【バイクの基礎知識】”キルスイッチ”ってなぜバイクに付いているの? 緊急時意外に使える便利なウラ技も!

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
ほとんどのバイクに装備されているキルスイッチ
ほとんどのバイクには、右ハンドルに赤いスイッチが付いている。あれは「エンジンストップスイッチ」、一般的には「キルスイッチ」と呼ばれているもので、エンジンを停止させるためのものだ。

だが、普通、エンジンを切るのなら、キーを差し込んだイグニッションをオフにすればOKなはず。では、具体的にどのような状況で使うのか? ここでは、バイク初心者などで、キルスイッチを使った経験がなく、どんな時に使用したらいいか分からないユーザー向けに、使うべきケースや、意外に便利なウラ技などを紹介する。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●平塚直樹、山田俊輔、BMW Group Japan、写真AC
*写真やイラストは全てイメージです

転倒時などでエンジンの緊急停止に使う

キルスイッチは、一般的に、右回転の丸い矢印上にX(バツ)印が付いている方へ押せばエンジンを停止できる。

最近は、エンジンを始動させるセルボタンとキルスイッチが共用になっている機種もあるが、マークやエンジン停止のやり方自体は同じ。また、海外製バイクなども同様だから、世界のほぼどんなバイクでも、赤いボタンをマークの方へ押せばエンジンを切ることができる。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
最近はセルボタンとキルスイッチが共用になっている機種もある(写真はBMW・R1250R)

そして、スイッチを押せば、イグニッションコイルや燃料噴射装置などへの電源供給が遮断され、エンジンを停止できるような仕組みになっている。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
通常走行時のキルスイッチ
バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
キルスイッチを押したところ

では、どんな時に使うのか? それは、主に、緊急時などで、エンジンをすみやかに停止させる必要がある場合だ。

例えば、転倒した時。特に、右側へ転んで、アクセルグリップが路面や障害物に引っかかってしまい、アクセルオンの状態がキープされてしまうと、エンジンもかなりの勢いで回り続けてしまう。

そうなると、バイクが橫になっていても、タイヤやチェーンも空回りを続けるし、バイクが動いてしまうことも。また、漏れたガソリンがバイクに引火してしまう危険性もある。

こういったケースでは、ライダーなどを救助したり、二次災害を防ぐためにバイクを安全な場所に移動させることも危なくてできない。そこで、キルスイッチを使って、エンジンを緊急停止させるのだ。

特に、事故で転倒した場合は、ライダーは自分で動くことが難しく、一刻も早く病院へ搬送すべき時もある。そんな時は、まずバイクのエンジンを早急に切ることが第一歩。先述の通り、キルスイッチのマークや使い方が、どんなモデルでも同じなのは、オーナーだけでなく、救助する人など、どんな人でもスイッチを扱えるようにするためという意味もある。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
事故などで転倒した場合に、エンジンが掛かったままだと、二次災害の危険があるし、救助にも支障が出やすい

アクセルが戻らないような故障時にも使う

ちなみに、最近、ほとんどのバイクがインジェクション仕様となり、転倒センサーのような機能も付いている。これは、車体が一定のバンク角を超えた横倒し状態となると、自動的にエンジンを停止する機能だ。

この機能があれば、キルスイッチは不用じゃない? と考える人もいるだろう。だが、実際は、どんな状態になるとエンジンの自動停止機能が働く設定になっているのかは、バイクやメーカーによって異なるようだ。

例えば、筆者がかつて所有していたスズキの「GSX1300Rハヤブサ(2代目)」の場合。不意に公道で転倒させてしまった時(単独転倒)に、エンジンは自動停止した。

だが、車体を引き起こし安全な場所へ移動させた後、エンジンを再始動しようとしても、全くの無反応。何度セルスイッチを押しても、エンジンは息を吹き返さず、出先から一歩も動けなくなってしまった。

結局、レッカー車を呼び、行きつけのショップまで運んでもらうことに。その後、そのショップで車載コンピューターをリセットしてもらうと、エンジンは普通に始動するようになった。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
筆者が所有した2代目ハヤブサ(2008年モデル)

一方、現在の愛車ホンダ「CBR650R」で、サーキット走行中に転倒した時。エンジンスライダーを装着していたおかげで、右コーナーの転倒にもかかわらず、アクセルグリップは路面に引っかかったりしてはいなかったが、後輪が浮いて空転していた。

そこで、キルスイッチでエンジンを停止。サーキットのレッカー車でパドックまで運んでもらった後に、セルスイッチを押したら一発でエンジンが再始動した。その時は、バイクはトランスポーターに積んで運んでいたものの、エンジンが掛からないと積む作業も大変だったので、とても助かった記憶がある。

以上のように、エンジンの自動停止機能は、バイクの機種やメーカーの設定によっては、働く場合とそうでない場合があるようだ。あくまで筆者が経験を元にした私見ではあるが、やはり緊急時にエンジンを停止させるには、キルスイッチの装備は必要だといえる。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
筆者が現在所有するホンダ・CBR650R

さらに、転倒時のほかにも、バイクの故障によりアクセルが戻らなくなることもある。例えば、何らかの原因でアクセルワイヤーが切れてしまった時。

また、キャブレターを使っている古いバイクでは、冬場などにアイシングという現象が起こり、キャブレター内部のスロットルバルブが凍るなどで、やはりアクセルが戻らなくなるケースもある。そんな際にも、キルスイッチを使うことで、すみやかにエンジンを停止させることが可能なのだ。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
故障などでアクセルが戻らなくなった時もキルスイッチを使うことは有効

有料道路の料金所などでも使えるウラ技

キルスイッチは、ほかにも、ウラ技として、意外に便利な使い方もある。例えば、有料道路の料金所など。最近は、ETCを搭載しているバイクも増えているが、人気のツーリングスポットとなっている有料道路には、まだまだ現金でしか通行料金を払えないところも多い。

そして、そんな料金所で通行料金を払う場合、ギヤを1速に入れたまま停止し、すぐにキルスイッチを押しエンジンを切れば、わざわざニュートラルに入れる手間なしで両手をハンドルから離すことができる。財布をウェアから出したり、現金を取り出す作業などが、早くスムーズにできるのだ。

また、通行料金を払い終わり、エンジンを再スタートする際も、クラッチを握り、セルボタンを押すだけだ。ほかにも、少し長めの信号待ちなどでも、この方法は使えるはずだ。

バイクのキルスイッチってなぜ付いている?
人気のツーリングスポットなどにある、現金でしか通行料金を払えない有料道路の料金所などでも、キルスイッチは便利

特に、新車で購入し、走行距離も少ないバイクでは、ニュートラルへ入れにくい場合もある。ギヤにあたりが付けば問題なくなるが、それまでの間、ニュートラルを出すので手間取り、料金所や信号待ちでまごつくよりいい。

ただし、駐車時にキルスイッチを使った場合は、必ずキーを回してイグニッションをオフにすること。忘れて、そのままバイクから離れてしまうと、バッテリー上がりの原因になることはもちろん、わざわざ「盗んで下さい」といっているようなものだからだ。くれぐれも、駐車時は、キーのオフやハンドルロックなどを忘れずに!

キーワードで検索する

著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…