念なのだが、これまでの日本における販売実績を振り返ると、400ccが無くなったのは止むを得ないことだろう。

初代SVとグラディウスの思い出

SV650が搭載するエンジンは、昨今のミドルクラスでは貴重なVツイン。シリンダー挟み角は90度で、爆発間隔は270度位相クランクのパラレルツインと同じ。

 このシリーズの歴史を振り返って、僕にとって印象深い出来事は、編集部員として仕事をしていたバイカーズステーション誌の1999年7月号で、SVシリーズ4台並びの写真が表紙を飾ったことと(あまりにも出来がよかったため、編集長の佐藤さんが起用を決断)、フリーランスとして参加した別冊モーターサイクリストの2010年万能ミドル選手権で、グラディウス650が全12台中2位を獲得したこと(僅差の1位はトライアンフ・ストリートトリプルR)。言ってみればスズキのミドルVツインは、デビュー当初から高評価を獲得し、フレームがアルミ→スチール製に変更されてからも、優れた資質をしっかり維持していたのだ。

 では2016年から発売が始まった現行モデルはどうかと言うと、僕自身はミドルのイチオシと言いたくなるほど気に入っているし、業界内の評価も依然として良好である。もっとも2022年型はユーロ5に対応した結果として、最高出力が76.1ps/8500rpm→72ps/8500rpmに、最大トルクが64Nm/8100rpm→63Nm/6800rpmに低下したので、人によっては物足りなさを感じるかもしれないが……。

パラツインでは味わえないフィーリング

 今回の試乗で初めて2022年型を体験した僕は、正直って、断言できるレベルの従来型との差異は把握できなかった。あえて言うなら、高回転域の伸びと振動の収束が微妙に悪くなった気がするけれど、一方で最大トルクの発生回転数が下がっているので、常用域はむしろ従来型より速い?と感じるくらい。ちなみに、価格と排気量が近いライバルの最高出力は、ヤマハMT-07が73ps、カワサキZ650が68psだから、2輪業界における2022年型SV650のポジションは、従来型とほとんど変わっていないのである。

 その事実を確認した後、僕がこのバイクで感心したのは軽さと小ささだった。と言うのも、少し前に他媒体の仕事で、装備重量:184kg/軸間距離:1400mmのMT-07と、189kg/1410mmのZ650を体験した身としては、199kg/1450mmのSV650に対して、1クラス上の車格感を抱くのではないかと危惧していたのだが、久しぶりのスズキ製ミドルVツインにそんな気配は見当たらず、乗り味は相変わらずスイスイ&ヒラヒラ。これはやっぱり、Vツインならではの恩恵だろう。パラレルツインのライバル勢と比較すると、エンジン幅が狭く、安定性に寄与するクランクのジャイロ効果が控えめで、フロント荷重が少ないことが、このモデルの場合はいい塩梅でプラスに働いているのだ。

 また、距離が進むにつれて思い出したのはシャシーの包容力の高さ。近年のミドルネイキッドは、サーキットのような快走路でアグレッシブなライディングをしたり、見通しと舗装状況が悪い酷道を走ったりすると、車体の挙動にそこはかとない不安を感じることが珍しくないのだが(これはMT-07とZ650に限らずの話)、SV650はどんな場面でどんな走りをしても、破たんの気配が伝わって来ない。だから乗り手は車体を信頼して、いろいろなことにチャレンジしたくなる。そう考えると、エンジンの基本設計を共有するVストローム650とは違った意味で、SV650にはオールラウンダーとしての資質が備わっているのである。

 というわけで、ノリノリ気分で1000km試乗に臨んだが僕だが、バイクの本当の姿はやっぱり距離を走ってみないとわからないものである。あら、その表現だとSV650のイメージが悪くなったみたいだが、そういうわけではまったくない。このバイクでのロングツーリングは非常に楽しかったのだけれど、シートとリアサスに関しては、自分好みに改良したい……という意識が芽生えて来たのだ。その詳細は、近日中に公開予定の第2回目でお伝えしたい。

近年のミドルクラスではリアに180/55ZR17を履くモデルが増えているけれど、SV650は1998年に登場した初代と同じ160/60ZR17を維持。なお試乗車が履くロードスマートⅢは、ダンロップにとっては一世代前のスポーツツーリングタイヤである。
 

主要諸元

車名:SV650
型式:8BL-VP55E
全長×全幅×全高:2140mm×760mm×1090mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:135mm
シート高:785mm
キャスター/トレール:25°/106mm
エンジン形式:水冷4ストロークV型2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:645cc
内径×行程:81.0mm×62.6mm
圧縮比:11.2
最高出力:53kW(72PS)/8500rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ
 1速:2.461
 2速:1.777
 3速:1.380
 4速:1.125
 5速:0.961
 6速:0.851
1・2次減速比:2.088・3.066
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前後:120/70ZR17 160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:199kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.8km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:24.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…