ライディング、これすなわちスポーツ!そのオーラに凄みが漂う。|CBR1000RR-R FIREBLADE SP・2022

「CBR1000RR-R FIREBLADE」と同SPは、大型スーパースポーツを代表するホンダのフラッグシップ。2020年3月にフルモデルチェンジされ、その後2022年3月に一部仕様変更、2024年3月に仕様変更された。特に今回の変更熟成進化は多岐に及んでいる。当記事の試乗撮影車は2022年型でありインプレ記事もそれによるものだが、価格や諸元表は最新モデルのデータを掲載。旧モデルからの変更点についても解説した。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・CBR1000RR-R FIREBLADE SP…….2,849,000円(税込み)

グランプリレッド

2024モデルのカラー&バリエーション

CBR1000RR-R FIREBLADE SP…….2,849,000円(税込み) グランプリレッド

CBR1000RR-R FIREBLADE SP…….2,849,000円(税込み) マットパールモリオンブラック

CBR1000RR-R FIREBLADE…….2,486,000円(税込み) グランプリレッド

CBR1000RR-R FIREBLADE SP レースベース車(公道走行不可)

最新モデルの相違点に注目。

ウイングデザインが一新された。左右への張り出しを控えた、スッキリとスタイリッシュな仕上がり。中央のラムエアダクトは、走行風導入効率の向上が図られている。

レースシーンで培われた最新の空力特性技術を投入。前面投影面積の減少も果たしている。フロントフェンダーも合わせて空力デザインを徹底追求。新しいウイングレットは、より小さな翼面積でダウンフォースを効果的に発生させている。ヨーモーメント(バイクの向きを変えるのに関わる力)を約10%低減させつつ安定性の向上が追求されている。

最新の排出ガス規制(令和2年)に適合。
性能曲線の新旧比較。大胆な性能差があるわけではないが、全回転域にわたって出力特性の向上が認められる。

基本諸元は共通ながら、細部の熟成進化が侮れない。トランスミションも一新された。

9°と言う狭角バルブ(吸気側)設定が特徴的。吸気ポート形状も一新されている。
新しい電子制御式スロットルは2モーターで駆動。2気筒ずつ左右バルブそれぞれの独立制御を可能としている。

CBから受け継がれて進化を重ね、ホンダのスーパースポーツを代表するブランドとなったのがCBR。その頂点に位置する最高峰のモデルがこのCBR1000RR-R FIREBLADE SPだ。
これまでの歴史の中に、別格と言えるプレミアムな限定モデルの存在例はあるが、量販スーパースポーツの分野でこのCBRが最上位に君臨する同社のフラッグシップモデルであることに違いはない。
WSB(FIMスーパーバイク世界選手権)レースにおいて、これらの市販車をベースとした競技用車両でホットなバトルが展開されている背景も見逃せないが、その中でもCBRは多くのライバルを凌ぐクラストップレベルのハイパワーを発揮しているのが誇らしい。
MoroGPマシンとして知られるRC213Vで得られたノウハウをふんだんにフィードバックし、技術の粋を集結し高性能を極めた一級のモデルに仕上げられているのだ。
古くからレース活動と共に培われた革新的な技術が投入される高性能と高い信頼性には定評がある。そんなホンダブランドと、常に一歩先を目指す企業姿勢には素直に畏敬の念が感じられてくるのである。

さて、3月1日に新発売された最新モデルはスタイリングが細かく手直しされている。デビュー当初斬新な特徴として左右に張り出して目立つ存在だったウイングレットも一新。旧型では片側3枚の翼をひとまとめに囲うダクトの様なデザインが採用され、空力特性に貢献する機能部品としての存在感が新鮮かつ印象的だった。
最新モデルではエアロダイナミクスがさらに徹底追及され、フロントフェンダーやミドルカウルとアンダーカウルのデザインを一新。高速域で大きな影響力を持つ空気の流れを考慮し操舵感の向上に寄与させていると言う。
整流効果の追求で大きな役割を担うウイングレットはフロントノーズを回り込むスッキリとシンプルなデザインを採用。前面投影面積も縮小されている。さらにアンダーカウルも変更され後輪の接地感向上も追求。ちなみに最低地上高は115mmから130mmになった。

