ホンダ・ホーク11試乗|中身はアフリカツイン、見た目はネオレトロスポーツ。これは新鮮なアイデアだ。

2022年6月8日、山梨県は山中湖でホンダ・ニューモデルの報道試乗会が開催された。9月29日の発売に先駆けて登場したのは、ロケットカウル装備でネオクラシカルな雰囲気を醸すHAWK 11。1082ccの水冷OHCツインエンジンを搭載。全体的に大人のテイストを漂わす仕上がりが印象深い。果たしてその乗り味は如何に?

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

HAWK 11のデザインを象徴するFRP製ロケットカウルはフレームマウント式。

ホンダ・HAWK 11…….1,397,000円

パールホークスアイブルー

グラファイトブラック

発表会場のPICA山中湖に集結頂いた、本田技研工業のHAWK 11開発メンバー。左から順に倉澤、三木、松下、大和、吉田(開発責任者:「後藤悌四郎」氏の代行)、古賀、斉藤、木村、櫻田、八重樫。(敬称略)

 二つ折り6ページものの製品カタログの表紙をめくると「楽しさは、数字じゃない。」というキャッチコピーが目に入る。
 発表会での説明を抜粋追記すると、ホンダが創りたかったのはスペックを追求するような「凄いバイク」ではなく、例えば半日の自由(余暇)を見つけ、出かけて楽しむに相応しいスポーツモデル。バイクを熟知したベテランライダーに向けた提案だそう。
 もう少し大胆に意訳してしまうと、データ勝負の世界は二の次にして、あくまでも乗って心地よく走れる“感覚性能”を大切に考えられた大人のためのスポーツバイクと言うわけである。
 元々の提案は「アフリカツインのエンジンでワインディングを楽しみたい」。
 技術者の頭に浮かんだそんな考えは、一般ユーザーがイメージする些細な願望にも合致するだろう。既存のフレームやエンジン、足回り等を活用して現行のラインナップに無い新たなモデルを開発する。
 シンプルな考えと手法を採択しつつ市場規模を睨み、国内専用年間1,200台の販売計画に合わせた製造方法も検討。結果的にHAWK 11のスタイリングを象徴するロケットカウルは丁寧に仕上げられるFRP成形品とされているのも特徴的である。

クリップオンのセパレートハンドルを採用も、低すぎない位置に設定されている。
フレームはヘッド部を下げてレイアウト。当然キャスター/トレールも異なっている。

 スチール製ダブルクレードルフレームと水冷直(並)列2気筒のOHCエンジンは基本的にCRF1100LアフリカツインやNT1100と共通。新しくデザインされたタンクやロケットカウルと共に、エアクリーナーやラジエターも専用新設計されている。
 主なコンポーネントが共用されたとは言えピュアなロードスポーツモデルとして料理し直され、まずフレームはCRF1100L対比で2.5度(右側から見て時計回りに)傾けられ前後荷重配分が前51%、後49%に設定。
 またライディングポジションは、当然アップライトなCRF1100Lよりスポーツバイクらしい前傾姿勢とされたが、2008年登場のCBR1000RRと比較するとハンドル位置はそれより103mmも高く設定されている。
 搭載エンジンは270度クランクを持つショートストロークタイプの2気筒で、右サイドカムチェーン方式を採用。シリンダーヘッドにはユニカム構造のOHC8バルブが納められている。
 ユニカムとは吸気側バルブの真上に1本のカムシャフトを持ち、直打式で4個の吸気バルブを駆動。一方排気バルブはローラーロッカーを介して駆動するホンダ独自の方式。
 エアクリーナーは専用新設計されているがスペック的には共通。マッチされたトランスミッションは6MTのみ。
 ちなみに同エンジンを搭載するモデルはレブル1100を含めて現在4機種に及んでいるがトランスミッションがMT仕様のみとなっているのは今回のHAWK 11が唯一の存在である。

前後方向に尻上がりの直線的なラインを基調とし、緩やかな曲面のロケットカウル等で構成されるスタイリングが描かれたイメージスケッチ。
 アフリカツインと基本的に同じスチール製のセミダブルクレードルフレームを活用。ステアリングヘッド部位置を下げ、キャスターが立てられた専用デザインを採用。ボルトオンされたリアフレームはアルミニウム製。
このエンジンの搭載は4機種目。6速MTのみの組み合わせは、今回のHAWK 11が唯一。

