停車時は注意も必要!? 国産ツアラーに搭載された前車追従式ACCが4輪車と違う点とは?

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
フロントカウルにミリ波レーダーを搭載し、ACCなどの機能を実現したヤマハ・トレーサー9 GT+
今やバイクも「電脳化」の時代。特に、最近の高級ツアラーモデルには、最新のレーダーセンサーなどを搭載することで、高速道路などで車間距離を自動で保ちながら前車を追従するACC(アダプティブ・クルーズコントロール)も採用。まるで4輪車並みの機能を備えている。だが、実際は、2輪で走るバイクならではの特性もあり、4輪車と全く同じ機能にはなっていないため、使う際には注意も必要だ。
では、一体どんな点が4輪車と異なるのだろうか? ここでは、ヤマハ「トレーサー9GT+」やカワサキ「ニンジャH2 SX/SE」といった国産モデルを例に、特にACC作動時の注意点などをおさらいしてみる。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●ヤマハ発動機、カワサキモータースジャパン、ビー・エム・ダブリュー

バイクのACCとは?

今や、クルマではおなじみとなったACC(レーダークルーズコントロール)。これは、今どきのクルマに乗る人ならご存じの通り、高速道路などで、アクセルを操作しなくても設定速度での巡航ができ、先行車両に追いつくと一定の車間を保って追従走行をしてくれる機能だ。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
ACCやレーダー連携UBSなどで快適なバイク旅を実現するトレーサー9 GT+(写真は欧州モデル)

バイクにも、以前からアクセル操作なしに設定速度を維持して走行する「クルーズコントロール」機能を備えるモデルはあった。だが、前車を自動で追従する機能までは装備されていなかったため、前車に追いついた際は、ライダーの操作を必要とした。それが、最近のモデルは、レーダーセンサーの搭載により、クルマと同じように車間距離を自動で維持できるACCも可能に。長距離ツーリングなどで、さらなる疲労軽減や安全性向上などに貢献する。

こうしたACC機能は、バイクの場合、主に欧州メーカーが先行して採用していた。たとえば、ドゥカティ「ムルティストラーダV4S/Sスポーツ」、BMW「R1250RT」「R1300GS・ツーリング」、KTM「1290スーパーアドベンチャーS」などに搭載されているが、最近になって国産メーカーも搭載モデルをリリース。カワサキが「ニンジャH2 SX/SE」の2022年モデルに採用したのを皮切りに、2023年には、ヤマハが「トレーサー 9GT+」に初搭載している。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
カワサキ・ニンジャH2 SX SE
国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
ACCの搭載は、BMWやドゥカティ、KTMなど欧州メーカーが先行(写真はBMW・R1250RT)

トレーサー9GT+にはレーダー連携ブレーキも搭載

では、国産ツアラーの場合には、どんな機能を有するのだろうか? まずは、ヤマハのトレーサー9 GT+(TRACER9 GT+)。888cc・直列3気筒エンジンを搭載するスポーツツアラー「トレーサー9GT」をベースにした上級バージョンだ。2023年に登場したこのモデルには、フロントカウルに新しくミリ波レーダーを搭載することで、ヤマハ車で初めて前車を追従するACCを搭載している。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
ヤマハ・トレーサー9 GT+

主な機能は、まず、ミリ波レーダーにより、前車の有無や車間を検知。その情報を元に、状況に応じて、定速巡航はもちろん、前車との車間が近い場合は減速、離れた場合は設定速度まで加速するといった制御を自動的で行う。

なお、ACCは約30km/h以上(使用するギアによって異なる)で走行中に作動。追従走行時の車間設定は4段階から選択可能だ。

また、コーナーなどで車体の旋回を検知すると、車速の上昇を抑えたり、先行車がいる場合は追従加速度も制限する「旋回アシスト機能」も採用。コーナリング時の安全性にも貢献する。

加えて、ライダーが追い越し車線側へウインカーを出し車両が追い越し状態にあると判断すると、通常の車速回復時よりもスムーズに加速する「追い越しアシスト機能」も装備。これらさまざまなACCの機能により、ツーリング時などでライダーの疲労軽減に貢献してくれる。

トレーサー9GT+では、さらに、「レーダー連携UBS(ユニファイドブレーキシステム)」も搭載する。UBSとは、ヤマハ独自の前後連動ブレーキ機構で、後輪ブレーキを操作すると、前輪にもほどよく制動力を配分して、良好なブレーキフィーリングをもたらすことが特徴だ。