車体やエンジン関係も徹底的な熟成進化を果たしている。基本骨格や型式こそ共通だが、アルミ鋳造製ダイヤモンドフレームは各部の剛性バランスを見直しつつ、薄肉化も実施されて何と960gの軽量化を実現。エンジンをマウントするハンガーボルトも従来の1本通しボルト式から、左右から締めつける短い2本ボルト式に変更。
リアプロリンク式サスペンションに採用されているアルミプレス製のスイングアームも剛性バランスが見直された。リアショックのアッパーマウントもブラケットを介してクランクケース背面に組み付けられる合理的設計により軽量化にも貢献。
前後に採用されたサスペンションは、第3世代のオーリンズ製Smart EC 3.0の電子制御式が奢られている。ちなみに標準モデルはショーワ(日立Astemo)製のBPF(ビッグ・ピストン・フロントフォーク)、リアに同BFRC-lite(バランスフリーリアクション)のショックアブソーバーが装着されている。

注目のハイパワーエンジンは、ライバルのどれよりもショートストロークなタイプ。81mmのビッグボアを持ちストロークは48.5mm。ピストンクラウン形状が見直されて圧縮比は従来の13.4から13.6対1まで高められたのも見逃せない。さらに剛性を見直したクランクケースを始め、クランクシャフトやチタン鍛造コンロッドを新設計。
エンジン単体重量で720gの軽量化。フリクションロスと慣性マスの低減化も図られている。吸気ポート形状が一新され、吸排気バルブタイミングとリフト量も変更。性能曲線図で示す通り主に中速域、つまりは実用域でスロットルレスポンスの向上を果たす。
ちなみに諸元上の最高出力と最大トルクの値に変更はないが、ピーク発生時のエンジン回転数は出力が13,500から14,000rpmへ、トルクは11,500~12,000rpmへそれぞれ500rpm高くなり、高速域でもより伸びの良い特性が期待できるわけだ。また燃料消費率のWMTCモード値は15~15,4km/Lへと向上していた。
6速トランスミッションも一新されて中速域の加速性能が高められ、サーキットパフォーマンスだけでなく、公道における扱いやすい特性が徹底追求されたと言う。
ドリブンスプロケットが43丁~44丁へ換装されたが、総減速比で旧型と比較すると、どれも大きな差ではないがローギアは少し高め。2~6速は少し低めに新設定された。クルージング時のエンジン回転数が高くなるわけだが、それはトップギア100km/h時で50rpmに満たない差でしかないだろう。
むしろ1~4速におけるギア比のギャップ(段差)を少なく、よりクロスレシオとした設定により、中速域からのスロットルレスポンスと扱いやすさやシフトワークの小気味よさ、そして加速性能の向上が図られたのである。
これまでにもクランクシャフトからドライブシャフトまでの各軸間を詰める徹底したコンパクト設計が追及されてきているが、軽量化設計も含め、最新モデルはまさに熟成の域に達した仕上がりを誇っている。
φ52mmのスロットルボティを持つ電子制御式スロットルも、2モーター制御を採用。1、2番と3、4番スロットルをそれぞれ独立制御することができるより緻密な吸気コントロールが可能となり、コーナーでの減速からパーシャルを経てスロットルONでコーナーを立ち上がる様なシーンでの扱いやすさと鋭い加速力が期待できるのである。
より俊敏かつ軽快に回る鋭いエンジン故、右手の操作に対して車体がギクシャクしないよう、感覚的に穏やかに調教されるスロットルレスポンスが相まってサーキットでタイムアタックするような走りでも、扱いやすさと共に鋭くも強かなハイパフォーマンスの発揮が期待できるのである。


