昭和のライダーは懐かしさに涙!? 「ケッチン」や「エンコ」など、今はなきバイクの機能系ワード5選

1970年代や1980年代の昭和バイクブーム時代には、多くのライダーが当たり前のように使っていたのに、今ではすっかり廃れてしまったバイクの機能や用語はけっこうあるもの。ここでは、それらの中で、とくに昭和のライダーには超懐かしいけれど、平成生まれなど若いライダーにはチンプンカンプであろう5つのワードを厳選し紹介する。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●平塚直樹、写真AC、ヤマハ発動機
*写真はすべてイメージです

ケッチン

ひと昔前のバイクでは、エンジンスタート方式にセルスターターだけでなく、キックを使っているモデルも数多くあった。例えば、ヤマハ・SR400など空冷単気筒エンジン搭載車などでは、キックアームを踏み降ろしてエンジンを始動させるが、「ケッチン」はその際に、キックアームが跳ねあがってしまう現象のことだ。

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SR400などで、キックアームを踏み降ろしてエンジンを始動させる際、キックアームが跳ねあがってしまう現象がケッチン

キック式スタートのバイクは、キックアームを踏み降ろすことでエンジンを回転させて始動させる仕組み。ケッチンは、そのときに、点火タイミングの狂いや進角装置の不良、キックアームの踏み降ろし方が中途半端だった場合などにエンジンが逆回転することで起こるといわれている。

とくに、昔のハーレーダビッドソンなどの大排気量車の場合は、ケッチンになるとかなりキックアームの反動が凄まじく、足を骨折してしまうなどのケガにつながることもあった。

また、小排気量バイクの場合は、キックアームの反動はさほど大きくないため、あまり大ケガには繋がりにくかったが、それでも、例えば初心者などでは「何度キックしてもエンジンがかからない」といったことも多かった。小排気量バイクでも、キックアームを踏み降ろすタイミングなどに、ある程度のコツが必要な場合もあったからだ。

そのため、ケッチンにならずバイクのエンジンを始動できることは、それなりにスキルを持つ上級ライダーの証でもあったといえる。

キック式スタートのバイク特有の問題だが、ケッチンにならずバイクのエンジンを始動できることは、それなりにスキルを持つ上級ライダーの証でもあった

デコンプ

主にキック式スタートのバイクで、エンジンをスムーズに始動しやすくする機構が「デコンプ」だ。「圧抜き」を意味するデコンプレッションの略で、その名の通り圧力を抜く動作を指す。エンジン始動時に、シリンダー内で圧縮される空気をシリンダー外へ逃がすことで、始動時の負担を軽減するのが主な役割だ。

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スズキ・グラストラッカー ビッグボーイには、エンジン上部左側にデコンプレバーを装備。SR400など、ハンドルにデコンプレバーを装備したモデルも多かった

とくに、4ストロークバイクの場合、始動時にはエンジンが回転時に行なっている以下のような4つの作業を一通り行なう。

1,混合気(爆発のもとになる空気)を吸い込む
2,混合気を圧縮する
3,点火する
4,排気ガスを外に出す

この4行程を滞りなく1回でも行なえれば、あとは爆発力の惰性でエンジンは回り続ける。セルモーターでスタートする方式では、これら行程を電気の力で行なう。一方、キック式スタートのバイクでは、人がキックアームを踏んでこれらを実施するのだが、特に2の混合気を圧縮する作業が困難を極める場合も多い。とくに、圧縮比が高いエンジンでは、相当の力が必要なこともあるのだ。そこで、空気の逃げ道を作って圧縮をラクにしてやろうというのがデコンプ。ちなみに、デコンプには、アームを引く手動式のタイプもあれば、キックアームの動きと連動するオートデコンプもある。

いずれにしろ、この機構が登場したおかげで、キック式スタートのバイクは、エンジンを掛けやすくなったことは事実。当時は、かなり恩恵を受けたライダーも多かったはずだ。

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グラストラッカー ビッグボーイのデコンプレバー。使い方は、デコンプレバーを一度上へ上げた後、キックアームを軽く踏むとデコンプレバーが下がり、再びキックアームを踏み込むといった流れで使う