ストリートスポーツとして、操縦性と乗り味が気持ちよい。

 早速試乗車に股がると、両足の踵はほんの少し浮いてしまうが、手強さを覚えない乗り味にホッと一安心。オーバー1Lのスポーツバイクとしては、どこか気持ちのやすらぐ親しみやすい感触が好印象である。
 車両重量は214kg。決して軽いとは言えないが、重過ぎることはまるでない。片足でバイクを支えると踵までベッタリと地面を捉えられる事もあって、扱いには安心感を覚えた。
 そして注目すべきロケットカウルの美しさにしばし目を奪われる。ツートーンのカラーリング、丸形LEDヘッドランプとのマッチングや、映り込む周囲の景色も含めてその仕上がりはとても美しい。さらにクリアスクリーンの内側に目をやると、何とも懐かしい雰囲気に包まれる。
 一瞬1970年代後半にタイムスリップしたかのような気分。少し昔話をさせて頂くと、当時のバイクはネイキッドのみ。後付けの風防は別として、カウル付きの国産車なんて皆無だった時代のこと。よりスポーティなモデルへ憧れるユーザーの間では、英国発祥と言われる“カフェレーサー”が静かなブームを呼んでいた。レーシングマシンを模したスタイルへの改造を楽しんでしまう。
 バックステップにセパレートハンドル、そしてロケットカウルの装備。まさにこのHAWK 11 の様なスタイルに憧れを抱く人は少なくなかったのである。
 メーター周辺の雰囲気もまるでレーサーの様。回転計ひとつを備えたかのようなシンプルなメーターデザイン。黒いスチールパイプの細いステーでカウルをフレームマウントしたスッキリと飾り気の無い構造等が、当時を知る人には懐かしく感じられる。
 剛性の高そうなステアリングトップブリッジの下側でクリップオンされたセパレートハンドルは、少し上方にオフセットされ、トップブリッジに直付けされたような位置でハの字状に取り付けられ、グリップを握るといかにもスポーツライクな乗車姿勢を直感する。
 後退したステップに足を乗せてニーグリップを利かせると車体はスマート。前傾姿勢はストリートスポーツバイクとして絶妙の程良さがある。
 ツーリングや市街地走行でも、前傾姿勢が辛いとは思わないレベルにあり、それでいてシートには安楽にどっかりと腰掛けてしまおうとも思わない。下半身と腹筋&背筋を適度に活性化させていつでも自分(ライダー)が主体となって、バイクをコントロールし、それを楽しもうという気構えと、良い意味での緊張感を呼び覚ましてくれるからだ。
 
 クラッチを握り、ギヤをローに入れて発進すると。タタタタッと歯切れの良い排気音と共に侮れない加速力を発揮する。やや前傾ぎみに身構えた自分の体重がグッとシートにのし掛かり、後輪を地面に押しつける感覚が背中に感じられる。
 地面を蹴りだす逞しい感触は心地よく、かつ2,000~3,000rpmでも十分にモリモリとゆとりのあるビッグトルクが優しさを伴って発揮されるので、コーナリングでのスロットルワークも扱いやすい。
 走行モードはSPORT、STANDARD、RAINの3パターン及び好みに応じた設定を可能とするUSERの4種から選択可能。筆者がオーナーになったら、恐らく色々と試しながらエンジンパワーとセレクタブルトルクコントロール、そしてエンジンブレーキの効き具合の組み合わせを好みにプリセットした上で、USERモードで乗ると思う。
 いずれにせよ、ウィリーコントロールも含めて制御される電子デバイスの搭載は、安心感の高い走りに貢献している。

 NT1100よりもキャスターが立てられたフロントフォークはロードモデルとしては十分に長い150mmと言うストロークを持ち、不意に遭遇する大きなギャップに対しても、余裕のある衝撃吸収性を発揮する。
 大きな衝撃を食らっても、ボトム付近での緩衝具合が優れており、バネ上に伝わるショックが想像よりソフトで乗り心地も快適。
 空いた峠道でペースが上がっても、減速から旋回、コーナー立ち上がりまで一連の動作にはメリハリと落ち着きがあり、扱いやすくかつその走りっぷりは気持ちの良いものであった。
 確保された41.5度のバンク角も十分。どの回転域からでもグイグイと力強いトラクションを加えながら各コーナーを脱出できるポテンシャルの高さと共に、スーッと軽~く流すような走りでも、直進安定性に優れ常に気分良く快適に走れたのが印象深い。
 前後ブレーキの制動力はもちろん強力。微妙なタッチにも素直に応えてくれる。つまり扱いやすさに対するポテンシャルが高いレベルにあり、市街地走行からツーリングまで、ごく気軽ににクルージングする様なシーンから、峠をハイペースで駆け抜ける様なシーンまで、いかにもスポーツバイクらしく、自由自在な操縦が楽しめる爽快な気分が味わえた。そんな乗り味が魅力的である。
 なお、いつもの様にローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは48km/h。6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,400rpm。DCTのNT1100よりは少し低めのギヤリング。エンジンは同じだが、よりダイナミックな走りが楽しめたのも印象的であった。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

シート高は820mm。ご覧の通り両足の踵は少し浮いてしまうが、バイクを支える上での不安感は感じられなかった。片足付きの場合では、踵までベッタリと地面を捉えることができる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…