クランク横置き90度Vツインの究極形、それはスズキSV650かもしれない。| 1000kmガチ試乗2/3 

昨今のミドルクラスの主力エンジンは、クランク位相角が270度のパラレルツインである。そんな中で貴重な90度Vツインを搭載するSV650は、このエンジン形式だからこそと言いたくなる、ダイレクトで軽快なフィーリングを実現しているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキSV650 ABS……80万3000円

骨格の素材変更や吸排気系の刷新を含めて、歴史を振り返れば仕様変更は何度も行われているものの、トラスフレーム+90度Vツインという構成は、1998/1999年に登場した初代から不変。

シートとリアサスは何とかしたい

 やっぱり、いいバイクだなあ……。SV650と約1100kmを共にした僕は、しみじみそう思った。市街地での機動力は抜群だし、高速道路ではまろやかな鼓動&振動と共に心地いい巡航が楽しめるし、峠道ではいろいろな場面でスポーツライディングが堪能できる。と言っても近年のミドルクラスには、同様の印象が抱けるモデルが他にも存在するのだけれど、少なくとも僕の視点では、SV650にはライバル勢とは一線を画する個性が備わっている。その個性を作り出している主な原因は言わずもがな、ミドルクラスでは貴重なクランク横置きの90度Vツインエンジンだ。

 エンジンの詳細を説明する前に、第1回目の最後にチラッと述べた、ロングツーリングで感じたシートとリアサスに関する不満を記しておこう。まずはシートの話をすると、5~6時間、250kmくらいまでなら、べつに印象は悪くないのである。でも着座面のウレタンが薄いため、走行時間と走行距離が伸びると徐々に尻が痛くなり、丸一日、約500kmの行程を終えた後は、かなり厳しい状態になっていた。

 もちろん、ウレタンの薄さは足つき性に貢献するので、現状の構成は必ずしも悪くはないのだが、例えば初期のSVシリーズやグラディウスのように、アクセサリーパーツとしてハイシートを設定できないものだろうか。いずれにしても足つき性に特化した純正シートは、快適性だけではなく、運動性を多少なりとも阻害する要素になっている……はずなので、僕としてはもったいない気がしている。

 一方のリアサスは、こちらもある程度までは従順で快適なのだが、走行距離と走行時間が伸びると、路面の凹凸を通過した際の衝撃が徐々にツラくなってくる。ただしリアサスの印象は、シートとライポジ次第で大きく変わるので、メイン座面のウレタンが厚くなれば、衝撃の吸収力がアップするだけではなく、下半身が衝撃を受け流しやすい態勢になって、問題はイッキに解決するのかもしれない。

横置き90度Vツインならではの特性

 さて、ここからはVツインエンジンの話。最初に近年のミドルクラスのエンジン事情を記しておくと、圧倒的な多数派は270度位相クランクのパラレルツインで、ヤマハMT-07シリーズ、ホンダNC750X、トライアンフ・ストリート/ボンネビル系、BMW・Fシリーズ、アプリリアRS/トゥオーノ660、ロイヤルエンフィールドINT/コンチネンタルGTなど、採用機種は相当に多種多様である。ちなみに、他のミドルパラレルツインのクランク位相角は、カワサキZ650/RSが180度、W800は360度、KTM 890シリーズは75度で、昔ながらと言うべき数字のカワサキはさておき、多数派の270度とKTMの75度は、トラクションや鼓動感、慣性トルクの低減などを重視した結果だ。

 そして270度位相クランクのパラレルツインは、90度Vツインと同様のフィーリングが獲得できる(KTMの75度位相は、同社製75度Vツインの再現を意識して決定)、と世間では言われていて、事実、爆発間隔はまったく同じなのだが……。SV650を走らせていると、そうとは思えないのである。振動を緩和するバランサー(現代のパラレルツインのマストアイテム)という抵抗物が存在せず、クランクのネジレが非常に少ないSV650の90度Vツインは、スロットル操作に対するエンジンの反応が、やっぱりパラレルツインよりダイレクトなのだ。いや、ダイレクトと言うより、瑞々しいとかナチュラルとでも言うべきだろうか。

 もちろんスロットルレスポンスは、エンジン形式だけで決まるものではなく、吸排気系やインジェクションマップなど、いろいろな要素が関係する。とはいえ90度Vツインの特性は、270度位相クランクのパラレルツインとは明らかに別物で、僕はそこにSV650の価値を感じたのだ。

 エンジンそのもののフィーリングに加えて、フロントまわりの動きが軽やかで、コーナリング前半での舵角の付き方がわかりやすいことも、左右幅が狭く、クランクのジャイロ効果が少ない、横置きVツインならではの美点である。この件もスロットルレスポンスと同様に、エンジン形式だけではなく、車体寸法や重量配分などが影響するのだけれど、直進状態から向きを変えようとした際のSV650の動きは、他のパラレルツイン勢より格段に軽快。しかも軽快でありつつ、乗り手がドキッとするような動きは一切なくて、その味つけにはスズキの見識が表れていると思う。

多数派ではなく、独自の道を歩むスズキ

 さて、ここまでの文章を振り返ると、何だかVツイン礼賛的な展開になってしまったが、僕は決してパラレルツイン否定派ではなく、前述したパラレルツイン勢の中にも好感を抱いているモデルは何台も存在する。と言うより、安定成分に貢献する前輪分布荷重の確保、エンジン搭載位置や吸排気系の自由度、ホイールベースの短縮という面では、Vツインよりパラレルツインのほうが有利なのだから、そもそもこの2種のエンジンに優劣は付けられないのだ。

 ではどうして、僕がSV650に特別な感情を持っているのかと言うと、多数派ではなく、独自の道を歩んでいるから……という事情があるとは思う。それに加えて、パラレルツインより製造コストが高くつくのを承知で、Vツインの熟成を続けるスズキを応援したいという気持ちもなくはない(シリンダーヘッド/シリンダー/カムシャフト/カムチェーンなどが、左右気筒で共有のパラレルツインとは異なり、Vツインは前後用の2セットが必要になる)。

 ただし、それ以上にSV650シリーズで大事な要素は、クランク横置き90度Vツインならではの魅力を、実に巧みに引き出していること。などと書くと、スズキが過去に販売していたTL1000S/RやSV1000、SV650とエンジンの基本を共有するVストローム650、あるいは、歴代ドゥカティLツインやホンダVTシリーズなどのユーザーが、“そういう話なら、俺のバイクだって”と腕まくりをしているかもしれないが、今回の試乗で約1100kmを走った僕は、誰もが気軽にクランク横置き90度Vツインの美点を堪能できるという点において、SV650シリーズは究極の域に達しているんじゃないか……と感じたのである。

1999年にデビューした初代SV650の装備重量が186kgだったのに対して、現行SV650は199kg。13kgも重くなったわけだが、2009~2016年に生産されたグラディウス650の202~205kgと比べれば、数kgほど軽くなっている。

主要諸元 

車名:SV650
型式:8BL-VP55E
全長×全幅×全高:2140mm×760mm×1090mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:135mm
シート高:785mm
キャスター/トレール:25°/106mm
エンジン形式:水冷4ストロークV型2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:645cc
内径×行程:81.0mm×62.6mm
圧縮比:11.2
最高出力:53kW(72PS)/8500rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ
 1速:2.461
 2速:1.777
 3速:1.380
 4速:1.125
 5速:0.961
 6速:0.851
1・2次減速比:2.088・3.066
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前後:120/70ZR17 160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:199kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.8km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:24.4km/L(1名乗車時)

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…