燃料コック

今のインジェクション搭載バイクにはほぼなく、昔のキャブレター搭載車には当たり前のように付いていた機構には、「燃料コック」も挙げられる。これは、燃料タンクからキャブレターに送り込まれるガソリンの「開閉門」といえるものだ。

主に、ON(流入)、OFF(流入止め)、RES(リザーブ・燃料が残り少ないときの切り替え)といった3つがあり、手動でレバーを回して切り替える。

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燃料コックがONの状態

例えば、停車時、とくに長期間走らない場合などには、キャブレターにガソリンが流入し過ぎないようにOFFにする。そして、走る際には、当然ながらエンジンを掛ける前にON。ツーリングなどで、燃料タンクの残量が少なくなった場合はRESに切り替えて、ガソリンスタンドへ急ぐといった感じの使い分けをする。

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燃料コックがOFFの状態

燃料コックは、日頃から気をつけて使っていれば、とくにトラブルはないが、例えば、レバーをOFFにしたままでしばらく走ると、燃料タンクからガソリンが供給されないためエンジンが止まってしまう。

また、RESにしたままツーリングなどで長距離走行してしまうと、燃料タンクが空になるまで走ってしまい、出先でガス欠になってしまうといったトラブルも起こる。

今のバイクにはない機構ではあるが、例えば、キャブレター搭載の絶版車などに乗る場合は、ほぼ間違いなく燃料コックが付いている。そうした場合は、使い方を間違いないように注意しないと、思わぬ失敗をするので気をつけたい。

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燃料コックがRESの状態

チョーク

「チョーク」も、今のインジェクション搭載バイクにはなく、昔のキャブレター搭載車には当たり前に搭載されていた機構だ。主に、冬など寒い時期に、エンジンが冷え切った状態のときに使うもので、チョークレバーを引くことで、エンジンを始動しやすくする役割を持つ。

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昔のキャブレター搭載車には当たり前に搭載されていたチョークレバー

キャブレター搭載のモデルは、ガソリンを霧状にして空気と混ぜ合わせた混合気を作り、それをエンジンに送り込む仕組みだが、冬にガソリンが冷めていると霧化がうまくいかず、エンストしてしまったりする。

そこで、チョークを使うことで、空気の通り道を狭くしたり、ガソリン濃度を高めたりして、混合気の比率を機械的に調整し、エンジンをかけやすくするのだ。

今のインジェクション搭載バイクでは、電子制御で燃料噴射量や点火のタイミングもコントロールできるので、寒い時期の始動も楽だし、エンストも起こりにくい。だが、昔のキャブレター搭載車では、そうした制御を自動ではできなかったため、チョークを使っていたのだ。

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キャブレター搭載車では、寒い日などにチョークレバーを引くことで、エンジンを始動しやすくする

なお、チョークは、ある程度エンジンが温まると、徐々に元に戻すなどしないと、逆にエンストしやすくなる。そうした微妙な調整をしながら走ることも、昔のライダーにとっては、「バイクに乗るための儀式」的な感覚があり、よりスムーズに、さり気なくできるライダーが「上手い」とされていたといえる。

エンコ

エンジンが止まってしまうこと全般を意味するワードが「エンコ」。昭和でも、1965年生まれの筆者より年齢的に上の世代が使っていた言葉だ。

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エンコはバイクの故障によりエンジンが動かなくなる状態などを指す

今でもクラッチ操作をミスるなどでエンジンを止めてしまうことを「エンスト」というが、エンコはちょっとニュアンスが違う。どちらかといえば、バイクの故障によりエンジンが動かなくなったことを意味する。また、ガソリンがなくなった場合、つまり「ガス欠」のことをエンコという人もいたようだ。

エンコの由来には諸説ある。例えば、「エンジン故障」の短縮形という説。また、幼児などがだだをこねて座って動かなくなる「えんこ」を由来とし、そうした幼児の動きを乗り物に置き換えたという説などだ(エンコはバイクだけでなくクルマでも使っていた)。

いずれにしろ、頻繁にエンジンの故障などが発生していた時代だからこそ、一般的に使われたのがエンコ。バイクでもクルマでも、故障が少なくなった現代では、使う機会もあまりなくなったことで、廃れたワードのひとつになったのだといえるだろう。

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著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…