急制動距離だけでは見えない“止まり方”の違い

ブレーキ性能というと急制動距離の短さに目が行きがちだ。しかし実際の街乗りでは、フルブレーキを掛ける場面よりも、交差点や信号、渋滞などで速度を調整する機会の方が圧倒的に多い。だからこそ重要なのは、どれだけ短く止まれるかだけでなく、「どんなフィーリングで減速するか」だ。

今回比較した5台はいずれも十分な制動力を備えていたが、その味付けは大きく異なっていた。レバーを握った瞬間からしっかり減速するモデルもあれば、穏やかに効き始めて安心感を重視したモデルもある。さらに車体重量やホイールサイズ、タイヤの特性によってもブレーキング時の印象は変わってくる。いざという時に慌てないためにも、自分の愛車がどんなブレーキ特性を持っているのかを知っておくことは大切。今回は急制動距離だけでは見えない、それぞれの“止まり方の個性”にも注目してみた。

ブレーキ性能は「どれが一番止まるか」だけでは語れない。毎日使う実用スクーターだからこそ、自分の感覚に合った“止まり方”を選びたい。

TESTER ケニー佐川

モトチャンプのメインテスターにして理知的なインプレッションを得意とする二輪ジャーナリスト。

■ホンダ・リード オーソドックスだからこそ際立つ高い完成度

BRAKE TYPE

FRONT:ディスク
REAR:ドラム

参考急制動距離:5.45m

車重116kgの落ち着いた車体を活かし、ブレーキング時にはしっかりと制動力が立ち上がる。レバーを握った量に応じて自然に減速していくフィーリングは非常に分かりやすく、速度域を問わず安心してブレーキを掛けられるのが魅力だ。

特に印象的なのはフロントタイヤへの荷重移動の分かりやすさ。ブレーキング時に接地感が途切れにくく、ライダーが「今どれくらい止まろうとしているのか」を把握しやすい。ケニー佐川さんが「ひと言で言えば安心感が高い」と評したのも納得である。

さらに興味深いのは、着座位置がやや高めでタイヤ幅も決して太くないにもかかわらず、それらをネガに感じさせないこと。車体全体のバランスが優秀で、ブレーキング時も挙動が乱れにくい。参考急制動距離5.45mという数値以上に、常に余裕を感じながらレバーを握り込めることこそがリード125の真価と言えるだろう。

■ヤマハ・ジョグ125 マイルドな効き味と軽量ボディが武器

BRAKE TYPE

FRONT:ドラム
REAR:ドラム

参考急制動距離:5.15m

5台の中で唯一、前後ドラムブレーキを採用するジョグ125。そのため最新のディスクブレーキ車と比較すると効き味は穏やかだが、それが扱いやすさにつながっている。

レバー操作に対して急激な制動力の立ち上がりがなく、初心者でも安心して扱えるフィーリング。さらに95kgという軽量な車体が効いており、制動距離も十分優秀なレベルに収まっている。

注意したいのは前後10インチホイール特有の反応の良さ。ブレーキング時の姿勢変化は他車よりやや敏感だが、その特性を理解していれば速度コントロールはしやすい。派手さはないが、毎日の通勤や買い物で付き合う相棒としては実に扱いやすいブレーキと言える。

■ヤマハ・アクシスZ 前後連動ブレーキを活かしてこそ真価を発揮

BRAKE TYPE

FRONT:ディスク
REAR:ドラム

参考急制動距離:4.70m

ジョグ125よりも重い車体と長めのホイールベースを持つアクシスZ。そのぶんブレーキング時の安定感は高く、特に強めの制動時に安心感の違いが現れる。

ジョグ125ではドラム式だったフロントブレーキもディスク化されており、レバーを握った際のタッチはよりカッチリとした印象。ただし制動力が高まったぶん、前輪のロックには少し注意したい。

そこで活躍するのが前後連動ブレーキだ。左レバーを積極的に使うことで車体姿勢が安定し、減速もスムーズになる。穏やかな特性を持ちながら、しっかり止まれる。実用スクーターらしい扱いやすさと安心感を両立した一台だ。

■スズキ・バーグマンストリート125EX “まろやかな効き”が生む上質な安心感

BRAKE TYPE

FRONT:ディスク
REAR:ドラム

参考急制動距離:5.25m

バーグマンストリート125EXのブレーキフィールを表現するなら「まろやか」という言葉がもっともしっくりくる。ガツンと効くタイプではなく、レバー操作に応じて自然に減速していく上質な味付けが特徴だ。

参考急制動距離は5.25mと突出した数値ではないものの、実際に乗ると不満はまったくない。どの速度域でも唐突な挙動がなく、ライダーがリラックスしたまま減速できる。

このフィーリングはブレーキ単体の性能だけでなく、サスペンションや車体剛性、重量配分を含めた総合力によるものだろう。さらにジョグ125より長いホイールベースや安定した車体姿勢も効いており、ハードブレーキング時でも落ち着きがある。快適性を重視するバーグマンらしさが、ブレーキにも色濃く表れている。

■ホンダ・ディオ110 小柄な車体からは想像できない安心感

BRAKE TYPE

FRONT:ディスク
REAR:ドラム

参考急制動距離:4.45m

今回もっとも短い参考急制動距離4.45mを記録したのがディオ110。しかし、このモデルの魅力は単なる数値の優秀さではない。

前後14インチホイールが生み出す安定感に加え、ブレーキング時の荷重移動が非常に分かりやすいのだ。フロントタイヤへしっかり荷重が乗る感覚が伝わってくるため、どこまでレバーを握り込めるか判断しやすい。細めのタイヤを採用していることもあり、路面からの情報量が豊富なのも特徴だ。

車体サイズはコンパクトながら、ブレーキの効き方は驚くほど落ち着いている。街中のストップ&ゴーはもちろん、速度が乗った場面でも不安感は少ない。ハンドリング同様、ディオ110の完成度の高さを改めて実感させてくれるポイントだ。

※この記事は月刊モトチャンプ2024年9月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】