心身に疲労が溜まらないから、ロングランが存分に楽しめる スズキ・Vストローム250SX 1000kmガチ試乗3/3

アドベンチャーツアラーとして開発されたのだから、ロングランが楽しめるのは当然のことかもしれない。とはいえ、Vストローム250SXの快適性や利便性は、試乗前に筆者が想像していたレベルをはるかに上回っていたのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキ・Vストローム250SX……569,800円

生産国にして先行発売されたインド仕様のタイヤが、現地のメーカーであるMRFのMogrip Meteor-Mだったのに対して、日本仕様は台湾のMAXXISと共同開発したMAXXPLOREを装着。

ライディングポジション ★★★★★

ライディングポジションの印象は素晴らしく良好。ロングランの後半になっても身体のどこかに痛みを感じることはなかったし、街乗りや峠道でのスポーツ&オフロードライディグにもきっちり対応。なお既存のVストローム250の乗車姿勢は、ハンドルの絞りが強くてシートが低いため、昔ながらのロードバイク?という印象を僕は抱いたのだが、ハンドルの絞りが少なくてシートが高いVストローム250SXは、ちゃんとアドベンチャーツアラー。

シート高は既存のVストローム250+35mmの835mmなので、足つき性は良好とは言い難い(筆者の身長は182cmで、体重は74kg)。とはいえ、シート前端は足が下ろしやすいように絞り込まれているし、現在の250ccクラス全体の基準で考えれば164kgの車重は軽い部類なので、一般的な体格の成人男性なら不安は感じないだろう。なお現在のスズキは“快適‼ 足つきサポート”キャンペーンを実施中で、2024年5月31日までにVストローム250SXの新車を購入すると、着座位置が25mm下がる純正アクセサリーのローシートが、定価の半額となる1万2760円で入手できる。

タンデムライディング ★★★★★

オフロード性能を重視したトレールバイクは、タンデムライディングがいまひとつ……というケースが少なくないものの、アドベンチャーツアラーのVストローム250SXは非常に快適で、1人乗りと変わらない感覚で走れた。以下はタンデムライダーを務めた富樫カメラマン(身長172cm・体重52kg)の言葉。「過去にこの企画で取り上げたジクサーSF250とVストローム250も好感触だったけど、あの2台に負けず劣らず、SXもすごくいいね。シートの座面は面積が広いうえに、尻にピッタリくっついてくれる感触があるし、グラブバーは握りやすい。あえて言うなら、ステップ位置はもう少し低くしたいけど、その点は体格によりけりかな」

取り回し ★★★☆☆

押し引きはべつに重くないのだが、小回りは思ったほど利かないし、林道の行き止まりでUターンをしたときは、ハンドルを切り返す回数が意外に多かった。その主な理由はこの種のバイクとしては少なめ、ジクサー250と同じ35度のハンドル切れ角で、最小回転半径は2.9m(軸間距離がVストローム250SXより95mm短いジクサー250は2.6m)。ちなみに、ホンダCRF250L/ラリーは45度・2.3mで、セロー250は51度・1.9m。

ハンドル/メーターまわり ★★★★☆

コクピットの雰囲気は既存のVストローム250とよく似ている。とはいえ、前述したようにハンドルの絞りは少なめで、スクリーンは横幅が控えめ。バーグラフ式のタコメーターと燃料残量計を備える液晶メーターもVストローム250に通じるデザインだが、表示内容や警告灯の配置を改めた新作で、左側面にはUSB電源を設置。なおインド仕様が導入したメーターとスマホのコネクト機能を、日本仕様は省略している。

左右スイッチ/レバー ★★★☆☆

オーソドックスな構成の左右スイッチボックスとグリップラバーは、ジクサー250と共通。ナックルガードとバーエンドウェイトは、車両に合わせた専用品のようだ。ブレーキ/クラッチレバーに位置調整機能はナシ。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★★

