前回の記事では車体からキャブレターを取り外す手順を紹介した。さぁ、いよいよキャブレターを分解してみよう。スーパーカブ50のキャブレターはC50時代から基本的な構造は同じだが年々進化していて、このAA01純正ではキャブヒーターなどの装備が追加されている。とはいえ原理は同じだしシンプルなメカなので慣れさえすれば誰でも作業できる。エンジンの調子がイマイチなら、ぜひチャレンジしてほしい。
なお、以前にもスーパーカブのキャブレターをオーバーホールする記事をアップしている。古い6V時代のものなのでAA01とは若干異なる部分があるものの、基本的にやることは同じなので参照してほしい。
AA01から取り外した純正キャブレター。外観の汚れはひどいものではないが、おそらく内部の流路で詰まりを起こしていることが考えられる。早速分解してみよう。ちなみに右側面にある中央付近のプラスネジがアイドルアジャストスクリューで、ここを回すことでアイドリング回転数を変化させられる。その左にあるD型をしたものがAA01時代から採用されたエアスクリュー。ユーザーが調整しづらいよう専用工具でないと回転させられなくなっているたのだ。後にここが作業ミスを誘発することになる。
キャブの上下をひっくり返してフロートチャンバーを固定している2本のプラスネジを取り外そう。これでキャブ本体からフロートチャンバーを分離させることができるのだが、あまりの汚れ具合に作業しているモーターファンBIKES編集部の山田ととも絶句してしまった。
「なんじゃコリャ〜」と声が出てしまうほど、フロートチャンバーの底にはガソリンが固形化した異物が溜まりに溜まっていた。もはや厚い層のようになっていて、マイナスドライバーで擦るとコケのように剥がれていく。ここはひとつ時間がかかるのを覚悟して汚れを落とすしかないようだ。
底にガソリンカスが堆積していたということは、各部も同じようにガソリンが固形化したもので覆われていることだろう。キャブ本体側についているフロート(写真の樹脂パーツ)を外そうとするが、スムーズに作業できない。なんとフロートが動かないどころか、固定しているピンが抜けないのだ。通常ならこのピンは指で押し出せば外れてくれるのだが、まるで動いてくれない。ラジオペンチでつかみグルグル回転させるようにして固着を剥がすことになった。また中央付近に装着されているメインジェット(大きな筒)と脇にあるスロージェット周辺にもガソリンカスが積もっている。
通常ならスロー・メインどちらのジェットも外して洗油やパーツクリーナー、キャブレタークリーナーで清掃すればいいのだが、今回はジェット内部で同じようにガソリンが固形化して各種ケミカルが役に立たない。そこで極細い針金でジェットの内部を突いてみたのだが、これでも固形化した層を突き破ることはできなかった。ここまでひどい状態のジェットなので、時間をかけて清掃して流路が確保できても後で悪さをするはず。そこで今回はモンキー/ゴリラ用として市販されているジェットセットを購入して交換することにした。
同じようにフロートにつくニードルバルブも新調している。フロート本体からガソリンカスをこそげ落とし、パーツクリーナーで清掃したら、細くなっている部分の間にニードルバルブを差し入れる。ここは単に溝へ入っているだけなので、差し入れた反対向きにするとバルブが簡単に外れてしまう。小さなパーツなので紛失にはくれぐれも注意してほしい。
ニードルバルブをセットしたフロートをキャブ本体に戻してスムーズに動くように磨いておいたピンで固定する。もちろんガソリン流路各部へパーツクリーナー・キャブレタークリーナーを吹きかけ、どの穴も正常に貫通していることを確認している。またメイン・スローの各ジェットは用意した新品を組んでいる。さらに分解した当初はチョークを操作してもキャブ内にあるバタフライが動かなかった。ここも固着していたため、清掃して動くようにしている。