そのUBSとミリ波レーダーをマッチングさせ、より機能をアップデートさせたのがトレーサー9GT+だ。従来から搭載している高機能6軸「IMU」とミリ波レーダーが感知した情報をもとに、前走車との車間が近く衝突の恐れがあるにも関わらず、ライダーのブレーキ入力が不足している場合に、システムが作動。前後配分を調整しながら自動でブレーキ力をアシストすることで、衝突回避のための操作を手助けしてくれる。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
レーダー連携UBSも搭載するヤマハ・トレーサー9 GT+

この機能は、例えば、高速道路などでACCを作動させ走行車線を走っていて、ICやSAの合流車線からクルマが急に前へ割り込んできたときなどに効果を発揮する。レーダーセンサーで割り込み車両を検知したバイクが、自動で減速すると共に、車体を安定させながら適切な車間距離を保ってくれるのだ。

しかも、これらシステムは、電子制御サスペンションとも連動し、ブレーキング時に過度なピッチングを抑制するような制御も行う。たとえば、前ブレーキを強くかけるなどで、フロントフォークが沈みすぎて後輪が浮いてしまうなど、制動時におけるバイクの前後動を電子制御サスペンションが極力抑えてくれるのだ。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
電子制御サスペンションとも連動(写真は欧州モデル)

ほかにも、トレーサー9 GT+には、ヤマハが第3世代と呼ぶ新型のクイックシフターも採用している。これも、ご存じの通り、クラッチレバーやアクセルを操作しなくても、ペダル操作のみでシフトチェンジを可能とするのがクイックシフターだ。

ヤマハが開発した第3世代クイックシフターでは、加速時・減速時などの状況を問わず、シフトアップとダウンの両方をサポート。追い越し時などシフトダウンにより加速力を強めたい時や、制動時などにエンブレ効果を弱めたい時などに効果を発揮する。また、ACCとも連動。ACC作動中の車両の加減速(エンジン回転数変化)に即したシフト操作を可能としている。

なお、トレーサー9GT+の価格(税込)は182万6000円だ。

ニンジャH2 SX/SEにはARASを採用

一方、カワサキのニンジャH2 SXとその上級バージョンのニンジャH2 SX SE。これらは、スーパーチャージャー付き998cc・水冷並列4気筒エンジン(スーパーチャージドエンジン)を搭載するハイパワーな大型スポーツツアラーだ。

最大出力200PS(ラムエア加圧時210PS)もの大パワーを発揮しながらも、WMTCモード値18.4km/Lという高い燃費性能を両立。大容量19Lの燃料タンクと相まって、ロングツーリングなどに最適な長い航続距離を実現する。

また、数々の電子制御システムも搭載。バイクが前方車両のライトや街灯などの明るさを判断し、自動でハイビームとロービームを切り替える「AHB(オートハイビーム)」、車体の傾きに合わせて、自動的に点灯するライトが切り替わる「LEDコーナリングライト」などにより、高い安全性も誇る。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
カワサキ・ニンジャH2 SX

さらに、上級モデルのニンジャH2 SX SEでは、独自のセミアクティブ電子制御サスペンション「KECS(カワサキ・エレクトロニック・コントロール・サスペンション)」を装備。路面の凹凸に応じてショックアブソーバー内の減衰力を自動調整するショーワの「スカイフック式EERA(電子制御ライドアジャスト)」テクノロジーも搭載することで、幅広いシーンで安定性の高い乗り味を体感できる。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
カワサキ・ニンジャH2 SX SE

そんなニンジャH2 SXシリーズには、2022年モデルからボッシュ製の「ARAS(アドバンスト・ライダー・アシスタンス・システム)」を採用する。これは、レーダーセンサーを活用し、ライディングをサポートする主に3つの機能を持つことが特徴だ。

まずは、ACC。このモデルも、車体前方にミリ波レーダーを搭載し、走行車線前方をスキャンする。その情報を基に、たとえば、バイクが前方車両との距離を不十分と判断した場合、ABS-ECU(ABSを制御するユニット)が出力を低下させる信号を出し減速を行う。

