より安全にもっと楽しくバイクを楽しむ−ヤマハ発動機の転ばないバイクの技術

バイクは2輪だからこそ独特の操作感が楽しめる乗り物。ただ、2輪だけに転倒する危険は大きい。この矛盾した問題を解決するべく、ヤマハ発動機は転ばない技術を研究してきた。バイクならではの操作感、爽快感を保ちながら、転倒の危険をできるだけ少なくしたバイク。ヤマハが考えるバイクの未来が形になりつつある。
ジャパンモビリティショー2023に出品されたMOTOROiD2。自立して走行できる電動モビリティ

 1980年代まで、バイクはパワーとスピードが求められてきた。1990年代になると、環境問題への配慮から低公害化や低燃費化がもとめられ、さらには安全性も向上した。ABSやトラクションコントロールなど電子デバイスの採用によって、この20年でバイクの安全性は大幅に進化している。各メーカーがさまざまな技術を研究する中、ヤマハ発動機は他とは少し違ったアプローチで安全性を研究している。それが「転ばないバイクの技術」だ。

 その技術の一つがLMW(Leaning Multi Wheel)テクノロジーだ。Lean(傾斜)してコーナリングする3輪以上の車両を表している。前二輪の乗り物に関しては1970年代から研究がスタートし、当時の人気スクーターであるパッソルをベースに開発が進められ、1976年には数々の特許を出願している。その技術が具体的な形として登場したのは2007年。その年の東京モーターショーでコンセプトモデルとして発表された「Tesseract(テッセラクト)」だ。前後ともに一対ずつのホイールを備えた4輪のモーターサイクルで、4輪の自動車とは異なり、それぞれのホイールがリーンしてスイングする、あくまで4輪のオートバイ。左右のホイールが別々に上下して路面の凸凹を吸収して、2本のタイヤが路面をグリップすることで、2輪のオートバイク比べて安定して走行することができた。テッセラクトは市販に至ることはなかったが、この技術を引き継いで開発されたのがトリシティだ。

1977年当時、パッソルをベースに前2輪のスクーターが研究されていた。この時は製品化には至らなかった
スクーター以外にも様々な3輪モデルが研究されていた。
前後ともに2輪のホイールを持つテッセラクト。4輪ではあるが乗車感覚は2輪そのもの

 2013年の東京モーターショーで「トリシティ・コンセプト」として出展されたのは、前2輪、後ろ1輪のスクーター。前2輪はそれぞれに独立したフロントフォークを持ち、「パラレログラムリンク」というリンクを介して車体をリーンさせることで、二輪車に近い操縦感覚を実現している。翌2014年にトリシティ125として発売され、現在では150cc、300ccのバリエーションもラインナップする人気車種だ。

3輪のコミューターとしてすでに確固たる地位を獲得しているトリシティ。現在は300ccモデルも販売されている。

 このLMW技術を大型のスポーツバイクにも組み込み、2015年の東京モーターショーでMWT-9としてコンセプトカーを発表。これを熟成させたモデルが、900ccの水冷3気筒エンジンを搭載し、2018年に発売された「NIKEN(ナイケン)」だ。

前2輪の大型モデルも研究され、2015年にコンセプトモデルのMWT-9を発表。
MWT-9から3年、市販モデルとして発売されたのが、3気筒900ccユニットを積むNIKEN(ナイケン)だ。

 もう一つの転ばない技術が「AMCES(アムセス)」だ。Active Mass CEnter control Systemの略で、二輪車の車体をアクティブ制御することで、常に車両の姿勢を最適に維持して、車両自身が不倒静止、前進することが可能となる技術。2017年の東京モーターショーで発表された電動モーターサイクル「MOTOROiD」に初搭載された。車両の中央に斜めに配置された「AMCES」軸を中心に、リヤ周りが回転することで左右に振られてウエイトの役割を果たしてバランスを取っている。

2017年の東京モーターショーに出展されたMOTOROiD。画像認識AIを搭載し、ライダーを認識しして指示通りに動いてくれる。

 この「MOTOROiD」をさらに進化させた「MOTOROiD2」が、昨年開催されたジャパンモビリティショー2023で公開された。AIによりライダーを認識し、寄り添うようにダンスをする姿は、四輪車の自動運転とは異なる、二輪車の未来を見せてくれたようだ。その際に、もう一台ステージ上に用意されていたのが、低速時の転倒を防止する技術「AMSAS(Advanced Motorcycle Stability Assist System)」が搭載されたYZF-R25の実験車両だ。駆動力と操舵力の制御を用いて、低速走行時の姿勢を安定化させる技術で、6軸センサーと駆動、操舵アクチュエーターを搭載してフロントホイール、ステアリングを制御することでバランスを保っている。フロントホイールの制御は手のひらに箒を逆さまに乗せてバランスをとる「倒立振り子」の原理で静止時の自立を行い、ステアリングに取り付けた操舵アクチュエーターは、自転車でペダルを漕がずにスタンディングしている時の細かいハンドル操作と同じような動きでバイクを安定化させている。AMSASはフレームに手を加えることなく既存の車両へ取り付けることが可能なため、様々な車両への応用が期待される。バイクはパワーやスピードを求める時代から、誰でもが安全に楽しめる乗り物へと進化を続けている。

進化したMOTOROiD2はライダーの指示に合わせ、一緒にダンスができる。クルマとは違った自動運転の未来か
YZF-R25に装着されたANSAS。フレームに手を加えずに装着できるので、既存の車種に取り付けることができる。
フロントに取り付けたモーターとステアリングを制御する機構でバランスを取る。

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