とにかく低予算、だけど納得のいくカブを作りたかった
スーパーカブのカスタムには様々なスタイルがあるが、「チョッパー」も人気ジャンルのひとつ。アンダーボーンフレームは、ハーレーなどとは全く違うものだが、ネック部分からシートにかけて下がっていくシルエットは、なんだかアメリカンな雰囲気。
余計なカバーを取り払い、フェンダーを短くして灯火類など必要最小限のパーツだけを装着すれば、まごうことなきチョッパーの完成である。
……と書けば、なんだか簡単に思えてしまうが、実際にはパーツチョイスや配置など、ビルダーのセンスがおおいに物を言う。
カフェレーサーやスーパースポーツなら「機能美」が重要だが、チョッパーにおいては「無駄こそが美」……とは少々言い過ぎだが、しかし当たらずとも遠からず。性能とは関係のない遊び心が大切なのだ。
さて、ここに紹介するのがムラケンさんの愛車・スーパーカブ。見るからに遊び心の塊のような1台だ。
まず、注目すべきはカラーリングだ。鮮やかなブルーは通称「レイトンブルー」と呼ばれるもので、1980年代後期~1990年代前半まで、F1に参戦していたチーム「レイトンハウス」が採用していたカラーである。シート下やメインフレームの「LEYTON HOUSE」のステッカーが、筆者(佐賀山敏行)のような40代には懐かしい限り。
実際、会場でこの車両を見つけた瞬間「絶対に撮影させてもらおう!」と思ったのだ。
しかし、F1チームである「レイトンハウス」と「チョッパー」の組み合わせ……なんだか「?」な印象である。そのことをムラケンさんに訊いてみると「あまり人と被らないスタイルを目指したんです。そしたら、カラーはやっぱりレイトンブルーしかないな、と(笑)」とのお答え。たしかに、なかなか被ることはないだろう……ということで納得。
そんなムラケンさんもやっぱり40代で、F1ブームの頃は小学生だったそうだ。ちなみに「若い人はレイトンハウスなんて知らないでしょ?」という筆者からの質問には「このカブを見た人の半分以上は知らなかったですね。なかには『ピザのデリバリー?』なんて言う人もいましたよ!」と笑う。
このマシンのコンセプトは「とにかく低予算」。
というのも、実はこのカブとは別に、ムラケンさんはシャリィも所有している。そのシャリィは今回、モンキーミーティングのカスタムコンテストで2位を受賞。プロの力も借りた力作で、とにかくお金が掛かっている。
その反動で、カブにはお金をかけられない。結果、ペイントを含め、ほとんどを自分でカスタムしたという。
鉄板から切り出したトップブリッジをはじめ、タンデムバーや15cmアップのステップなどは、自作のワンオフパーツだ。
フロントフォークとスイングアームは純正のルックスが気に入っていたので、そのままにする予定だったという。しかし、3.00-17サイズのリアホイールが入らなかったため、スイングアームを延長加工。フレーム側を金槌でガンガン叩きまくって、なんとか入れたそうだ。
「だけど、チェーンラインはオフセットしてないんですよ!」と、なぜか自慢げなのが微笑ましい。
ちなみに、ホイールは前後ともメルカリで購入して、合計5000円ほど。車体左のサイドカバーは職場に転がっていた木材を自分で加工したそうだ。
エンジンは88ccでツインスパーク化。しかし、いくらパワーアップしたといっても、キャブレターにFCRφ28はやりすぎでは? と思ったら、やっぱり「ダメですね(笑)。試行錯誤はしてますが、どうしても吹け切らなくて……。もうキャブは変えようと思っているんですけど、モンキーミーティングには見た目重視で、このまま持ってきました」とのこと。
うん、この遊び心は、チョッパーならでは。
他にも、SRカスタムで人気のモーターロック製エアクリーナーや、ハーレー用ツイストリジッドバーを使うなど、遊び心は車体の随所に見え隠れする。
また、今回は左ステップにチェンジペダルをセットしているが、いつでもジョッキーシフト(ハンドチェンジ)化できるように、リンク式のキットも持っているという。
「とにかく低予算で」とムラケンさんは笑うが、完成度の高い車体からは安っぽさは一切感じない。
チョッパーに必要なのはセンスとアイデア……あらためて、そう思わせる1台である。