フロートチャンバーを戻す前にゴムパッキンを交換しておく。このパッキンは経年により細く痩せてくるため、ガソリン漏れの原因にもなる。安価な部品なのでキャブレターを清掃するなら新品に交換しておこう。
キャブレターを組み終えて車体に戻したらエンジンの始動テストを行おう。でもその前に念の為スパークプラグを新品に交換しておく。プラグを緩めるときと締め込むときは工具を使うが、緩んだ後や差し込む時は指で作業すること。向きが正しくない状態なのに工具を使うと無理やりでも締め込めてしまう。するとプラグホールの溝を痛めてしっかり固定できなくなってしまうからだ。
プラグを締めてコードを差したらガソリンを入れ直して始動テスト。キーをオンにしてチョークを引きつつキックすると、なんと2発で再始動してくれた! ここで山田が試走してみると「ちょっと燃料が濃いみたいです」とのこと。メイン・スローともに市販の少々大きなサイズを入れたためだろう。またすぐにエンストするのでキャブ右側面にあるアイドルアジャストスクリューで回転数を上げると安定した。さらにエアスクリューで燃料を薄くしようとするも、マイナスドライバーで操作できるネジが見当たらない。アイドルアジャストスクリューの反対側を見ると1つ見つかったので回そうとしたが、なんと全閉になっている。ここを緩めて再テストしようとすると、なんとまたガソリンがオーバーフローしてしまった。ここで作業は一時中断。トランポで山田のカブは自宅へ引き返した……。
プロの手を借りよう
自宅にカブを持ち帰った山田は純正のジェット類を確保する必要もあり、以前からお世話になっているタキタモータースへ足を運んだ。瀧田さんと聞いて覚えがある人もいることだろう。瀧田さんは長年八王子市で「カムイ八王子店」の店長を務めてきた方。現在は東京都あきる野市にいい物件が見つかったことから、現在の地に移転して正式にタキタモータースとして営業することになったのだ。この場所は山田の自宅からも比較的近い場所なので、今回助けを求めて駆け込んだ!
新しいタキタモータースには4輪用の駐車場がない。来店する際は近隣の駐車場を見つけてからいくか、2輪で向かうのがいいだろう。業務内容はカムイ八王子店から引き継いでいるので、スクーターから4ミニのチューニング&カスタムまで受け付けている。
さすがはプロで素人が清掃したキャブの流路を再確認。その方法もこのようにパーツクリーナーやキャブクリーナーをスプレーするのではなく、洗油を用いてキャブが本来備える負圧による流れを再現するように優しく確認している。スプレーだと無理な力で吹き込むことになり、エンジンが回っている状態より強く流路を通ることになる。するといざ走り出しても調子が出なかったりトラブルを起こすことが考えられるのだ。
さらにキャブを分解清掃後もオーバーフローした原因を探るため、フロートチャンバー内に洗油を溜めた状態でホースへ息を吹きかける。密閉されずにブクブクと泡がでた。これはおかしいとフロートチャンバーを再確認してオーバーフローの原因を発見することに。
前回の作業時にエアスクリューだと思って緩めたマイナスネジは、なんとフロートチャンバーからガソリンを抜くためのドレンボルトだったのだ。なんとも恥ずかしくも笑い話のような現実。冒頭で紹介したキャブ単体の写真でもわかるが、アイドルアジャストスクリューの左にしっかりエアスクリューが存在している。ただ、マイナスドライバーで操作できないため、エアスクリューと思えず別のスクリューを探してしまったのが作業ミスの原因だ。
こちらが本来のエアスクリュー。外すと内部にOリングとワッシャー、スプリングが入っていて緩まないようになっている。D型の頭に合う専用工具が必要になる部分で、基本的にはバイクショップやディーラーでのメンテナンス扱いになっている。ここも清掃して正常に作動するようにしておく。
最後に瀧田さんがD型の頭を加工してマイナスドライバーで操作できるようにしてくれた。こんな配慮をしてくれるのだから頼りになります!
これにてAA01スーパーカブは数年ぶりに路上復帰することになった。