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BMW・C400X……870,000円~(塗色によって異なる)
右手の動きに対して間髪を入れずに反応するエンジン
国内では「排気量が251ccを超え400cc以下」のスクーターは絶滅危惧種となっている。これを執筆している2021年12月現在、国内4メーカーではスズキ・バーグマン400 ABSとヤマハ・トリジティ300がラインナップしているのみだ。ところがヨーロッパに目を向けると、ホンダはこのクラスにADV350、フォルツァ350、SH350i(いずれも330cc)の3機種を、ヤマハはXMAX300(292cc)を送り込んでおり、このミッドサイズのアーバンモビリティは欧州においてかなりホットなジャンルとなっているのだ。
そうした背景を知ると、2017年のEICMAで発表されたBMWのC400Xが、やや中途半端な349ccという排気量で登場したのも合点がいくというもの。さらに、上位機種と同等の6.5インチTFTディスプレイやマルチコントローラー、キーレスライド、グリップ&シートヒーターといった贅を尽くした各種装備も、商品力を上げるために必要だったことが分かる。
さてこのC400X、F850GSやF750GSらと同様に中国のロンシンで製造される。日本では2019年1月に発売され、今回試乗した新型は2021年7月にリリースされた。水冷単気筒エンジンは触媒コンバーターやシリンダーヘッドの改良などによって新排ガス規制ユーロ5に対応。さらに電子制御スロットルの採用や駆動系の改良も行われている。ASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)は制御アルゴリズムを見直し、より優れた走行安定性を実現。なお、最高出力は従来型と同じ34psを公称する。
筆者はつい4か月前に新型バーグマン400に試乗しており、そのときの記憶と比較するとC400Xの方が明らかに力強い。低い回転域で自動遠心クラッチがつながり、そこからグングンと速度を上げていく。たかが349ccなどとあなどって不用意にスロットルをガバ開けするのは止めた方がいい。それぐらいにパワフルなのだ。調べてみるとバーグマン400は排気量399ccで最高出力は5ps低い29psを公称。最大トルクはC400Xと同じ35Nmで、車重も8kg重いだけ。設計年度に開きがあるとはいえ、この体感差には驚いた。
このエンジン、パワフルとは言っても決してヤンチャではなく、中間加速のレスポンスやパーシャル時のマナーは良好。聞こえてくるのは吸排気音がメインで、メカノイズはほとんどなし。スロットルを急開した際、ごくたまに駆動系から「ダンッ!」という衝撃音が聞こえるが、それによって挙動が変化するわけではないので気にしなくていいだろう。不快な振動も全域で抑えられており、非常に優秀なパワーユニットと言える。
モーターサイクルに近いハンドリングと接地感
続いてハンドリング。国内メーカーのビッグスクーターは寝そべるようなライディングポジションを基本としており、ハンドルの押し引きだけでも旋回できてしまう。誰でも楽に向きを変えられる反面、そこに面白さや奥深さはあまりない。これに対してC400Xは、明らかにモーターサイクルに近いハンドリングを有している。シャシーの剛性感、フロントタイヤの接地感の高さ、車体のピッチングの中心近くにライダーがいる、などがその理由であり、元気のいいエンジンと合わせて非常に楽しいマシンに仕上がっている。
ホイールベースが1,565mmと長いのでクイックに旋回するタイプではないが、バンク角をライダーが自由にコントロールでき、車体を傾けてさえしまえばしっかり舵角が付くので曲がれないという恐さはなし。そして、ユニットステアにありがちなステアリングヘッド付近の剛性不足が一切感じられず、フロントブレーキを残しながらのコーナリングで狙ったラインをトレースすることができる。前後のサスペンションはややハードで、荒れた路面では跳ね気味となるが、ユニットスイング式のスクーターで峠道をここまで快走できるスクーターを他に知らない。
ブレーキについては、キャリパーがバイブレ製からスペインのホタ・ホワン製に変更されているが、特にフロントの制動力は非常に高く、これもC400Xのスポーティな走りをサポートしている。ABSはかなり緻密に介入するタイプで、作動時には指先に軽いキックバックが伝わる。
足代わりに使われることの多いスクーターは、収納力の高さやUSB電源の有無などユーザビリティも重要だが、C400Xの本質は走りの楽しさにある。ヤマハから初代TMAXが登場したときの驚きを思い出したほどで、普通二輪免許AT限定のライダーにとってはスポーツマシンといっても過言ではない。