ガソリンタンクと内腿のフィット感はすこぶる良好。Vストロームシリーズ全車に通じる構成のラジエターシュラウドは、下半身に当たる走行風の緩和に貢献しているはず。シートはアドベンチャーツアラーならではのデザインで、前後とも十分な面積と肉厚を確保。ちなみにトレールバイクのシートは、もっと細身で前後一体式が定番。

ライディング中の違和感は無かったけれど、意外なことに専用設計されたステップの位置はジクサー250と大差がない(写真で比較すると、わずかに前方かつ下方のように見えるが)。バーはラバーを取り外せばオフロード走行に適したギザギザ仕様になる。ステッププレートは十分なホールド感が得られるものの、もう少し内側に追い込めば(現車で確認したところ、左右とも3cmくらいはイケる)、車体のスリムさが強調できそう。

積載性 ★★★★★

標準装備のリアキャリアとタンデムシート上面がツライチになっていることは、ツーリング時の荷物積載を考えると大変ありがたい。とはいえ、リアキャリア下面に備わる4つのフックの位置と、筆者の私物であるタナックスWダブルデッキシートバッグとの相性はいまひとつで、タンデムステップブラケットのフックを使わないと安定感は得られなかった。タンデムシート下の収納スペースはごくわずかだが、ETCユニットの収納は可能。

ブレーキ ★★★☆☆

バイブレの前後ブレーキキャリパーはジクサー250と共通。ただし増大した車重に対応するため、ディスクは外径を300/220mm→310/240mmに拡大している。なお前後ブレーキに関しては、基本的な利きとコントロール性は必要にして十分なのだが、オフロードの下り坂ではリアのABSの介入が早すぎる感があって、任意でオフにできないことがもどかしかった。

サスペンション ★★★★☆

もっとストロークが欲しい、もっとダンパーを利かせたい、などと感じる場面はあったものの、コストを考えると、前後サスペンションは堅実な仕事をしている印象。19インチの前輪とラジエター/フレームとの干渉を避けるため、φ41mmフロントフォークはアクスルが前方にオフセットしたリーディング式で、リアサスはジクサー250と同様の直押し式。調整機構はリアのプリロードのみで、オフロードでは標準の3から弱める方向、1か2にしたほうが好感触だった。

車載工具 ★★★☆☆

シート下に収まる車載工具は、L型六角棒レンチ×2、差し替え式ドライバー、両口スパナ×2(10/12mm、14/17mm)、ドライバーの持ち手にもなるプラグレンチの6点。現代のバイクでは平均的な点数だが、既存のVストローム250の車載工具がリアショックのプリロード調整用フックレンチやプライヤーを含めた9点という事実を考えると、ちょっと残念。

燃費 ★★★★★

34.6km/ℓの平均燃費は、過去にガチ1000kmで取り上げたジクサーSF250と同様。今回は行っていないものの、ジクサーSF250でほぼ高速道路のみを走ったときの燃費は40.3km/ℓだった。ガソリンタンク容量は12ℓなので、平均燃費から割り出せる航続可能距離は、34.6×12=415.2km。なおライダーに給油を促す燃料警告灯の点滅は残量が約2.8ℓになってから始まるので、今回の試乗では1度しか点滅を見ていない。

既存のVストローム250には3つのケースを純正アクセサリーとして設定しているスズキだが、ツーリング性能よりスポーツ性を重視しているからだろうか、Vストローム250SX用は現状ではトップケースのみ。

主要諸元 

車名:Vストローム250SX
型式:8BK-EL11L
全長×全幅×全高:2180mm×880mm×1355mm
軸間距離:1440mm
最低地上高:205mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:27°/97mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:249cc
内径×行程:76.0mm×54.9mm
圧縮比:10.7
最高出力:19kW(26PS)/9300rpm
最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/7300rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.687
 3速:1.315
 4速:1.111
 5速:0.954
 6速:0.826
1・2次減速比:3.086・3.07
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:100/90-19
タイヤサイズ後:140/70-1
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:164kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:44.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:34.5km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…