ライディングポジションはステップ位置が少し低く、ハンドル位置は少し高く手前に変更された。長めのスイングアームで乗車状態での前後輪荷重配分を最適化している。

アルミ製ダイヤモンドフレームは剛性の最適化と共に、960gの軽量化を果たしている。

ハンガーボルトは旧型の1本通しボルト式から、左右からそれぞれ締めつける2本タイプに変更。140gの軽量化に貢献。

超高性能とその乗り味には素直に敬意を感じる。

試乗車を受取り、市街地から高速道路、郊外へ向けてスタートした。グランプリレッドのカラーリングとレーサーレプリカ系スーパースポーツ最高峰のマシン。そのフォルムからは、やはり只者ならぬオーラが漂っている。サーキット走行の予定は無かったが、記者は迷わずレーシングスーツを着用した。
クラッチをミートして発進した瞬間から「生半可な気持ちで乗って良いバイクではない」と自分自身の中で改めて襟を正そうとする気持ちになったのが何とも不思議。事前情報で218psと言うクラストップの高出力エンジンを持つことや、とびきり高価なモデルであることを知っていたからなのだろうか。
否そうではない。シートに跨がりステップに足を乗せ、ハンドルに手を添えると、そのライディングポジションから、妥協無きスポーツバイクそのものであることが伝わってきたからである。
身体の筋力を活用して身構える。手を添えるハンドルに無用な力を加えないよう、下半身で人車一体感を保つ。ハンドルには掴まらず腹筋と背筋を使って上体を支えるのだ。まさにスポーツラディングそのものの世界がそこにある。
心身共にリラックスは大切だが、安楽な移動を楽しむためのバイクではない。競技用車両に最も近いスーパースポーツとしてのキャラクターと究極の高性能を追及された開発コンセプトがダイレクトに伝わってくるのだ。

ローのギア比はそれほど高い印象はなく、十二分に太いトルクが相まって、難なく発進。軽く扱えるクラッチレバーの操作性や、コツンと決まるシフトタッチも好印象。エンジンの出力特性も決して乱暴者ではない。
ホンダ車ならではのスムーズさがある精巧な回転フィーリングは、1Lもの高性能エンジンを手の内におさめられる優しさが伴う。
もちろん本来のポテンシャルには尋常ではない凄さがあり、市街地で発揮でき(楽しめ)るレベルではないが、自制心を持てば意外なほど穏やかに走れる柔軟性もあり、懐の深い豊かな出力特性にどんな場面でも扱いやすい高性能であることが窺い知れるのだ。
それは操縦性にも言える。バイクを引き起したり押し引きした時に、特別軽いという印象はなかった。もちろん扱いが重いわけではないが、約200kgの質量と超高速性能を持つマシンであることを考慮すると慎重な扱いが重要。ステアリングの切れ角が小さいということもあって、乗り始めは少々緊張した。しかし最初の交差点を小さく左折した瞬間、旋回性の高さと思い通りに扱える操縦性の素直さに、思わず頬が緩んでいた。
前述の通りスポーツライディングする心構え身構えが大切だが、市街地レベルのごく普通の走りでも、意のままに扱える楽しさが満喫できる。その素性の良さは流石だ。
タッチがやや硬いと感じられる場面はあったがクィックシフターの操作性も小気味良く決まる。そして4,000rpm前後からのトルクの膨らみが強烈、回転計の伸びは楽々と1万rpmを超えていく。サーキット走行で思い切りワイドオープンを楽しみたいと思ったのが正直なところだが、公道レベルの走りでも右手のスロットル操作に対して後輪の駆動力を忠実に制御できる扱いやすさと豪快な加速フィールはとても気持ちが良い。
フィンガータッチで自由自在になるブレーキの扱いやすさと鋭い制動力も魅力的。そこからクィックに向きを変えて行ける操縦性も秀逸な仕上がりを披露していた。
車体の傾きと舵の動きが実にまとまり良く、グリップ力の高いタイヤ性能も相まってグイグイ旋回力を高められる。S字コーナーで右へ左への切り返しも素早くかつ素直に決まる。
しかもそんな素早い動作と、結果的なバイクの挙動には、常に穏やかさが伴っている。つまりライダーは不安なくレベルの高い走りが楽しめてしまう。そんなバランスのとれた高性能な仕上がりに心底感心させられた。
さらに付け加えると、コレクターズアイテムの「お宝」としての魅力も見逃せないと思えたのである。

いつものようにローギアでエンジンを5,000rpm回した時のスピードはメーター読みで56km/h。6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は4,100rpm。試乗時の走行距離は125kmで満タン法計測による実用燃費率は11.94km/Lだった。

実際のバルブ開度を位相制御させた電子制御式スロットル。全開時は四つが連動(同調)する。

前後電子制御式サスペンションのモード設定は、ライダーの好みに応じて詳細な選択を可能としている。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

写真の通り、両足の踵は少し浮く程度。スーパースポーツとしてはごく一般的な足つき性だ。シート高は830mm。ちなみに最新モデルもシート高は同じ。ハンドル位置が少し高くなっている。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…