また、速度低下が十分でないと判断した場合は、FI-ECU(電子制御燃料噴射装置の制御ユニット)がエンジンブレーキを活用。さらに、より強い減速が必要な場合はABS-ECUがブレーキも作動させる。一方、車線前方がクリアになった場合は、ABS-ECUがFI-ECUに出力アップを指示。スロットルを開けて設定速度まで自動的に加速し、設定速度を維持する。

そして、これら一連の操作は、ライダーがアクセルやブレーキを操作することなく、ACCシステムが事前に設定した範囲で自動的に加減速を実施。なお、前車との車間距離は、「Near(近距離)」「Medium(中距離)」「Far(遠距離)」の3種類から選択することができる。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
ニンジャH2 SXに採用するARASのシステム図

また、ニンジャH2 SXシリーズには、先行車と衝突する危険性がある場合に、インストゥルメントパネル上部の赤色LEDランプが点滅してライダーに警告する「FCW(フォワード・コリジョン・ワーニング/前方衝突警告)」も搭載。

加えて、車体後部にも搭載するレーダーセンサーが後方周囲を監視し、ライダーの死角に接近する車両の存在を検知し警告する「BSD(ブラインド・スポット・ディティクション/死角検知)」も採用し、幅広いシーンでの運転支援や利便性、快適性などを実現する。

なお、価格(税込)は、ニンジャH2 SXが273万9000円、ニンジャH2 SX SEが306万9000円だ。

4輪車のACCとの違いは?

まるで4輪車並みに高性能なトレーサー9 GT+やニンジャH2 SX/SEのACC。だが、注意したいのは、最新のクルマに搭載されている「渋滞追従(または全車速追従)」機能付きではないことだ。これは、例えば、ACC作動時に、渋滞などで前車が停止すると自車も自動で停止。前車が再び発進すると、ドライバーの操作などで前車追従を再開するという機能だ。

一方、例えば、トレーサー9 GT+のACCでは、対応する速度範囲は30〜150km/hなので、30km/h以下の速度になると機能が停止する。そのため、渋滞などで前車が停車すると、後ろを走るバイクのライダーはブレーキ操作を必要とする。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
トレーサー9 GT+のACCは、対応する速度範囲が30〜150km/h

また、レーダー連携UBSの対応速度範囲も同じ30〜150km/hで、一般道などでACCを使っていない時には、ライダーがブレーキ操作を行わないと作動しない。理由は、ヤマハの開発者によれば、「ブレーキをかけていないのに、バイクが勝手にブレーキをかけてしまうと、ライダーは予期しない制動により体が前のめりになってしまい、最悪の時は前方へ飛び出してしまう危険性がある」ためだ。

特に、コーナリング中は、車体が安定しにくいので、ライダーにとって予期せぬブレーキは危険度も高くなる。加減速で重心が前後に移動するバイクでは、4輪で走るクルマほど安定性が高くないためだ。

このような設定は、ニンジャH2 SXのACCも同様で、ギヤごとに設定された一定の速度以下になるとシステムを解除する仕組み。停車時にはライダー自身のブレーキ操作が必要となる。また、前走者が急に減速、停止した場合も同様にライダー自身のブレーキ操作が必要となる。

国産ツアラーに搭載されたACCが4輪車と違う点
バイクのACCは、自動停止までの機能は今のところない(写真はニンジャH2 SX SE)

4輪車でも、古い車種や安価なモデルには、渋滞追従機能のないACCを搭載している場合もある。それらは、ACC作動時に渋滞などで一定速度以下になると、機能がオフとなる。つまり、トレーサー9 GT+やニンジャH2 SXとそれらと同じだ。いずれも、そうした作動条件を知らないままに、運転していると危ない。

特に、ACC作動時に前の車両が急減速や停止した場合に、自車も自動で停まってくれると思い込んでいると、前車へ追突してしまう危険性は十分にある。特に、バイクの場合は、追突の衝撃で、ライダーの体が追突した前車へ投げ出されてしまい、大事故につながる恐れもある。

ACCは、とても便利な機能だが、過信は禁物だ。正しい作動条件を事前に知っておかないと、最悪の事態を招く場合もある。また、機能の作動に不可欠なレーダーは、例えば、大雨や降雪時などに正しく反応しない場合もある。くれぐれも、万能でないことを理解し、「まさかのときには自分でブレーキをかける」といった意識を持って、安全なライディングを心掛けたい。

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著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…