モデルチェンジで25万円アップにはビックリだけど! ヤマハ・TRACER 9 GTのグレードアップっぷりには脱帽です。

ヤマハのラインナップで「スポーツツーリング」のカテゴリーに属しているTRACER 900が、新たにTRACER 9 GTとしてフルモデルチェンジされた。MT-09 SPやMT-07と共に2021年7月28日に新発売。その発表試乗会は、袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された。

REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力⚫️ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ・TRACER 9 GT ABS…….1,452,000円

ブルーイッシュホワイトメタリック2
マットダークグレーメタリックA
ビビッドレッドソリッドK

 ベースを共有するMT-09と同様、今回フルモデルチェンジを受けて第3世代モデルに進化。国内では7月28日に新発売されたのがこのTRACER 9 GTである。  
 初代モデルMT-09 TRACERの初公開は2014年のEICMA(ミラノショー)だった。ヤマハのカテゴリー分けではスポーツツーリングに属し、ロードスポーツのMT-09とは明確に棲み分けられたツアラーモデルである。
 2018年3月にはネーミングもTRACER 900にマイナーチェンジされ、充実装備の上級仕様として同GTが追加投入された。
 そして今回は2020年11月に欧州をメインに先行発表され、ネーミングもTRACER 9へと刷新。ベーシックなTRACER 9 ABSと同GT ABSの2機種をリリース。ちなみに国内市場には2021年春以降に上級モデルのGTのみが発売予定とされたのである。

 旧モデル900 GTの価格は1,198,800円だったが、新型では1,452,000円(いずれも税込)というプライスに。一気に25万円以上の価格高騰には少々ビックリさせられたが、それだけ大きな変身振りが期待できるのである。
 実際、最新MT-09のフレームを基本に、ツアラーとしてチューニングし直されたアルミダイキャスト製フレームには、専用のパイプリヤフレーム(シートレール)や同じく専用設計されたロングスイングアームを採用。
 前後ホイールもMT-09同様、独自に新開発されたSPINFORGED WHEEL(スピンフォージド・ホイール)技術で製造された軽量アルミキャストホイールを装備。装着タイヤはブリヂストンと共同開発したBATTLAX SPORT TOURING T32を履いている。
 さらに注目したいのは、前後サスペンションにKYBと共同開発されたKADS(KYB Actimatic Damper Systemが標準搭載されているのである。
 これはKYB社独自のグランドフック・コンセプトを実現するいわゆる電子制御式サスペンションの事で、前後のダンピング特性を常に適切な減衰力に自動調節してくれる。
 
 ストロークアップによるエンジン排気量の拡大や最高出力&最大トルク等の諸元はMT-09と同じなので詳細説明は割愛するが、旧モデルに対して顕著なトルク向上と、最大トルク発生回転数が8,500~7,000rpmに低められているのが見逃せない。
 これに伴い6速ミッションの内、ローとセカンドのギヤ比が若干高めに変更されている。低速域のトルク向上に十分な自信を伺わせてくれたとも言えるだろう。
 6軸IMU(慣性計測装置)を備え、車両挙動の多くの情報を収集し、走りの安定化制御に貢献させる電子デバイスも最新式を導入。前述のKADSやABS、トラクションコントロール等の他、コーナリングランプの自動点灯制御にもフル活用されている。
 アクセサリーで用意されている3ケースもより上質な仕上がりを誇り、コンフォートシートクッションも選択できる。標準装備されたグリップウォーマーは、ハンドル右側のホイールスイッチでなんと10段階もの温度調節が可能。その他豊富なアクセサリーにはコンフォートヒートシートまで揃えられており、その上質な仕上がりと装備の充実ぶりはグンとレベルアップされているのである。

しっとりと落ち着きのある走りはとても快適。

 試乗は写真の通り、リヤにトップ及び左右のパニアケースを装着した状態。ステージは千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイだ。
 TRACER 9 GTに跨がると、同日試乗したMT-09とは異なり、なかなか大きくて立派な雰囲気を覚える。MT-09よりホイールベースは70mm、全長で85mm長い上、フレームマウントされた大型スクリーン付きフロントカウルが標準装備された堂々たるフォルムはそれなりにボリューム感がある。
 車重は30kg差の220kgあり車体を引き起こす時もズッシリと相応の重さが感じられる。機敏な操縦性を追求した軽快なMT-09とはまるで異なるキャラクターである。
 シート高は下がっている様だが、ステップ位置の関係か、旧型と比較して足つき性は大差ない。直感としてステップ位置が僅差ながら低く、少し前方に移動したような印象。
 少しワイドなハンドルポジションも相まって、背筋を伸ばした自然体で、ゆったりと乗れるライディングポジションは旧モデルよりさらにツアラーらしい雰囲気に仕上がっている。

 操作の軽いクラッチをリリースして発進すると、ギヤ比が高められたにも関わらず十分に太いトルクを発揮して楽々とスタート。スロットルレスポンスに優れる3気筒ならではの豪快な吹け上がりはとても元気が良い。
 もちろん車重との兼ね合もあって、動力性能的にはしっとりと落ち着きのある穏やかな印象。回転の吹け上がりも、俊敏なMT-09よりはゆったりと時間を要す。それでも加速フィーリングは十分にパワフルである。
 
 シートはクッションがしっかりした硬さがあるが、厚みやサイズが十分で座り心地は良好。ツアラーとして適度にチューニングされたステップ位置も貢献してロングツーリングでも快適そう。次の試乗ではぜひ遠出してみたいと思えたのが正直な第一印象である。
 走行ステージがサーキットなので、スロットルはついついワイドオープンになるが、それが許されるのは、常に高い安心感を提供してくれる素直で落ち着いた操縦性にある。
 決してクイックではないが、右コーナーから左への切り返しも、素直に狙い通りのラインに乗せて行け、なおかつコーナリング中の安定感が優秀。
 レスポンスに図太さのある出力特性と穏やかな挙動に終始する車体の安定感とのバランスが非常に良い。ブレーキタッチや、クイックシフターの感触も軽妙で、クルージング性能に見る快適性に寄与している点が好印象。
 旧モデルも同様なキャラクラーを誇っていたが、今回の新型ではさらに大人びた穏やかな乗り味と上質さが加味されたハイグレードなモデルに進化していることがハッキリと体感できたのである。
 高いロードホールディング性能を発揮し、細かい凹凸にも優れた作動特性を披露するサスペンションも秀逸。荷物の積載具合やタンデムライディング等、荷重に応じたセットアップも簡単に対応できる。
 

 次回は実際のツーリング試乗で、改めてその乗り味とツアラーとしての実力を探ってみたいものだが、十分に強力なハイパフォーマンスを秘めながらも、穏やかで快適に走り、ロングクルージングを楽々とこなせる資質は大きな進化を果たしていると思えた。コーナリングも高速直進時もライダーに感じられる安心感に磨きが掛けられた事は間違いないのである。
 ゆっくりと徐行運転する様な時も操舵フィーリングは至って軽快で扱いやすいし、Uターン等の小回り性能ではMT-09より断然優れていた。
 純正アクセサリーパーツの充実した品揃えや、より上質な仕上げを魅せるサイドケース等、トータルでの進化熟成ぶりを目の当たりにすると、この価格設定も納得できる気分になってくるのである。

足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)

写真はシート高810mmのローポジションで撮影。諸元値では、旧TRACER 900より40mm低いが、跨った感覚ではそれほど大きな差は感じられない。ご覧の通り両足の踵はそれなりに浮いてしまう。ただ、バイクの支えやすさに不安感は少ない。

著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…